冒険者・1

 少し時間は遡り、山の入口に三人の男女が到着する。



「あらら。立ち入り禁止の札、倒れちゃってるじゃない。しっかり、管理してるのかしら?本部に報告しとかないとだわ〜」



 地面に伏せられていた看板を拾い上げながら、ガタイの大きな褐色かっしょくの男が溜息を吐く。


 タンクトップから出ている筋肉隆々の両腕には派手なタトゥー、耳には複数のピアス、オマケにレインボー柄のモヒカン頭と個性のフルコースで、初見ではお近づきになりたくない風貌だった。



「どうせ、誰も中には入らないでしょ。こんな何もないような山に、わざわざ」



 後ろでそう吐き捨てたのは、学校の制服を着た小麦色の肌の健康的な少女。黒髪のポニーテールが特徴的で、可愛らしいリュックを背負っている。



「そうでもないみたいだよ。ほら、そこ」



 その隣に立っていた、色白の肌でやや茶色がかった髪をした同じ制服の少女が、足下の一箇所を指差して言う。

 彼女の背には、身長の高さほどある長く大きな筒状のカバンが見えていた。



 指差した先には、山の中へと続く、くっきりとした足跡が残されている。



「足跡……しかも、比較的新しいわね。もしかしたら、まだ中にいるかもねん」



 足跡をまじまじと見ながら、モヒカン男が考察する。見た目とは裏腹に、女性言葉を使う。そう、彼の心は女性だった。


 その言葉を聞き、ポニーの少女がやや不安そうに尋ねる。



「一般人ですか?それとも……敵ですかね?」



「さぁね。何にせよ中はトラップが、張り巡らされてるわ。無事だと、いいけど」



「そんな危ないとこ……もっと、入口厳重にしとけよ」



「まぁ、即死するようなトラップは無いはずだから。一般人だったら、見つけて救助してあげましょ。さあ、行くわよ。テン、ナギ」




「は〜い」と面倒そうに返事したポニーの少女が、忍頂寺にんちょうじテン。

 コクリと無言でうなずいた茶色い長髪の少女が、那須原なすはらナギ。

 それが、二人の名前だった。



「あ、ちゃ〜んとアタシの足跡をなぞってくるのよ?アンタたちも、トラップの餌食えじきになりたくなけりゃね」



 ニコッといやらしい笑みを、後ろの二人に向ける引率のこの男は、巻島まきしまライアン。ラテン系の父と日本人の母を持つハーフであった。

 ちなみに彼は、手ぶらである。



 ざっざっざっ……



 しばらく山中を慎重に歩いて行くと、何かに気づいたようで、ナギが皆を引き留めた。



「……先生。誰か、います」



 ナギの【目星】は優秀であることを、ライアンは知っていた。立ち止まり、真剣な面持ちに変わる。

 先生と呼んでいることから分かるように、この三人は指導者と教え子の関係だった。



「詳しく教えて」


「年齢は、見た感じ……私たちと同じぐらいの少年かな?一人で、暴れ回ってます」


「暴れ回ってる?何それ」


「う〜ん、なんといえばいいのか……ほら!子供がよくやってる、ヒーローごっこみたいな立ち回り。それ、してます」



 一応、ライアンやテンもその方向に目を凝らすが、うっすら人影があることぐらいしか分からない。それだけ、ナギの視力は別格なのだ。

 脳内のコンピューターに望遠アプリでもインストールすれば、見えるのかもしれないが。



「厨二病をこじらせた一般人じゃないですか?友達いないから、こんなところで暴れてるんですよ。きっと。かわいそうに」



 明らかに、そういう人間とは無縁そうな一軍女子感あふれるテンが、同情の視線を遠くの人影に向ける。



「一般人……トラップに、引っ掛からなかったのかしら。とんでもないラッキーボーイね」



 まだ不審がっている様子の先生に、ナギが指示を仰ぐ。



「どうします?」



「とりあえず、行ってみないと始まらないわね。一般人だったら、事情を説明して帰ってもらいましょ」



「怪しい人物だったら?」



「怪しさにも、よるけどねん……危険と感じたら、潰すわ。それで、OK?」




 グッと握り拳を見せながら聞いてくるライアンの圧に、教え子たちは苦笑いを浮かべてうなずいた。









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