襲撃・3

 バサバサッと鳥たちが木々の間を抜けて、空へと飛び立っていく。遥か後方、ライアン先生が襲撃者を迎えに行った辺りだ。接敵が、始まったのだろうか?



 この山は基本的に、人が通る用の舗装された道などはなく、ほとんどが木々に囲まれ、標高も低い、“山”というより“森”に近い地形をしていた。


 その中でも、比較的にみて人が通りやすいルートというのは、襲撃者たちが踏み込んできた南ルートと、俺たちが進んでいる北ルートだけらしい。


 とはいえ、無理をすれば全方位から侵入は可能といえば可能。俺らは、なるべく周辺の警戒に気を配りながら、ゆっくりと下山を行っていた。



【虚飾】が、【目星】rank100に代わりました

  持続効果 5分

 クールタイム 15分




「……ん?ちょっと、待った!」



 遥か前方に、何かを感知する。人のようだが、何か妙である。


 同じく、索敵をしていたナギが足を止めて、尋ねた。



「どうしたの?」


「人らしきものを、感じるんだけど……姿が、見えないんだ」


「人らしきものって……どこに?」


「ほら、那須原さんが見てる方向。感じない?」




 試しに、もう一度、目を凝らして見てみるものの、ユウトの言ってるようなものは感知できない。そもそも、感じるとは何なのか。



「……何も、見えないけど」



 ナギちゃんも相当、【目星】が高かった気がするけど、さすがに俺のrank100は異常なのかもしれない。


 すると、同じく立ち止まっていたテンちゃんが食ってかかってきた。



「ナギが見えないものを、ユウトが見えるわけないでしょ。怖くて、何かを人と見間違えてるんじゃないの?」



「いや、確かにいるんだ。姿が見えない透明人間みたいな気配が、何人か……」




 呆れ気味のテンちゃんをよそに、少し思案していた那須原さんが口を開く。




「もしかして、光学迷彩ステルスかも……」



「ステルス……姿が見えなくなるっていう、アレ?」



「そう。傭兵なら、ステルスアプリをインストールしてても不思議じゃない。それを、ユウトはとして感じたのかも」




 この時代は、透明になれるアプリまで存在してるのか。もはや、特殊な装備もいらなくなっているとは。


 俺の言うことはともかく、那須原さんの言うことは素直に聞くらしいテンちゃんは……。




「それって、こっち側にも襲撃部隊が待ち構えてた……って、こと!?」



「こっち側にもというより、こっち側がなのかもしれない」



「ど、どういうこと?」




 二人の会話に、俺の見解を挟む。



「なぜ、最初に見つかった襲撃部隊はステルスアプリを使っていなかったと思う?」



「……わざと、見つかるようにしていた?」



「おそらくは。一番の戦力であるライアンさんを、おびき出すためにね」




 そう考えると、罠にかかったのも、わざとだったのかとも思えてしまう。こちらは、完全にめられてしまったのかもしれない。




「奴らの狙いは、あくまで私たち。見習い冒険者の訓練に、指導者がいるのは周知の事実だし……私も、ユウトの考えと同じかな」



 この時、ナギは薄々ではあるものの、ユウトの異常性に勘付いていた。



(私の【目星】ですら感知できない距離の、しかもステルス化してる敵を発見するなんて。感覚特化のユニークスキル?それとも……)



 那須原さんに怪しまれてるのは、俺も感じていたが、今はそんなことを思慮してる場合ではない。




「まだ、確定したわけじゃないけど……本命の部隊だとしたら、どうする?」



 俺の質問に、明らかに焦っている様子のテンちゃんが頭をフル回転させて答えてくれる。



「どうするって……今の私たちに選べる選択肢なんて、“戦う”か、“逃げる”か、“隠れる”か。それぐらいしか、ないじゃん」



「二人の意見は?」



 質問に真っ先に答えてくれたのは、まだ冷静を保ってる様子だった那須原さんの方だった。



「まず“隠れる”は、なし。高い【隠密】スキルでもあれば別だろうけど、どのみち三人が無事でやり過ごせる可能性は低い。“逃げる”を選んでも、もし最悪の場合として、先生が倒されてしまっていたら挟撃きょうげきを受けることになってしまう」



「なら……那須原さんは、“戦う”だね。忍頂寺さんは?」



 力強く頷き、戦う意志を示してくれた那須原さんとは対照的に、テンちゃんの方はまだ尻込みしているようだった。



「戦うったって……私たち、実戦は未経験なんだよ?しかも、ここは現実世界。殺されたら、生き返れない!しかも、ライアンでも苦戦するようなプロの兵隊なんでしょ!?どうやって、勝つっていうの」




 見るからに、怯えているようだった。


 冒険者見習いとはいえ、まだ13歳の少女なのだ。怖いのは、当たり前だ。俺だって、さっきまでは恐怖で震えていたが【精神分析】を使って、むりくり自分の精神を安定させていた。



 ここで、ライアン先生の別れ際の言葉が、頭をよぎった。



(ユウト。もしものことがあったら、二人のこと……守ってあげてね?頼んだわよ)




 俺が、守らなくては……こういう時の為に、自己鍛錬を続けていたんじゃないのか?




「勝てなくても、時間を稼ぐことさえ出来れば……きっと、ライアンさんが助けに来てくれる。それぐらいなら、俺たちだけでも出来ないかな?」




 いきなり、俺が守るから大丈夫!と言ったところで、信用してもらえないだろう。俺だって、実戦で【虚飾】がどこまで通用するかは未知数だ。

 ここは何とかして、やる気を出してもらうしかない。



「なんで……ユウトは、そんなに平静でいられるの?死ぬかもしれないんだよ?怖くないの!?」



「怖いよ。一人だったら、ここで腰抜かしてるかもしれない。でも、ここには……未来の冒険者が、二人もいる!不思議と、大丈夫って気がしてるんだ」



「私たちは……ただの、見習いだよ」



「それでも……冒険者は、冒険者だ。俺の憧れてる冒険者は、凄いんだ。二人だって、ライアン先生に教わったことが出来れば、きっと立ち向かえるはずだ」




 冒険者に憧れているというのは、嘘だ。だけど、二人の強さは、この目で見て確信している。勝てないまでも、勝負にならないということは無いはずだ。


 真っ直ぐな眼差しを、数秒向けていると、こちらの気持ちが相手にも伝わったようで。




「……わかった。やるだけ、やってみる。ここで、怯えてたって、何も変わらないもんね」



「忍頂寺さん……ありがとう!」



「テンで、いいよ。その名字で呼ばれるの、あんまり好きじゃないんだよね」



 ようやく、いつもの笑顔を見せた友人の姿に、安堵の表情を浮かべながら、那須原さんも続いた。



「私も、ナギで。必ず、生き残ろう。二人とも」












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