第3話柴田弘と言う人物

弘の家に着いたが鍵がかかってる。チャイムを押すと玄関が開いた。

千恵子は「ただいま、おかず持ってきたよ」と話しかけ台所に持ってきたものを運んだ。

見渡したところ家の中はぐちゃぐちゃ。掃除されてないし、ゴミも捨ててない。なんか嫌な臭いが充満している。換気もしてなかったのか。明日からこれをどうにかしないといけないの。千恵子は心底嫌な気分になった。


「お前んとこの嫁は話にならんな」いきなり弘が言いだした。「買い物も中途半場でおかずもスーパーの残り物とか平気でもってくるし、洗濯に掃除も駄目。役に立たん。あんなのよこすな。自分達だけ旅行に行ってさぞかし楽しんできたんだろう。いい身分なこった」と弘は声高に言い放った。

「自分が何もできなくて人の世話になっているのにその言い方は無いでしょ。少しは自分でやったらいいじゃない。私だっていつまでも世話できるとは限らないのよ」と千恵子は負けずに言い返した。

「何言ってんだか、俺の金あてにしてるのはそっちじゃないのか?まあせいぜい俺に尽くしておくんだな」と弘は言い返した。そう言いながらご飯をよそい、千恵子が持ってきた汁物とおかずを食べ始めた。


千恵子は今頃になってどうして弘が離婚に至ったのか理解した。離婚した頃は嫁の綾子の方が悪いと思っていたのだが、毎日の食事や家事のことでこんな態度を取られ続けたらたまったもんじゃない。

綾子と姪は周到に用意し家を出た。そして綾子は弁護士に依頼し、協議離婚を申し込んできた。私が知ってから『協議離婚を応じる』と連絡を入れたときには裁判所に調停を申し出ていた。弁護士を雇って対抗しようとしたが通帳から不正に引き出した証拠でも出くれば勝機もあったのだろうが何も出ない。弁護士もなすすべがなく結局は綾子の言い分が通った。あれだけの財産分与を貰い、自身の親から家と金を相続している。おそらく綾子と姪は何不自由無く悠々と暮らしているに違いない。千恵子は臍を噛む思いだった。



とにかく今は疲れていたので、「明日また来る」と言い残して弘の家を後にした。

だが、この時『俺の金を当てにしている』と言われたことを千恵子はもう少し深く考えるべきだったと後で後悔することになる。


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