須藤綾子の家にて

須藤綾子すどうあやこは電話を切ってため息をついた。

何だって今更こんなことになってるのよ。あの、松崎が保証人になるものがいなくて勝手に名前を使ったとしか思えない。それにしても、すぐにばれると解っている離婚前の名前と住所で保証人に載せるなんて不正行為でしょう。ま、あの男ならやりかねないけど。

もう15年ぐらい前になるか、松崎が定年して単身赴任から帰ったころさんざん嫌がらせを受けたっけ。

柴田は単身赴任でいないし、一人で戦ったのよね。私を思い通りに動くようにして、柴田の財産を狙ってた。挙句の果てに『いまで通り援助してくれ』って言うから、私が色々な証拠を持ち出して、「嫌われている人の援助はしません」と宣言して柴田の兄弟たちとは縁を切った。今は離婚して柴田とも縁が切れてるから、何もできないと思っていたけど、こんなことで巻き込むなんて。

柴田が、保証人になったのは知らないと言ってたらしいけど、勝手に保証人にしていた可能性もあるな。重要書類を預かっているはずだから、やろうと思えばできる。

まあ、どちらにしても、こっちは関係ないと言うしかないわね。私が保証人の署名をしていないと証明するのは指紋かしらね。そうなると警察もかかわってくるか。やれやれ。

つらつら考えていたら、電話が鳴った。

「はい」

わたくし寿金融商事の課長で、及川と申します。綾子様の携帯で間違いないでしょうか?」

「はいそうです」

『当社の方でも色々調べましたが、綾子様に関する証明書が見つかりませんでした。離婚されたということですが、それを松崎が知らないということはありませんか?』

「それは無いですね、松崎千恵子は離婚の時に私の弁護士に色々言ってきたぐらいですし、財産分与の弁護士への振り込みとかも松崎千恵子がやっているはずですから。柴田弘はそうゆうことに全く疎くて出来ませんので」

『それは本当ですか』

「ええ、私が結婚している間、財産も重要書類も私が全部管理していましたから。離婚後は松崎千恵子が管理していたと思いますよ」

『そうですか、すみませんが綾子様、今のお名前と住所を教えていただけませんか』

「何のために?」

『こちらとしては保証人に不正があったと証明して、貸し付けを無効にされないようにしないといけません。それには綾子様の現在のお名前が必要なんです』

「解りました。須藤綾子 ○○市○○町25-4です」

『須藤はサンズイの反対にページと、藤でいいでしょうか』

「そうです」

『先ほどからのお話を聞いていると、松崎が柴田弘の必要書類を許可なく揃えて本人の承諾なく保証人にしたということはあり得ますか?」

「可能性としては有りますね、あの夫婦は借金して生活してきましたから、そうゆうことに対してのハードルが低いんです。弘を保証人にするための書類も自分たちが管理していたはずですから」

『そうですか、こちらももう少しよく調べてみます。又お聞きすることもあるかと思いますが、お電話してもよろしいでしょうか?』

「それは構いませんよ」

『解りました、それではまた動きがあったら連絡いたします。お話して下さってありがとうございました。失礼いたします』

そう言って電話は切れた。


綾子は、金融会社の方も私が保証人になるわけがないことは解ったみたいだし、でも、松崎のやつら、これから地獄見るんじゃないかしらね。不正に保証人を立てているとなれば自分が返さなくてはならないだろうしバカなことをしたものだ。と呟いた。

金融会社も黙ってはいないだろう。裁判所に訴えて、そちらで松崎の気を引きながら、被害届を出して警察を巻き込むか?となると私も警察にかかわりを持つことになるのね。色々と考えるうちに綾子は気が滅入ってきた。あぁ!もう!お茶とお菓子でおやつにしよう。結婚していた間も散々迷惑かけられたのに!いい加減にしてよ!

綾子はそう叫ぶとお湯を沸かし始めた。







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