内容証明郵便

ピンポーン、チャイムが鳴った。「はーい!」千恵子が玄関に出ると、「内容証明郵便です。松崎秋男様のお宅ですよね」と配達員。「あなた~!」と千恵子は秋男を呼んだ。

秋男はやってきて名前を確認すると封筒を受け取った。差出人は寿金融商事。

秋男はソファーに座ると中に入っている書類を読み始めた。


貴殿の借入金の返済期日が過ぎております。〇月〇日までにご返済なさらない場合は民事調停の手続きを取らせていただきます。


と言う内容だった。秋男は「ふん。提訴するならやってみろ、何を根拠にするのやら」と言って、書類を封筒に戻し、引き出しに放り込んだ。

柴田綾子が存在しないことを知ったにしても、確認せずに貸し付けたのは金融会社の責任だ。弘の書類は揃っているし、保証人としては成立しているしな。秋男は不敵な笑みを浮かべていた。


所変わって寿金融商事。

「山田、松崎秋男に内容証明郵便は送ったんだろうな」

「はい、言われた通りの期日にして送りました」

「おそらく、松崎は返答してこないだろう。調停の準備と、被害届を出す準備に入る」

「被害届って、警察を巻き込むんですが?」

「松崎秋男は保証人柴田弘の書類が揃っていること、柴田綾子の保証人としての確認を怠ったていたということを盾にこっちが責任あるのだから、契約の無効を主張してくるだろう。つまり踏み倒すつもりなのかもしれない。となると、こちらとしては借用書の保証人が自署ではないことを証明するしかなくなる。そこまで来ると警察の管轄だ。指紋の調査をしてもらわないといけないからな」

「そんな、それほど大事になるとは」

「そうなれば、契約を取り継いだ社員も何らかの処分を検討しなくてはならなくなるな。それも調査しておこう」と及川課長は言い、顧問弁護士に電話を掛けた。

山田は一礼して戻ったが、内心穏やかではなかった。その契約の取次をしたのは自分。軽い気持ちだったのだが、ここまで大事になるとはその時は想像もしていなかった。


及川の電話を受けた顧問弁護士の荒川は、内容を理解すると、『裁判所の民事調停と警察に被害届を出す準備をします。明日にでもそちらに伺います』と返答した。

翌日、資料を受け取り話を聞いた荒川弁護士は動き出した。

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