幼少期・8

 選択肢の下には、“60”のタイマーがカウントダウンを始めている。これは、時間制限ということか?



「待て待て待て!こんな大事な選択、60秒でさせるなよ!!家に持ち帰らせろッ」



 とりあえず人気ひとけの無い路地へと移動しつつ、俺は思考をフル回転させた。


 進化ってなんだ?スキルが進化するなんて、聞いたことないぞ。rank100になると、全てのスキルが進化できるってことか!?


 いや、そんなことは今はどうでもいい!


 進化させたら、rankはリセットされてしまうのか?そうなったら、いよいよ売る価値すらなくなってしまう。


 問題なのは、進化したスキルがどうなるのかが全く明記されてないことだ。これがゲームだったら致命的な不親切設定じゃないか!

 退化ではなく進化というぐらいだから、ネガティブなスキルにはならないだろうが、元々なんの効果もなかったスキル。例え、微々たる効果でも進化と呼べてしまうのがネックだ。

 もし、進化させたところで大したことのないスキルだったら……?



 35、34、33…………



 やばい!もう、半分の時間が経過してしまう。


 決断しろ、植村ユウト!!



「俺は……!!」



 ぽちっ



 俺が指で押したのは、『はい』のテキストだった。


 もしかしたら、とんでもないスキルになるかも?という僅かな期待感に負けたのだ。もしかして、俺は意外にギャンブラーの気質があるのかもしれない。


 恐る恐る、次の画面を薄目で確認すると……。




『おめでとうございます。あなたのユニークスキル【妄想】は、【虚飾きょしょく】rank100に進化しました』



 良かった!rankは、そのまま継続されるようだ。


 それにしても【虚飾】?てっきり、【大妄想】みたいな安易な進化パターンを予想していたのだが。


 兎にも角にも、詳細が気になる俺は、次に【虚飾】のテキストをタッチする。従来通りならば、ここでスキルの効果が表示されるはずだ。



【虚飾】rank100


(効果)

 基本スキルの名称を、このスキルにコピー&ペーストすることで、一定時間その基本スキルをrank100の状態で使用することができる ※制約あり




 ん?どういうことだ?



 つまり……一定の間だけ、この【虚飾】スキルを、いずれかの基本スキルに代替するということか?rankそのままで。



 rankで!?



 全ての基本スキルを、rank100で使えるってことか?だとしたら、凄いことだぞ。例え、少しの間だとしても……。



「コピペって、どうやるんだ?【跳躍】!とか、言えばいいんかな……」



【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました

 持続効果 5秒

 クールタイム 30分




 できた!でも、持続効果たったの5秒!?

 一瞬やん……一回、ジャンプするだけってことなのか。それで、次に使えるようになるまで30分か。


 なるほど、これが“制約あり”の部分かもしれない。



「ものは試しか……」



 俺は辺りを見回して人がいないのを確認すると、開けた道で、軽く助走をつけジャンプした。



 びょんっ!



「うおっ!?」



 明らかに体験したことのない高さ、そして浮遊感。気付くと、ひとっ飛びでかなり遠くの地点まで着地することができた。



 確かに、跳躍力は上がってるけど……具体的に、どれぐらい飛んだのか分からない。


 元いた場所までの地点を振り返りながら、俺は試しに【目星】と念じてみる。



【虚飾】が、【目星】rank100に代わりました

 持続効果 5分

 クールタイム 15分



 できた!どうやら、声に発さなくても念じるだけでコピペは可能らしい。これは、ありがたい。


 そして、【跳躍】に比べると、【目星】のコスパは良い。選ぶスキルによって、変わるのか。



 その状態で、再び視点をスタート地点に戻して集中すると、着地した地点までの距離が数値として浮かび上がってくるではないか。




 8m23




「しまった。この記録が凄いのかどうか、分からん……あとで、世界記録でも調べてみるか」



 ちなみに、この時代での走り幅跳びにおける世界記録は9m46だった。軽くジャンプして、8メートル越えだったということは、もし本気を出せば……?




「もしかして、これって……チートなのでは?」




 この日を境に、俺の人生は大きく変わり始めた。






 第 0 章 終








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