冒険者・2

 ようやくハッキリと、人影を目視できる距離まで歩いてきたライアン一行。


 その姿を見て、テンが呟く。



「やっぱり、一般人みたいだね。小学……いや、中学生くらいかな。それにしても、派手にやってるわ〜」



 ナギの報告通り、少年はまるで見えない何かと戦ってるような立ち回りを繰り広げていた。


 一般人が見れば、子供がよくやるヒーローごっこ、もしくはアクション演劇の練習かと思ってしまうような動きだったが、ライアンは一目で違和感に気付く。



(あの動き……素人の動きじゃないわね。に、しては格闘技経験者の動きともまた少し違う。戦闘系のユニーク持ちか?)



 思案して動かなくなるライアンに、せっかちなテンが催促をかける。



「話しかけないんですか?私が、行ってきましょうか?」


「ん、ああ。いいわ、私が行く。あなたたちは、ここで少し待ってなさい。いきなり、この人数で押しかけても向こうは混乱するでしょうからね」



「はぁ……わかりました」




 一人、少年のもとへと歩いて行くライアンの背中を見送りながら、テンがボソっとナギに呟いた。



「あの人だけで、十分に混乱するよね?鏡とか、見たことないのかな」


「自分の容姿なんだから、見慣れちゃってるんじゃない?私たちだって最初、先生を見た時はビビッてたけど、もう慣れてるもん」


「それなー。大丈夫かな、あの子」





 そんな心配されてるとは露知つゆしらず、エキスパートクラスの幻影と戦っていた俺は、トドメの一撃を放ってようやく、接近してくる人の気配を察知した。



 しまった、誰だ!?



 ここで特訓を始めた当初は、常に誰か来てないか【目星】や【聞き耳】で警戒をしていたのだが、慣れというのは怖いもので、その警戒心は次第に薄れていってしまっていた。


 別に、やましいことをしてるわけじゃないのだから、見つかっても問題ないっちゃないのだが、アレだ。エッチなことをしてる時に、いきなり母親が部屋に入ってきた感覚に似ている。




「あらら、邪魔しちゃったかしらん?ごめんなさいね〜、ボウヤ」




 いや、どこからつっこんでいいのか悩んでしまうぐらいにキャラが濃い人が来た。めちゃくちゃ怖い風貌なのだが、オネエ口調が何とかその恐怖を和らげてくれている。



「えっと……あの……」



 動揺して言葉が出てこない俺に、その人は優しい口調で話しを続けた。



「悪いけど、ここ、私たちの私有地なのよねん。知らなかったかしら?」



「え、あ……知りませんでした。すみません!自然保護区だってことぐらいしか、認識してなくて」




 この山、私有地だったのか。もっと、ちゃんと調べておくんだった。仕方ない、この場所で特訓するのはもう諦めよう。




「いいの、いいの。注意書きの看板も、倒れちゃってたから。こちらのミスでも、あるからねん」



「あ、ありがとうございます!もう、勝手に足を踏み入れたりしないので……」




 良かった、優しそうな人で。「詫びに、指詰めろゴラァ!」とか、いきなり豹変されたらどうしようかと思った。ここは、さっさと退散しよう。




「ところで、あなた。ここで、なにやってたの?派手に、動き回ってたけど」



 うぐっ、やっぱり見られてるよね〜。しかも、見てみぬふりじゃなく詰めてくるタイプの人だったか。

 さて、なんて説明するべきか……。



「と、特訓です!強くなるための」


「何の為に、そんなに強くなりたいの?」


「えっと……ぼ、冒険者になりたくて!将来」




 父親の顔が浮かび、咄嗟に嘘をついてしまった。

 正直に説明するのも長くなるし、強くなる為の特訓というのは間違いではない。




「へぇ……冒険者にねぇ」




 なんなんだ、この人。さっさと俺に帰って欲しいんじゃないのか?よくよく考えたら、こんな奇抜な格好の人間が山の所有者……本当か?


 人を見た目で判断するわけではないが、この人物が何者なのかは気になるところだ。俺は、会話を続けながら、しれっとスキルを発動させた。



【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました

 持続効果 5分

 クールタイム 1分


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 巻島ライアン

 28歳(男)ブラジル出身

「ヴァルキュリア」所属 B級冒険者

 身体能力 B+


 スキル

【近接戦闘(カポエラ)】rank70

【運転(バイク)】rank65

【威圧】rank62

【回避】rank50

登攀とうはん】rank48

【応急手当】rank45

【考古学】rank33


 ユニークスキル【女豹】rank -


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 ぼ…冒険者!?


 いや、本物の冒険者なんかい!!








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