襲撃・5

 俺が感知した敵の場所に向けて、一本の矢が放たれる。


 ズドッ


 その矢は綺麗な放物線を描きながら、敵には命中…せず、そのまま地面へと突き刺さった。


 しかし、それは狙い通り。その特殊な矢は地面に刺さると、何やら機械の駆動音を鳴らしながら、周囲に電磁波を拡散させる。


 弓使いであるナギは所属するギルド「ヴァルキュリア」から、特殊な矢を何本か支給されていた。そのうちの一本が、この“ウェイブ・アロー”である。



 バチバチバチッ



 その電磁波を浴びて、周囲にいた兵士たちの光学迷彩ステルスが解除されていく。おまけに、それは脳内コンピューターにも影響を及ぼす。これで、しばらくは余計なサポートアプリを使われる心配も無いはずだ。


 奇襲は、成功だ。一際高い木の枝に体を固定させながら、矢を放った後の残心状態でいるナギも感情は乱すことなく、喜びを噛み締めていた。



 ガサガサガサッ



 直後、前線に張っていた俺が、わざと大きく足音を立てながら接近を試みる。


 くそ!なんで、撃ってこない?警戒されてるのか!?




 ウェイブ・アローが飛来する直前、別部隊から「銃は使うな」との警告を受けていた兵たちは、迷うことなく保持していた銃をその場に放棄すると、武器をナイフに持ち替えて、音のする方へと駆け出していった。



「ステップ2は、失敗!ステップ3だ。ナギ!!」



【罰則】による天罰で頭数を減らそうというのがステップ2の魂胆だったが、失敗に終わる。すぐさま切り替え、通話機能で長距離砲台に支持を飛ばした。



「【皆中かいちゅう】……オン」



 いつの間にか、後ろで髪を束ねていたナギが、とても木の上とは思えないほどの美しい射形から狙い澄ますと、今度はさっきの矢よりも勢いよく真っ直ぐに最前にいた敵の足へと命中する。



「ぐああああっ!!」



 その瞬間、全身が痙攣してバタリと倒れ込む兵士。

 命中した今度の矢は“スタン・アロー”。先端に、スタンガンのような高圧電流を発生させる装置が付けられた、殺さずに敵を制圧できる矢であった。


 正当防衛であるとはいえ、自分達も敵の命を奪うことは躊躇ためらわれる。なるべくなら、殺さずに終わらせたいというのが理想だ。



 ビュンッ!



 文字通り、矢継ぎ早に次なる矢、今度は二番目にいた敵の肩へと“スタン・アロー”が突き刺さり、リタイアさせる。




(いける…!実戦でも、私の弓は通用する!!)



 彼女のユニークスキル【皆中】は、“弓を使った時のみ、放った矢に命中補正が加わる”と、いうものだった。


 大きな軌道修正こそ無理だが、小さなズレならば自動で補完してくれる。一見地味な能力に感じるが、ナギのように射手として十分な腕がある者が使えば、およそ百発百中の命中率を有することが出来るシューター垂涎すいぜんのスキルなのだ。




「ステップ4!テン!!」



 とはいえ、弓矢は一矢一矢に装填そうてん時間が多少かかってしまう。倒れた兵を踏み越えながら、残っている兵が構わず前進を続けてくる。



「はっ!」



 そこへ、死角となる草むらで身を潜めていたテンが姿を現し、吐いた一息と共に投げつけた三枚の手裏剣のうち一つが、敵の首筋をかすめた。


 ナギの一矢とは違い、彼女の投擲武器しゅりけんは数打ちゃ当たる戦法らしい。そこらへんも、各々の性格を表しているともいえる。


 しかし、掠めた程度では一撃必倒とはならず、なおも俺のもとへ走りをやめない兵士に、臨戦態勢を取るが、邂逅しようとした瞬間……。



 どさっ



 突然、へろへろとなりながら、前のめりに膝から崩れ落ちていく兵士。若干、タイムラグはあったものの、テンの手裏剣に塗り込まれている即効性の麻痺毒が効いてきたらしい。


 しかし、改造矢に毒手裏剣とは、冒険者の武器というのは、非常に物騒だ。仲間だからこそ頼もしいが、敵だったらと思うとゾッとする。




 すると、敵の最後尾にいた人物がハンドサインを繰り出し、二名を両翼へと展開させた。おそらく、奴が部隊の指揮をとっているのだろう。戦闘力も、他の兵たちとは一線を画している。


 俺の方に向かってくる兵士は残り三名。つまりは、残存する敵戦力は“6”となるわけだ。



 テンとナギの方へ、仲間を向かわせたのか?



 なるべく、二人には敵を寄せたくはなかったが、まずは目の前に迫ってくる相手をどうにかしなくてはならない。



【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank90に代わりました

 持続効果 20分

 クールタイム 30分



 俺は、最初に襲いかかってきた兵士を迎え討つと、まずは突き出してきたナイフを、自らの腕をぐるんと巻きつけて武装解除ディザームする。


 動画で見ただけの技術でも、こうして忠実に身体が再現してくれるからありがたい。


 続けざまに短い掌打を喉元に当て、まず一人目を戦闘不能にさせた。

 今回は、出力をマスタークラスにまで上げておいた。なるべく迅速に制圧する為なのと、最後に控えているリーダー格との戦いを見据えての調整だった。


 リーダー格の戦闘力は、エキスパートクラス。しかも、何やら怪しいユニークスキル持ちだった。残念ながら、俺の【鑑定】スキルでも相手のユニークスキルの詳細までは、確認することが出来ないのだ。

 これが純粋に【鑑定】を極めた者ならば、そこまで知り得たのかもしれないが、あくまで俺の【虚飾】は仮初かりそめのrank100だということなのかもしれない。


 しかし、それでもこのスキルは強力だ。


 二人目の前足が踏み出される瞬間に、膝あたりを蹴り付けて動きを止める。中国拳法でいう“斧刃脚ふじんきゃく”というヤツだ。


 そのままバランスを崩した相手の片腕をこちらへとグッと引き付け、あごひじでかちあげた。おそらくコイツらは、防弾チョッキなども仕込ませているかもしれない。なるべく、無防備な箇所の人体へ的確に攻撃していく必要があった。



 ドサリ



 これで、二人目だ。









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