幼少期・7

 小学6年生・冬


「そういえば、見たか?ユウト。『魔女っ子☆ミラたん 2nd season』の最終回」


「見た見た。あの終わり方、絶対に劇場版あるね。もしくは、さらに続編」


「やはり、そう思うか!あのままじゃ、回収してない伏線が多すぎるからな。かといって、2時間弱の映画尺でそれら全て回収できるのか問題もあるといったら、あるが……」



 白い息を吐きながら、興奮気味でアニメの話に興ずる二人。この時代でも、まだ冬は寒かった。温暖化は防がれたようだ。


 その時、俺はふと気付いた。



「……って、おい!ダメじゃん!!これじゃ、前世と同じルート辿っちゃってるよ!!!」


「急に、どうした?夢から覚めたみたいな声を出して」


「前に言ったろ?俺は、今回の転生ではリア充な人生を目指してるんだって!これじゃ、元のヲタク人生と変わらないやんけ!!」



 自分的に月森さんの一件は、相当にショックだったらしく、あれ以来というもの、他の女の子と仲良くする気力も湧かず、ついダラダラと三浦とのヲタク談義に花を咲かせる毎日を送ってしまっていた。



「人間の本質なんて、そうそう簡単に変えられるものではないんだよ。お前も、こういう話をしている方が楽しかったからこそ、無意識に続けてしまってきたんだろう?」


「うぐっ」



 正論を突かれて、何も言い返すことが出来ない。

 半分、三浦の布教のせいでは?と思うところもあったが、それに乗ってしまったのは自分のせいだ。



「今までは、筋トレなどで保ってきていたアドバンテージも、これからは段々となくなってくるぞ。そろそろ、お前も諦めて、こちら側に完全に来たらどうだ?はっはっは!」


「それは、わかってるけどさぁ……」



 そうなのだ。今までは、コツコツと積み重ねた基礎トレーニングと前世の知恵を使って、学年でも何とか優秀な生徒で踏みとどまることが出来ていた。

 しかし、現時点でもすでに何人かのスキル初期値が高い子や、特別なユニークスキルを持つ子たちには追い抜かれてしまっていたのだ。

 今後は、成長するにつれて周りの身体能力も向上していき、特筆して高いスキル値のない俺との差は更に開いていくことだろう。


 もっとトレーニングメニューを強化するという手段もあるだろうが、そうなると過酷な毎日になることは容易に想像できるがゆえ、現実的ではない。


 ラストチャンスともいえる中学生の間に、何としても豊かな人脈を築いていきたいが……,



「そういえば、お前のユニークスキル。もうすぐ、rank100に到達しそうなんだったよな?」


「ん?ああ、そうだけど。何の役にも立たないスキルを、限界値まで上げたところでなぁ」



 転生ボーナスのおかげなのか、初期値からすでにrank80あった俺のユニークスキル【妄想】は、今や99にまで達していた。


 他のスキルと違って、【妄想】は四六時中しようと思えば出来るわけで、特に前世の頃から日課のように【妄想】をする癖がついていたこともあってか、このrankだけは図らずも勝手にメキメキと成長してしまっていったというわけだ。


 ちなみに、どんな妄想をしているのかなどは、ここでは秘密とさせていただく。



「役に立たんスキルでも、rank100まで到達させられるだけで激レアなんだぞ?歴史のどんな文献を見ても、仙人と呼ばれた爺さんが一生、山でその道の修行を続けて、死ぬ間際にようやく100に到達したとかしないとか……みたいな、信憑性に欠けるような逸話しか見つからんくらいだからな」


「へー。じゃあ、これで動画配信でもしてバズっちゃおっかな?『rank100に、到達しちゃいました!』ってな具合のタイトルで」



 いや、ダメだ。バズるかもしれないが、妄想で100に到達した男とか恥ずかしすぎる。有名になるのと引き換えに、一生をバカにされて過ごすことになってしまう。



「それも、いいが……もしくは、裏市場で売ってみるとかどうだ?」


「えっ、スキルって売れるん?」


「特殊な装置で互いのナノチップ同士をいじると、ユニークスキルを交換することが出来るらしい。日本では非合法だが、海外で密かに取り引きされてるようでな。貧乏だが優秀なスキルを持って生まれた者から、スキルに恵まれなかった金持ちが大金と引き換えにその才能を買い取る……なんだかんだ、この時代でも金がモノをいうのは変わらんな」



 スキルを売る……か。その発想は無かったな。

 とはいえ、限界値まで上げたとしても何の役にも立たないスキルを買いたがる道楽なんているのだろうか?ネタには、なりそうだけど。


 話していると、ちょうど三浦の家との分岐点に差し掛かる。




「ま、せっかく育てたんだ。何に使うにも、有意義に使うんだな。じゃあな」


「ああ、じゃあな〜」



 結局、なんにも使えずに終わりそうな予感。

【妄想】ってタイトルが、恥ずかしいんだよな。どうせ何の役にも立たないんだから、【空想】とかに言い換えて欲しかったまである。


 でも、もし大金で売れたら、それこそ人生設計も大きく変わってくるのかも……!



 そんな【妄想】を膨らませていると、ピコン!と視界にメッセージが表示された。




『ユニークスキル【妄想】が rank100 に到達しました』



 言ってるそばから、きた!役に立たないスキルであろうと前人未到の領域に足を踏み込んだというのは、思っていたより興奮するものだ。





『限界値に到達したので、このスキルを進化させることができます。進化させますか?』


  はい

 いいえ





「しん……か?進化!?」








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