冒険者・4

「確か、このへんだったはず……っと」



 モヒカン男、もといライアン先生が茂みの一帯を強く踏みつけると、ゴゴゴゴゴ………という地面が割れる音と共に、地下へと続く隠し通路が出現した。



「これ……」


「驚いた?地下に、ちょっとした施設があってね。座学や休憩は、そこで行うわ。ついてきなさい」




 山で訓練なんて、この時代に原始的だなと思っていたが、まさか隠してあったとは。




 薄暗く狭い地下へと続く階段を、縦一列になりながら進んでいくと、先頭でスティックライトを掲げながら、ライアン先生が話を切り出す。



「そういえば、自己紹介がまだだったわねん。移動がてら、済ませちゃいましょうか。私の名前は巻島ライアン。現役の冒険者をしながら、たまにこうしてコーチングもしたりしてるわ。この子たちが、今日の教え子。ほら、テン」


「あ、えっと。忍頂寺テン、13歳。ポジションは、ランナー兼スイーパー……よろしく」



 名前と年齢は知っていたが、聞いたことない情報が舞い込んできた。



「ポジション……なんの?」



「はぁ?アンタ、冒険者を目指してるくせにポジションも知らないの!?」



 軽く怒られた。それだけ、冒険者の間では常識的なことだったのだろうか?やばい、嘘がバレてしまう。


 その時、咄嗟にライアン先生のフォローが入る。



「まぁ、そんな子だっているわよ。さっきも、独学で練習してたっぽいし。せっかくだし、後でワタシが色々と教えてあげちゃおうかしら!」



 なんか変な意味に聞こえるのは、俺がいけないのだろうか。ただ、まあ疑われずには済んだようだ。



「独学の練習って……あれ、ただのヒーローごっこじゃなかったんだ」



 おテン様の辛辣な一言が、俺の胸へと突き刺さる。

 やっぱ、あの練習法は第三者から見ると、そんな風に捉えられるんだなぁ……次からは、もっと気をつけよう。うん。



「私は、那須原ナギ。テンとは、同級生。ポジションは……分からないだろうけど、シューター」



 流れでサラッと自己紹介を済ます、ナギさん。

 なんか、バスケっぽいポジションだな。



「よろしくお願いします、皆さん。俺の名前は、植村ユウト。えっと、年齢は14歳で……」



 ポジションはセンターです!とか、余計なボケを挟もうかと考えてると、先頭から二番目の位置に歩いていたテンちゃんが、驚きの声をあげた。



「ウッソ!年上?同い年か、年下かと思った……てか、14歳でヒーローごっこて」


「あれは、特訓!ヒーローごっこじゃないから!!そこんとこ、ヨロシク」



 さすがに、訂正しとかないと今後もずっと言われる予感がしたので、慌てて反論する。


 すると、すぐ前を歩いていたナギちゃんが「ぷくく……っ」と笑いを我慢している様子を見せた。どうやら、何かがツボに入ったようだ。それか、笑われてるだけなのか。



「おまたー。着いたわよん!」



 ギイイイイイ……



 重厚な扉が開く音と共に、薄暗かった階段に光が差し込まれる。


 扉の先には、真っ白なモデルルームのように無機質で広い部屋が広がっていた。体感では、学校の教室より一回り大きいぐらいだろうか。




「さ!まずは、座学からよ。ユウトもいることだし、今日は特別に基礎からおさらいしていきましょうか!」


「え〜!?座学なんて、一番退屈なのに……それもこれも、全部ユウトのせいだ」



 ジト目で俺に怒りをぶつけてくるテンちゃん。

 怖いというより可愛らしいし、何より、いきなり名前で呼ばれてドキッとしたくらいだ。


 そんな心情が表情に出てしまっていたのか、それを見た彼女に、再び言葉のナイフを刺される。



「なに、ニヤニヤしてんの。きもちわる」



 ……このガキゃ〜。所詮は、まだ13歳。子供じゃ、子供!俺も、子供だが。




 各自、荷物を部屋の端の床に置き、生徒三人がパイプ椅子に座らされると、ライアン先生がホワイトボードを持ってきて、簡易的な教室が出来上がる。


 地下室は広くて綺麗な内観だったが、用意されていた備品等は前世の時代さながらの、アナログなものばかりだった。



「まず、ポジションを説明する前に、ダンジョンについて説明するわ。さすがに、ダンジョンぐらいは知ってるわよね?」


 念の為、俺の目を見て確認を取ってくる先生。



「それぐらいは、はい。ゲートの向こう側に広がってる空間……のこと、ですよね?」



「ザッツ、ライト!その空間は千差万別で、この部屋ぐらいの広さもあれば、島ぐらいの規模になるものまで、存在してるわ。そして、ゲートに入り、ダンジョンの入口に立つと始まるのが“ミッション”よ」



「それも、聞いたことあります。具体的には、どんなミッションとかがあるんですか?」



 流れで質問してみると、先生は「う〜ん」と少し悩む素振りを見せてから、最後方に座っていたナギちゃんを指差した。



「おさらいよ。ナギ、答えてみなさい」



「えっ、あ、はい。ミッションは、大きく分けて四つに分類されます。宝を守るクリーチャーと戦う“バトルミッション”、トラップを越えながら最深部を目指す“アスレチックミッション”、謎を解いて迷宮から脱出する“エスケープミッション”、特殊なゲームで生き残らなくちゃならない“サバイバルミッション”……こんなところですかね。合ってます?」



「さすが、ナギね。正解よ。レアなものでいえば、それらの複合型ミッションとかあるにはあるけど、大まかに言えば、大体のミッションはその四つに分けられるわ」



 ダンジョンっていうから、てっきり洞窟みたいなとろで出てくるモンスターと戦うのかと思ってたけど、かなり想像と違ったな。



「…と、このように。ただ腕っぷしが強いだけでは、クリアできないようなミッションも多い。だからこそ、各ミッションに対応した専門職が必要となってくるわけね」



 ライアン先生の言葉に、ようやくピンと来た。



「それが、ポジション!?」



「ふふっ、そうよ。では、ポジションの説明に移りましょうか」







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