襲撃・2

「オールグリーン。ゴー」



 先導の兵士が、足下と周囲を確認し、安全を確かめると、合図を受けた後続が銃を構えながら、少しずつ進軍する。

 全員が不気味な白のフェイスマスクを被り、顔は見えない。


 最初のトラップで、一人犠牲になり、残り5人となった傭兵部隊だったが、そこは歴戦の兵士たち。動揺することなく、二回目以降のトラップは全て回避していた。



「ストップ。前衛に、人影あり。数は、一人。臨戦態勢を整えろ」



 最前線を進行していた索敵係が発見した、モヒカンの人影は勢いよく、こちらへと駆け出してきた。



「来たぞ!撃ち方、はじめ!!」



 ズドン!ズドン!



「ぐあああっ!!」



 狙い澄ました弾丸は、人影に向かって発射……されることはなく。暴発した銃によって、いち早く発砲した兵士二名が自爆し、腕をおさえて崩れ落ちた。



「撃ち方、やめ!撃ち方、やめーっ!!」



 何が起きてるか理解できてない索敵係は、後方にいた仲間たちが倒れるのを見て、動揺する。


 その間にも、ライアンは山中の木々の間を駆け抜けながら、敵部隊との距離を縮めていた。



(副団長、助かったわ。これで、残るは三人……!)




『ヴァルキュリア』副団長・黒宮ユウカのユニークスキル【罰則】は、限定したエリアの中で指定した罪に問われる行動を行った者に対し、天罰を与えるという特殊なものだった。

 このスキルの最大の特徴は、そのエリアに【罰則】を発動させてしまえば、半永久的に継続されるということである。


 これが、銃火器の心配はいらないと言ったライアンの真意だった。


 そう、この山一帯で銃火器を使用した者には、すべからく天罰がくだるのだ。




「敵のスキルかもしれん!銃は、使うな!繰り返す、銃は使うな!!」



 相変わらず、判断は迅速で的確だ。対冒険者との経験も積んでいるのだろう、あらゆるユニークスキルの可能性を考慮しているようだった。



 しかし、そんな伝達が行われている間に、全速力のライアンがついに目前まで迫ってきていた。




(ようやく……間合いに、入ったッ!)




 走ってきた勢いそのままに、飛びかかってくるライアンへ、腕のバンドに仕込ませていたナイフを引き抜き、索敵兵が斬りかかる。



 ブンッ



 刃が当たる直前、モヒカン男の体が消えた。いや、よく見ると地面に片腕を付き、逆立ちしながら身体を半回転させ、ナイフを避けていた。

 それは到底、実戦では恐ろしくて出来ないようなアクロバティックな回避法だった。


 ズドッ!


 しかも、その回転を利用して、見事な蹴りを敵の側頭部へとヒットさせる。


 これが、ライアンの得意とする武術・カポエラの独特なムーブであった。

 その強さと、打ちどころで索敵兵が一撃で倒れると、何を思ったか、それを抱き止めてフェイスマスクを外し、素顔をチェックし始めるモヒカン男。


 それも、恐ろしく手慣れた所作で。



「あら、私好みのイケメンじゃない!助かるわ〜」



 場違いなセリフを吐くライアンに、残る二人の兵士が草むらから現れて、同時に接近してくる。

 この兵士たちと自分の近接戦闘能力は、ほぼ一緒。最初の一人こそ、奇襲で運良く瞬殺できたが、1vs2となると、さすがに分が悪いことは分かっていた。



「馬鹿な奴め、のこのこ陽動部隊に引っかかってくれるとは」



 アーミーナイフを構えながら、話しかけてくる傭兵のひとり。敵は、まだ攻撃の間合いにまでは入っていない。気を逸らさせるのも、目的なのだろう。



「陽動部隊?どういう意味かしらん?」



「まだ、分からんのか?俺たちの狙いは、敵の未来の戦力たる人材だ。お前じゃない」



「まさか……本命の部隊が!?」




 反射的に、教え子たちがいた方向へと振り返り、ライアンはようやく気付く。この部隊はおとりであり、最初から自分だけをおびき出す為だけのものであったことに。


 更に、その一瞬の隙を見逃さず、敵二人が彼の背後へと飛びかかってくる。



 ブンッ



 しかし、今回もそれは空振りに終わる。

 敵も馬鹿ではない。先ほどライアンが見せた動きを、もう学び、やや下方気味に刃物を当てようとしていたのだが……。




「アタシの、可愛い教え子たちに何かあったら……テメーら、タダじゃすまねぇからな!!!」



 ライアンは、宙にいた。



 凄まじい跳躍力で、二人の攻撃を回避していたのである。そして、彼の瞳は金色に、口の中には二本の牙が生えていた。そして、心なしか腕と脚の筋肉が、膨張しているようにみえる。



「なんだ?ユニークスキルか!?」




 巻島ライアンのユニークスキル【女豹】は、性的興奮を感じることで、身体の一部が獣化し、人ならざるバネを得るというものだった。


 わざわざ、マスクを剥ぎ取って兵士の顔を確認したのも、このスキルを発動させるトリガーだったのだ。鍛えられた男というのは、ライアンにとって格好の餌だ。若い男だろうが、ダンディーな中年だろうが興奮できる。



 くるくると身体を捻らせながら、華麗に着地を決めたモヒカン頭の冒険者は、尖る牙を光らせながら、相対する敵兵に鋭い威嚇を放つ。




「冥土の土産に、見せてやるよ……アタシの、本当のってヤツをなぁ!!」






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