ユニークスキル・3

 練習場所に選んだのは、近くの山中さんちゅうだった。

 自宅から、少し足は伸ばすものの、ここならば滅多に人が近付くことはないため、人目を気にすることなく暴れられる。


 より一層、都市化が進んだ未来でも自然保護区として、こういう場所はチラホラと各地に残っていた。



 そんな木々に囲まれた中、俺は四方から一斉に振ってくる打撃をかわし、まずは幻影たちの輪から抜け出す。



 これが、さっき言っていた特別な機能。“自動回避”効果の一端だ。


 これは、【回避】のコピペが自動的に発動するという代物で、自身の身に降りかかる危機をいち早く察知して、体が勝手に最善の回避行動を取ってくれるというものだった。

 死角からの脅威にも反応してくれる為、物理的に回避できないといった状況にさえ追い込まれなければ、実質的に無敵の防衛手段といってもいいだろう。


 これが、強かった。回避が必要な瞬間だけ自動パッシブ発動してくれて、クールタイムもほぼなく、連続攻撃にも対応してくれるのだ。


 とはいえ、危機というのは多様に存在しているので、どのラインまで回避可能なのか?など、まだまだ研究途中ではあるが。




 回避し、すれ違いざまに一人の幻影の膝裏を蹴り付け、バランスを崩させる。人数が多いうちは、なるべく同時攻撃してくる頭数を減らしておきたい。


 これが、ちゃんとした対人戦だったら、もっと躊躇ちゅうちょする人も出てくれるかもしれないが、これは俺の思い込みによって、戦闘マシーンとして生み出された幻影だ。とにかく、リスクなど感じることなく突っ込んでくる。



 ゴッ



 最初に追撃してきた幻影の攻撃に、カウンターを合わせて、敵の顎先あごさきをフック気味に打ち抜いた。


 アマチュアクラスの敵だと、モーションが大きいのでカウンターは取りやすい。人体の弱点でもある顎先は、少し揺らすだけでも平衡感覚へいこうかんかくを失わせる効果があったはずなので、積極的に狙っていく。

 対複数の戦いにおいては、なるべく少ない攻撃で一人一人を仕留めていきたい。手間取れば、それだけ 隙を作ってしまうし、【虚飾】は時間制限がある為、なおのこと短期決着は必須なのだ。



 まずは二体のバランスを崩すと、その間隙かんげきを縫いながら、残りの三体が突っ込んでくる。まるで映画に出てくるゾンビさながらだ。




【虚飾】が、【威圧】rank100に代わりました。

 持続効果 5秒

 クールタイム 5分



 ここで、すかさず【威圧】を放つ。持続効果が続いている間は、こうして短めの効果のスキルコピペを途中で挟むことができる。


【威圧】効果で、向かってきた三人が気圧けおされるように足を止めた。




【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank70に戻りました

 持続効果 残り19分

 クールタイム 20分




 そこへ、先頭にいた一体に向けて勢いをつけた回し蹴りを見舞うと、派手に吹き飛ばすことに成功する。



 rankコントロールをして気付いたことだが、このrank帯で戦闘すると、割と派手な動きが多く発動し、それこそアクション映画さながらのムーブを再現できた。

 逆にrank帯を上げていくと、段々と動きの派手さはなくなり、最小限の動きで最大の破壊力を出すような動きへと変わっていくのだ。達人になるということは、そういう無駄を省いていくことなのかもしれない。



 だが、俺はこのrank帯の派手なアクション技は割と好きだ。ヒーローっぽくて、爽快感がある。


 残る四体の幻影も、跳び膝蹴りや背負い投げからの踏みつけコンボなど、なるたけ見栄えのある技で倒してみせた。もちろん、誰も見てないが。


 倒れていった幻影たちは、すうっと姿を消していく。便利な自己暗示である。




 よし、20分休憩後に、もう一勝負だ。

 次は、強敵を想定した1vs1。今回は、武器を持った相手にしてみるか。




 このように、様々なタイプの敵を具現化しては対戦してみるということを、最近はずっと繰り返している。単純にゲームのようで楽しかったし、【虚飾】スキルの研究にもなるので一石二鳥だったからだ。




 でも、本当にいいのだろうか?大事な青春時代の貴重な時間を、こんなことにつぎ込んでいて。

 強くなったところで、友達や彼女が出来るわけではない。


 そんな葛藤も抱えながらも、俺はどんどんと強くなっていく自分を止められず、次の稽古に備えて、大木の根に腰を下ろすと、用意してきた水筒の水を一杯、飲み干した。




 この山に、誰かが足を踏み入れたことなど、気付くこともなく……。




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