冒険者・6

「ギルドは、協会公認のものだと国内だけでも百以上。非公認のものも合わせれば、千は越えると言われているわ」



「協会とか、あるんですね」



「ええ。国際冒険者協会、通称IEA。加入すれば、様々な支援を受けられたり、協定を結ぶことで現実世界での他ギルドとの争いを回避できたりする。もちろん、加入条件は厳しいけどねん」




 つまり、そういう協定がないとダンジョン以外の現実世界でも戦闘が起きかねないってことか。せっかく苦労して持ち帰った秘宝を、こっちで奪われたら、たまったもんじゃないもんな。




「今日は、時間もないし日本を代表する五つのギルドについて教えてあげる。国内の冒険者にトップギルドは?と聞いて候補に挙げられるのは、大体はこの五大ギルドのうちのどれかよ。テン、さすがにこれは分かるわよね?」



 退屈そうに、伸びをしていたテンちゃんが指名されて、慌てて姿勢を正す。




「も、もちろん。えっと〜、まずは『日本国調査団』?」




 おっ、父さんのギルドだ!父さんのことは、わざわざ言わなくてもいいか。ややこしくなりそうだし。




「そうね。『日本国調査団』は、国が運営する唯一のギルドだけあって、その規模はトップクラスよ。所属する冒険者は公務員扱いになるから、収入も安定しているらしいわ」




 ようやく、興味の湧く話題になったのか、静かだったナギちゃんが話に加わってくる。




「その代わり、自由度は低いんですよね。ほとんど、国が主導で攻略方針を決めるとか?」



「そうね。そういう意味でも、冒険者というより公務員っぽいかもねん。だから、あんまり若い子は所属してないのよ。家族を持って、安定した暮らしを求めるベテラン冒険者とかが多い印象ね〜。テン、次」




 もしかして……父さんも、俺たちの為にそのギルドに入ってくれたのかな?考えすぎか。




「全部、私ですかぁ!?も〜……あとは、あれだ!竜宝財団の!!」



「まぁ、いいでしょ。正解。『竜宝財団・エクスプローラー』。その名の通り、竜宝財団が運営する私設ギルドね。莫大ばくだいな資金力で、優秀な人材を集めてる。ほとんどが、スカウトで入ったエース級の冒険者で、少数精鋭のイメージが強いわ」




 超巨大なスポンサーみたいなもんか。スポーツでもあるもんな、金にものを言わせて有能なプレイヤーを根こそぎ持ってくパターン。



「次は、えっと……『漆黒の……』なんだっけ?」



 すぐさま、近くの友人に助けを求めるテンさん。

 すると、その友人は呆れ顔で即答した。



かま。あと一文字じゃん、『漆黒の鎌』」



「そうだ!それだ!!」



 そのやりとりを見て、やれやれといった感じで首を横に振る先生。



「どんだけ、他のギルドに興味ないのよ?アンタ。『漆黒の鎌』は、五大ギルドの中でも最古参のギルドで、歴史も古いわ。それだけに、歴戦の冒険者も多い。模範的なギルドだったんだけどねぇ……」



 だった?過去形ということは、今は違うのか。

 そんな心の中の疑問に答えてくれたのは、ナギちゃんだった。さっきの話といい、そういう界隈の噂話とか好きなのかもしれない。



「今は、良い噂をあまり聞きませんよね。裏社会の人間と繋がってるとか、ギルド内でも派閥が出来てるとか」



「まぁねぇ。古いギルドだから、それなりに問題も増えてくのかもねん。アタシたちには、関係ないことだけど。テン、ネクスト!」



 俺は、見ていた。先生の目を盗んで、テンちゃんが脳内コンピューターを使ってカンニングしていたことを。

 まぁ、黙っといてやるけど。



「はい!『リインカーネーション』です!!」



「急に、自信満々ね……正解よ。『リインカーネーション』は、最近になってメキメキと頭角をあらわしてきた新進気鋭のギルドね。それだけに、まだ詳細も分かってなくて。ナギ、そういうの詳しいでしょ?何か知ってるかしらん」




 やはり、先生にも認知されてるぐらい、ナギちゃんの冒険者雑学は深いのか。




「そうですね……6人の冒険者から始まって、大きくなっていったみたいなんですけど。その始まりのメンバーが、凄いらしいです。軒並み、S級クラスとか。今は、個々が各隊の幹部となって、6チーム編成で動いてるっていう話です」



「相変わらず、凄い情報収集力ね……どこで、拾ってくんのよ」



「8ちゃんねるの掲示板とか?地下系のサイトとかに、たまに転がってますよ。もちろん、真偽のほどは微妙な時もありますけど」




 そんなん、まだあったのか。ネットの闇、恐るべし。




「まぁ、いいわ。最後に、紹介するのが『ヴァルキュリア』。私たちが所属するギルドよん」




『ヴァルキュリア』……五指ごしに入るほどのギルドだったんだ。俺なんかに見栄を張っても仕方ないし、本当の事実なんだろう。



「特徴は、何といっても所属するメンバーが、全員……“女”だって、ことかしらね」



「……女?」



 不審な目で、先生の顔をジッと見つめる俺の言いたいことを、向こうも察してくれたようで。



「ちょっと、訂正……身体か、のどちらかが“女”であること!それが、うちに入る為の最低条件よ。うちの団長の方針でね」



 だから、俺は入らないみたいなこと言ってたのか。心が女性の人も受け入れてるあたり、差別的な感じではないのかも。

 ついでに、さっきあった話も突っ込んでみよう。



「この中にも、あったりするんですか?野蛮なギルドみたいなの。聞いた話じゃ『漆黒の鎌』あたり、怪しいですけど」



「かもね、平気でダンジョン外でも戦闘を仕掛けてくるような三下に、成り下がってるみたいだからねん。今の『漆黒の鎌』の連中は」



「えっ。協会に入ってるギルド同士なら、ダンジョン外の戦闘とかって、禁止されてたりしないんですか?」



「してるわよ。ただ、それは正式に団員として昇格したE級以上の冒険者たちにのみ、当てはまる」




 それって、どういうことだ?正式に昇格してない団員って……。


 悩んでいる様子の俺を見て、何でも知ってるナギ先生が答えてくれた。




「つまり、狙われるのは見習い冒険者……私たちみたいな未来の戦力を、影で狙ってるの。そういう奴らは」



「えっ!?」



「実は、メインの訓練場も他にあったんだけど、そこが襲撃を受けたから、この臨時の訓練場まで足を運んできたんだよ。私たちは」




 マジかよ。じゃあ、ここも……結構、ヤバいかもしれないってこと?















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