襲撃・1

「安心しなさいな。襲撃を受けることなんて、滅多にな……」



 ブーッ!ブーッ!!



 先生の言葉を否定するかのような絶妙なタイミングで、耳障りな警報が地下室に響く。冷静そうなナギちゃんも、その音に動揺を見せている。



「先生!この警報は……?」



「あらあら。誰かが、トラップを発動させちゃったみたいねん」



 さすがは先生、取り乱すことなく近くの白い壁をタッチすると、そこに幾つもの防犯カメラのような映像がホログラムで表示される。


 その前に、気になるワードがあった。



「トラップ?」



「この山には、対襲撃者用にいくつものトラップが仕掛けられてるのよ。言ってなかったかしらん?」



 聞いてないし!てか……よく俺、無事に中に入れたな。まさか【回避】スキルが、トラップにも発動してくれていたのか?高性能すぎるだろ。


 壁に投影された映像に、他の三人が集まる。これが監視カメラの映像で合ってるとすると、これほどの数が仕掛けられていたということにも驚愕してしまう。



「さ〜て、ユウトみたいな一般人か、野生の動物ちゃんか。どっちかだったら、良いんだけどねん」



 どっちも、倫理的にはアウトだろとは思うが、俺たちの安全を考えればそうだ。



「先生!いました!!」



 ここでも、目の良さを発揮して一番にナギが指差した一つの画面には……。



「これは……残念。考えうる限り、最悪のケースだわね」



 三人の間から、ひょっこりと顔を出し、同じ画面を共有すると、そこには迷彩服にゴツい銃器を構えた軍人然とした連中が複数人、周囲を警戒しながら侵入してくる様子が映し出されていた。


 テンも、一気に真剣な表情へと変わり、先生に質問する。



「襲撃者ですか?」



「ええ。しかも、あの装備と身のこなし。冒険者じゃなく、金で雇われた傭兵部隊ね」



「『漆黒の鎌』が、雇ったんですか?」



 敵対組織の戦力を減らそうとしてるってことは、狩場が同じレベルの敵と考えるのがセオリーだ。だとすると、同じ五大ギルドのどれかの差し金だと思うのは当然のことだった。



「そこまでは、分からないけど。慎重な相手であることは、間違いないわね。傭兵なら、例え失敗したとしても、足はつきにくいからねん」



 悠長に喋る二人に、俺がツッコもうとする前に、ナギが切り出してくれた。



「それより、どうするんです?相手、結構な手練てだれ揃いですよ。トラップも、警戒されちゃっただろうし……おまけに、銃まで所持してます」



 確かに、思った以上の重装備だ。それだけ、冒険者という存在は警戒されるということか。

 そして、画面越しに【鑑定】しただけでも、プロ級の戦闘者揃いだ。



「銃の方は、気にしなくていいわ。ただ、数が多いわね。ざっと見でも、5人以上……アンタたちを守りながらじゃ、さすがのアタシでもキツいかもね」



「なら、ここで籠城ろうじょうしますか?本部からの増援が来るまで、待つとか……」



「籠城したとしても、時間は稼げないでしょう。ここの扉も、そこまで頑丈には作られてないし。一挙に押しかけられたら、密室戦闘ではアタシたちの方が不利になる」



 銃は気にしなくていいとは、どういうことだ?

 そんなことより、急に緊迫感が押し寄せてきた。

 命の危機を実感したのか、心臓の鼓動が早まる。


 それは、ワルガキも一緒だったようで。



「じゃあ、どうするんです!?私たち二人は、実戦経験無いし……ユウトに限っては、素人ですよ?」



「知ってるわ。だから……アタシが、行く。一人でね。アンタたちは、その間に逆方向から逃げなさい」



「え?でも、さっきキツいって……」



「アンタたちを守りながらだったらね。、イケるわ」



「でも……そうだ!先生も、一緒に逃げるのは?」



 テンちゃんなりに、先生の身を案じているのだろうか。優しいところも、あるんだな。



「それは、無理よ。プロってのは、しつこいからねぇ……今は逃げ切れたとしても、またいつ狙ってくるか分からない。今後の安全の為にも、奴らは“今”叩いておくべきなのよ」



「先生……」



「実戦練習は、また後日になっちゃうわね。テン、楽しみにしてたのに、ごめんなさいね」




 先生の優しい笑顔に、テンは何も言わなくなった。なくなく、納得したのだろう。

 その様子を見た後、次はナギに向かって話しかける。



「まだ、他にも敵が潜んでるかもしれない。あなたは、目が効く。逃げる途中も、常時警戒を怠らないように。いいわね?ナギ」



「了解です。先生……ご無事で」



 ナギの言葉に、こくりとうなずく先生は、最後に俺の方へ顔を向けた。



「ユウト。厄介ごとに巻き込んじゃって、ごめんなさいね。アナタに、冒険者としての素養を感じて、つい……ね。本当よ」



「いえ、全然!勉強に、なりました。短い時間でしたけど、ありがとうございました」



「そう言ってくれて、嬉しいわ。家に帰るまでが、訓練だからネ。気をつけなさい」




 最後の最後、先生は俺にだけ聞こえるほどの音量で、言葉を付け加える。




「ユウト。もしものことがあったら、二人のこと……守ってあげてね?頼んだわよ」




 こちらの肩をポンと叩いて、上手なウインクを向けてくる先生。もしかして、俺の“力”に気付いていたのだろうか。







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