幼少期・6
「ただいまー」
三浦と遊んだからか、少しは気が晴れて帰宅すると、母親が珍しくテレビに釘付けになって、リビングに座っていた。
テレビと言っても、映像だけが立体スクリーンに投影されており、前世のものと比べると、より未来を感じるものになっている。
我が家は一軒家の二階建てで、母子二人で暮らすには十分過ぎるほどの広さだった。何の仕事をしてるかは知らないが、海外赴任中の父は相当の稼ぎ頭なのかもしれない。
「ちょうど良かった。ユウト、あんたもここに座って、一緒に見ましょ!そろそろ、始まるわよ」
「え?この時間って、まだニュースとかしかやってなくない?何が始まんの」
「お父さんが、そのニュースに出るのよ。ほら、早く早く!」
執拗な手招きに、仕方なく母とは少し離れて、同じソファに腰を下ろす。
ニュースに、父が出る?
息子に見せたがるってことは、捕まったとか悪いことではないだろうが、一体どういうことなのだろうか。
『続いてのニュースです。アメリカに派遣されていたギルド「日本国調査団」が、レベル5ゲートの踏破に成功しました。「日本国調査団」は、過去にも3回ほど同レベルの踏破に成功していますが、海外ゲートの踏破に成功したのは、日本初であり……』
ギルド?ゲート?ゲーム大会のニュースでも始まったのか?
美人キャスターの読む原稿に、疑問符をたくさん浮かべていると、次の瞬間、見知った顔の人物の写真がスクリーンに映し出された。
「きゃー!お父さん!!」
そう、それは我が家の父親だった。生まれた頃から海外にいた為、俺も実物は見たことないが、写真では嫌というほど母に見させられている。
そして、その写真のテロップには、こう表記されていた。
日本国調査団・アメリカ支部
支部長・S級冒険者 植村ソウイチロウ
「母さん!冒険者って、何!?ギルドって、何!?ゲートって何!?」
「あれ?そういえば、ユウトにはちゃんと説明してなかったっけ?父さんのお仕事のこと」
されてない。されることといえば、付き合ってた頃のノロケ話ばかりで、大半は真面目に聞いていなかったぐらいだ。
「冒険者って、遺跡を発掘するとか……考古学者的なやつ?」
「違うわよ。ゲートに入って、お宝を取ることを生業としている人たちのこと」
「だから、そのゲートって何!?」
こんなことなら、普段からニュースを見とくべきだった。この感じからすると、恐らくはゲートというものは一般常識レベルで未来の日常に存在するものなのだろう。
「突然、どこからともなく現れる光の扉のことよ。中には、ダンジョンと呼ばれる固有の異空間が存在しててね。そこでのミッションを無事にクリアすると、アーティファクトっていう様々な効果を秘めたお宝をゲットできるってわけ」
あかん。また、色々と分からん単語が出てきたぞ……てか、なんだその急なファンタジー感あふれる世界観は!?
「なに、それ?VR空間みたいな?」
「ゲートについては、いまだに詳しいことは分かってないのよ。宇宙人が作った隠し扉説とか、並行世界の入り口説とか、都市伝説なら山ほどあるけど」
「……単純に、危なくないの?そんなとこ、入って」
「危ないけど、大丈夫。例え、その中で死んじゃっても、ちゃんと入る前の状態で現実世界に戻されるだけだから」
ん?どういうことだ?やっぱり、その中での出来事は現実ではないってことなのか?
「……それじゃ、クリアするまで何回でも挑戦できるってこと?」
「残念ながら、一度戻されちゃうと、もう二度と同じゲートに入ることは出来なくなるの。ちなみに、その中で起きた出来事とかの記憶も、そこだけスッポリと抜け落ちちゃう」
「なるほど。死にはしないけど、挑戦権は剥奪されるってことか。リスクは、それだけ?」
「あとは、ランダムでスキルのrankが減るみたいね。微々たるものらしいけど。それにしても、リスクは低いんじゃない?だから、踏破できるかは別として、興味本位で挑戦してみる一般の子たちも多いみたいよ」
やたら詳しいのは気になるけど、夫の仕事なんだから当たり前か。それとも、それぐらい常識のことなのだろうか。
「父さんは、その“プロ”ってこと?」
「そうよ〜。しかも、国が運営しているギルドの支部長なんだから!誇りに思いなさい?」
ギルドは、冒険者たちの集まりってことか。国も、ゲート攻略に乗り出してるのは凄いな。
「ちなみに、その……アーティファクトって、どんなお宝なの?」
「入るゲートの難易度によって、ピンキリみたい。聞いたことがあるのは、“どんな傷でも治してしまう絆創膏”とか、“透明になれるコート”とか?」
「お宝というより……ひみつ道具やん、それ」
だが、確かにそんな便利アイテムが手に入るのならば、挑戦したくなる気持ちも分かる。自分で使わずとも、高額で売買することもできるかもしれない。
「ユウトも、冒険者になってみる?本気でやりたいなら、お父さんに相談してあげるわよ」
「あ……いや。俺には、何の才能もないから。多分、無理だよ」
「ユウト……」
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