襲撃・6

 ズドオッ


 空中で鋭く回転して、旋風脚パラフーゾを敵の側頭部に叩き込むライアン。そのまま、相手は糸の切れた操り人形のように倒れていった。


 本来であれば、隙が大きくかわされやすい技なのだが、ユニークスキルにより半獣化した今のライアンの筋力を使えば、そのスピードとキレは通常の倍以上となり、域にまで、達していた。


 全身のバネが豹のようになるという、この性能を最大限に生かす為、最も相性が良いと感じた“カポエイラ”を自身の戦闘手段に選んだのは、正解だったと言える。



「あっという間に、俺一人……これが、五大ギルドの冒険者か。なるほど、これだけの人数を用意させられたのも納得だ」



 横たわる仲間たちを見ながら、最後に残された一人の兵士が呟いた。



「安心なさい。アンタも、すぐに楽にしてあげるわ。殺さない程度に、ね」



「大した余裕だな。ユニークスキルが、冒険者の専売特許だとでも思ってるのか?」



 最後の兵は、そうやって不敵な笑みを浮かべると、驚いたことにライアンと同じように身体を変化させていく。金色の瞳、鋭い牙、隆起する筋肉……これは、間違いなく半獣化の様相であった。



「へぇ……まさか、アタシと同じ獣化スキルとは。お目にかかるのは、初めてだわ」



 兵士のユニークスキルは【一匹狼】。集団戦むれから自分一人いっぴきの戦況に変わった時のみ、狼の半獣化を実行できるという隠し持っていた切り札だった。


 このスキルを発動させる為、自らは最後方に位置取り、わざと安全策を取っていたのである。



「お前の首を獲って、俺が報酬を全て頂く!!」



 ドンッ



 地面を力強く踏み込んで、一瞬の間に相手との距離を縮める狼男。その流れのまま突き出したナイフが、ライアンのほほかすめた。



(凄まじい突進力……!!)



 ブンッ



 感心する間も与えることなく、今度は高速の水平蹴りで足を払うと、ライアンの体は完全に宙に浮いてしまう。



「貰ったァ!!」



 そこへ、狼男の右足が真っ直ぐ天に向かって突き出された。そのまま、下へと振り下ろされればライアンの胴体に強烈なかかと落としが炸裂することになる。



「フォーリャ……セッカ!!」



 しかし、女豹はその上を行く。


 転ばされた勢いを利用して体を捻ると、アッパー気味に狼のあごへと、逆に自らの硬いかかとをお見舞いした。



「か……はっ」



 モロに顎を砕かれた狼男は、そのまま両膝から崩れ落ちると、そこに着地したライアンがトドメの一撃を狙い澄ます。



 ずどんっ



 それは、前進して自身の頭を、敵の顔面にたたきこむというシンプルな頭突き。カポエイラの“カベッサーダ”と呼ばれる技であった。


 すでに、最初の技“フォーリャ・セッカ”で、ある程度のダメージは受けていたであろう兵士は、オマケの追撃まで喰らって大の字にのされる。それと同時に、半狼化の変身も解けていった。




「切り札が同じなら、あとは使で、勝負が決まるってわけ。もっと、精進するのね。お馬鹿さん」




 とはいえ、ライアンの変身も時間切れを迎えてしまったようで、みるみると元の姿へと戻っていく。




「チッ。少し、手間取り過ぎたわね……待ってなさいよ、アタシの可愛い教え子たち。今、助けに行ってあげるからねん」



 変身後に襲ってくる強烈な疲労感で息を荒くさせながらも、ライアンは休むことなく、教え子たちの戦場へと足を踏み出したのだった。





 巻島ライアン。冒険者の間で「レインボー・レパード」の異名を持つスイーパーの実力は、傭兵一個小隊にも匹敵するほどのものであることが、密かに証明された。


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