冒険者・3

「どしたの?アタシの顔に、何かついてる?ボウヤ」


「あ、いえ!何でも。それじゃ、自分はこのへんで……」



 なぜに冒険者が、こんな何も無さそうな山を所有してるのかなど疑問はいくつかあったが、厄介なことに巻き込まれそうな気がしたので、即退散の方針は変えずに行く。




 そそくさと立ち去ろうとするユウトの背中へ、ライアンは何を思ったか、足下にあった小石を拾い上げると、彼の後頭部へと目掛けて放り投げた。



 びゅんっ



 結構なスピードで投射された小石だったが、ユウトはそれが当たる直前に、頭を小さく動かして回避する。もちろん、ノールックで。


【回避】のパッシブ効果が、発動したのだ。



「えっ?えっ!?」



 突如、後ろから飛んできた石の存在に、体が勝手に反応したことで気付いたユウトは、恐らくを投げたであろう犯人を、振り返り見た。



「……やっぱり、只者じゃないわね。どう?ボウヤ。良かったら、アナタも私たちの訓練に参加してみない?」



「はぁ?く、訓練?」



 まずは、石を投げたことを謝るのが先だろうが!小さいとはいえ、あのスピード。直撃してたら、大変なことになってたかもしれないんだぞ。



「そう、訓練。実は、アタシ……冒険者なのよねん。ボウヤが憧れてる。本当よ?」



 それは、もう知ってる。というか、冒険者になんて憧れてないし、憧れてたとしても、こんな感じの冒険者ではない。

 訓練ってことは、ここは『ヴァルキュリア』?だっけかの訓練用の土地なのか?

 何にせよ、ここはやんわりと断ろう。いきなり、背後から石を投げつけてくるような奴の訓練なんて、考えただけでも恐ろしい。




 その時、モヒカン男の後方から今度は若い制服姿の女子が二人、こちらへ向かって歩いてきた。


 ……ちなみに、どちらも美少女だ。




「いつまで、話してるんですかー?センセー。早く、訓練始めたいんですけど」



 さきほどの【鑑定】の効果が継続中だったのか、その気はなかったが、視界に映った二人のステータスを勝手にスキャンしてしまう。




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 忍頂寺テン

 13歳(女)日本出身

「ヴァルキュリア」所属 見習い冒険者

 身体能力 C+


 スキル

【芸術(パルクール)】rank61

【跳躍】rank60

【投擲】rank59

【手さばき】rank50

【聞き耳】rank50

【近接戦闘(古武術)】rank23


 ユニークスキル【不忍しのばず】rank -


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 黒髪ポニーテールの快活そうな少女、やはり彼女らも同じギルドの冒険者らしい。センセーって呼んでたし、あのモヒカン男が指導者ってところか。


 てか、軒並みスキルのrank値が高い。この年齢で、ここまでって、初期値から凄かったのか、それとも壮絶な特訓をしてきたのか、その両方か……。




「ちょっと、テンってば!すみません、先生。大人しく待ってるように言ったんですけど、聞かなくて」



 そのテンちゃんの後を追うようにして、茶色い長髪の子も自分たちのそばまでやってくる。活発そうなテンちゃんとは対照的に、クールビューティーな雰囲気を纏った子だった。



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 那須原ナギ

 13歳(女)日本出身

「ヴァルキュリア」所属 見習い冒険者

 身体能力 D


 スキル

【目星】rank77

【射撃(弓矢)】rank62

【読唇術】rank39

【魅惑】rank36

【近接戦闘(合気道)】rank34

【変装】rank12


 ユニークスキル【皆中かいちゅう】rank -


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 またしても、凄い能力値だ。冒険者を目指してる人間は、これぐらいのアベレージがマストなのか?


 ……に、しても13歳とは。俺の一つ下の年齢とは思えん大人びた容姿だ。二人に言えるが、冒険者なんかよりモデルとかアイドルとかを目指した方が、安全に稼げるのでは?などという、いらぬ老婆心が出てしまう。




「このボウヤ、冒険者を目指してるらしいのよん。良かったら、アタシたちの訓練に参加しないかっておさそいしてたと・こ・ろ」



 モヒカン男から状況を説明されると、テンちゃんの顔が怪訝けげんそうな表情へと変わる。





「参加させるって……思いっきり、部外者ですよ?本気で、言ってるんですか!?」



「あら、別に他のギルドに所属してるわけでもなさそうだし、いいじゃない。未来ある若い冒険者たちを育てていくのも、これからは大事になっていくのよ?近々、アカデミーも開校することだし」



「いや、でも!育ったところで、絶対にウチには入らないじゃないですか。男なんだから」



 ヒートアップしそうなテンの肩を後ろからポンと叩いて振り向かせると、「諦めろ」と言わんばかりに、黙って顔を横に振るナギ。


 ライアンという人物が、どれだけ頑固か知ってた彼女は、とにかくこのくだりを早く終わらせて特訓へと移行したかったのだ。


 親友でもあるナギの言わんとしてることを汲み取って、テンも渋々だが納得する素振りを見せるが、親友にだけ見える角度で口をパクパクと動かした。



(ぜったい、したごごろある。らいあんのすきそうな、かおのたいぷだもん)



【読唇術】のスキルを有していたナギは、見事に伝えたいことを読み取って、思わずクスッと笑ってしまった。その笑顔を見て、わずかばかりテンの溜飲も下がったようだ。




「あ、でも……ちゃんと参加したいか、本人の口から聞いてなかったわねん。改めて、どうする?ボウヤ」



 質問と同時に、三人の視線が一斉に俺へと集中する。



「お、俺は……」



 頭の中で天秤が出現し、片方にはモヒカン頭のマッチョメン、片方にはタイプの違う美少女ふたりが乗せられた。重くなったのは……。



「やります!参加させてください!!」



 ……もちろん、美少女ふたりの方だった。









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