逮捕された松崎夫婦
松崎夫婦は自宅でくつろいていた。チャイムが鳴った。
「はい、どちら様」と千恵子が言い、ドアを開けた。すると数人の男たちがやってきていた。その一人が、松崎秋男は在宅でしょうか?」と尋ねた。千恵子が「はい、あなたお客さんよ!」と叫んだ。その声を聞いて秋男は玄関に出てきた。
男は「松崎秋男、有印私文書偽造と、詐欺の疑いで逮捕する」と逮捕状と警察手帳を掲示して叫んだ。そして、追従していた警察官を促した。松崎秋男は、抵抗する仕草をしたが「抵抗すると罪が重くなりますよ」との声に観念したのか大人しくなった。警察官は「両手を出して下さい」と言い、秋男が両手を出すと手錠をはめた。男は「連れていけ!」と警察官に言い、「奥さん、これより家宅捜査をに入ります」と家宅捜査の令状を見せた。千恵子は何が起きたのか理解できず、固まってしまった。
そうこうしているうちに数人の男たちが家に入ってきてあちらこちらで捜査を始めた。
「奥さん、柴田弘の重要書類を預かっているそうですがそれを見せてください」と市原刑事は言った。「は、はい!」まだ何が起こったか解らない千恵子は慌てて書類の入ったバッグを持ってきた。
「高山、中を調べろ。俺は千恵子さんに説明するから」と市原は言った。「解りました」と高山はバッグの中から書類を出し調べ始めた。
「奥さん、寿金融商事から借り入れをなさいましたね。その保証人が一人は離婚していて、一人は勝手に保証人にされている可能性がありまして。指紋を採取したりしてだれが借用書に署名をしたか調べていたんですよ。保証人二人の指紋は出なかったんです。どうしてですかね」
「私は借り入れに関わっていないから解りません」と千恵子は答えた。
「解らないことは無いでしょう、あなたの指紋が借用書から出てるんですよ!まあ、いいです。今日のところはあなたの逮捕状は出ていませんから、このまま暮らしていて構いませんよ。でも、身を隠すような真似はなさらないようにしてくださいね。でないと罪が重くなりますから」と市原は脅すように言った。そして高山に
「どうだそっちは」
「本当に印鑑証明とか実印とか揃ってますね。これいったん持ち帰って指紋を取った方がいいのでは?」
「そうするか、本当は柴田弘に許可を貰わないといけないがな。千恵子さんあなた以外に兄弟はいらっしゃいますか?」
「下の弟がいます」
「名前と連絡先を教えてください。捜査が終わりましたらそちらにお返ししますから」
千恵子は下の弟の柴田道也の住所と電話番号を紙に書いて渡した。
「それから誤解のないように言っておきますが、今回の件は寿金融商事から被害届が出まして、それで捜査しているんです。保証人二人は関係ありませんから」
「なんですって!お金は保証人が返すのではないんですか」
「保証人は二人とも借用書に署名していないんですよ。ですから借入人である松崎秋男が返すことになります。その方の民事調停も継続中のようですよ」
「そんな~保証人に払わせるから大丈夫と言っていたのに・・・」
「ほう、誰がそんなことを」
「夫ですよ、だから借用書の署名とかも協力したのに!話が違うじゃないの!」
「ほう、借用書に署名したことを認めるんですね」
「え!・・・」千恵子は口を滑らせてしまったことに気がついた。
「今更釈明しても無駄ですよ、今までの会話はすべて録音していますから。これは有力な証拠になります。松崎夫婦が共謀して借金を保証人に払わせようとしていたということのね」と市原はボイスレコーダーをポケットから出した。
「それを渡せ!」いきなり千恵子は狂ったように市原に。飛びかかった。でも、相手は刑事、すぐに取り押さえられた。
「松崎千恵子、公務執行妨害で逮捕する」市原が宣言し、残っていた警察官が手錠をかけた。「連れていけ」市原はその警官に命令した。
「市原刑事、捜査終了しました」鑑識の方から連絡があった。「そうか、これが柴田弘の重要書類の入ったバックだ、中の指紋を調べてくれ。終わったらバッグごと俺に返すように」
「解りました」と鑑識の男はバッグを受け取ると礼をして仲間と立ち去った。
「それにしても墓穴を掘ってくれるとはな。須藤さんに聞いていた通りの性格だな」と市原は呟く。「さて、ここのカギは解らないし、そのメモの人物に電話するか」
市原は電話を掛け始めた。
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