第228話 城下町跡の掃討
大陸東部
ソリステア子爵領
各隊の戦果と状況が報告され、夏木一尉は疑問を投げ掛ける。
「闇バイトはともかく、モンスターの数が多くないですか?」
「ここは元々天領だったから王国軍が間引きを行っていたが、子爵領になったらその職務を放棄し、隣接天領などの間引きに参加して、この領邦に追いたてたらしい。
他の隣接領邦も同時期に間引きを行っているから我々に押し付ける気だったんだろうな。
そしてこの地には廃城となった城があり、ダンジョン化してるそうだ。
街からは遠いが、街道からはほど近い古ソリステア城はモンスターの巣窟になっている」
街道は整備されているが、古城に繋ぐ支道の整備は放棄されていて、ブッシュマスター防護機動車の揺れは大きくなる。
「本当は第1隊に先に来てもらって同時攻略のつもりだったんだが、闇バイトの連中に足止めを食らわされたとは誤算だったよ。
ここまで近づいたらモンスターの監視化だ。
全員、気合いを入れろ」
モンスターよりも車両の揺れに気合いを入れる必要があった。
廃城は城郭都市を形成しており、朽ち果てた正門を抜けると、人が住まなくなった城下町の大通りに出た。
「ここが一番広そうだな。
予定どおりチャイムを鳴らす。
来訪の知らせだ」
各車両のクラクションや外部スピーカーから様々な音楽が最大ボリュームで放送され、騒音を城下町に鳴り響かせる。
「上空、2時から3時、複数の飛翔体接近!!」
偵察隊の隊員の声に騒音を一旦止める。
「ライブラリー参照、個体名コルウス、カラスのモンスターですが、固い頭部で頭突きで獲物を仕留める特性有り!!」
コルウスはカラスの巨鳥だが、大鷲くらいの大きさだ。
その体躯に似合わぬ飛翔と頭突きに特化した頭部で獲物を狙い、動けなくなったところを群れで貪り食う。
ブッシュマスター防護機動車のWACがスピーカーを通じて伝えてくる。
偵察班班長倉田洋介一等陸曹は、自ら軽装甲機動車の天井ハッチを開けて、銃架からRPK軽機関銃を設置して射撃を開始する。
偵察バイクに乗った隊員もバイクを盾と銃座にして発砲する。
軽装甲機動車の運転席いた山方三等陸曹は運転に専念し、助手席の木村二等陸曹は周辺を警戒して、窓からAK-74自動小銃の銃口を出しているが、攻撃に参加していない。
「来ました!!
個体名エクウス、吸血馬だ!!
射撃開始!!」
黒と白が逆転したようなシマウマのような巨馬が十数体突入してくる。
吸血馬と言われるが正確には生物の体液を呑み尽くすモンスターで、その馬体の筋肉は並の剣や弓矢では傷もつけられない。
木村二曹も大通りを城から駆け抜けてくるエクウスに銃弾を叩きつけるが、ブッシュマスター防護機動車の前方ハッチからも遠隔操作式のCROWSに設置された12.7mmM2重機関銃が発射されて対応に当たる。
後部ハッチからも2つの上部ハッチにミニミ軽機関銃が取り付けられており、東部警務隊のWACである矢澤三等陸尉や鈴木一等陸曹が射撃に参加する。
「一匹抜けたぞ!!」
誰の声ともわからないくらい銃声が鳴り響くなか、一羽のコルウスが銃弾の雨を潜り抜け、ブッシュマスター防護機動車の車体に頭部から突っ込み、そのまま潰れた鳥肉にとなって地面にドロップした。
「何がしたかったんだ、こいつ?」
「馬車の幌と勘違いしたんでしょう。
幌の内部に飛び込んで馬車内の獲物を外に追いたてる知恵はあるようですから」
武装した城ケ根三佐と夏木一尉と鉄道科から派遣された望月一等陸曹がブッシュマスター防護機動車から降車してモンスターの駆除に参加する。
いかに刀剣、弓矢に頑健なモンスターも中型程度なら銃弾を無数に浴びせれば討伐することには問題はない。
時折、コルウスがブッシュマスター防護機動車に頭突きをしてくるが、装甲化され7.62mm弾に対する耐弾性を持った車体に悪戯に命を散らしていく。
エクウスも軽装甲機動車にぶつかってくる。
しかし、700キログラム程度の馬体で、短距離からの銃弾が着弾して勢いが殺された状態では、装甲化された4.5トンの車体にぶつかっても馬肉に変えられるのがヲチだった。
偵察班や城ケ根三佐、夏木一尉に取って意外だったのは、望月一曹がベテランの隊員で戦い慣れしてることだった。
「列車強盗や線路に立ち塞がるモンスターと鉄道公安隊と一緒に戦ってましたからね。
それはそうと隊長、退治後はモンスターの死体の処理をしっかりやらないと、血肉の匂いでさらにモンスターがやってきますよ。
経験上、そいつは死体のモンスターより強いのです」
コルウスもエクウスも粗方片付けた後で望月一尉はそんなことを言い出した。
「つまり釣り餌になるということです。
近くの廃屋に車両を隠して待ち伏せを進言致します」
ノルマとしては十分な戦果だ。
確かに古城の方にはまだまだモンスターがいそうだが、弾薬の消費も抑える必要がある。
結構派手に撃ちまくったが、半分以上の弾薬は残っている。
だが夏木一尉が妙にやる気でさらなる継戦を提案してきた。
「子爵閣下が討伐任務を要請してくるかもしれません。
後顧の憂いを事前に断って、安心していただきましょう」
一理はあるのでもう一戦することにしたが、ブッシュマスター防護機動車内に夏木一尉が、弾薬の補充に戻ると、矢澤三尉が後ろから話しかけてきた。
「あの人、東部警務隊内の出世レースでライバルに先を越されたので武勲と子爵閣下の覚えめでたくなりたいのですよ。
挙げ句に現場で暴走して僻地に左遷で焦ってるんです」
「一応は君らの隊長だ、口を慎め。
君らのボスが誰かはわかった。
猫の首の鈴か、君らは?」
「子爵閣下へのご恩と忠誠は、室長は忘れてないということです」
さて面倒な派閥争いに巻き込まれたと城ケ根三佐は、憮然とした顔をする。
まあ、自分には基本的に関係ないと気を取り直す。
「どうせなら最後はみんなでやるか。
弾薬に余裕の有る各隊は班単位でこちらに集結し、城内の大掃除に参加してもらう」
倉田一曹が偵察班の弾薬が半分近く消費してるのを報告すると、少し考え
「うちの隊は城外の掃討を継続。
友軍が集まる頃には引き継いで撤収だ」
大陸東部
那古野市 那古野港
石狩貿易社長兼CEOの乃村利伸は、港のターミナルビル展望室から海上自衛隊の那古野基地を眺めていた。
この展望室はフロア全体を使っており、那古野港の港湾を一望できる優れものだ。
「おっ、来た来た。
あれが『ようこう』か、初めてみた」
陸上自衛隊の海上輸送群に所属する輸送艦『ようこう』が入港する勇姿にはしゃいでいる。
『ようこう』はすでに艦年齢八年程度重ねているが、就役時してすぐに海上輸送群自体が西方大陸アガリアレプトの戦線に駆り出されていて、すでに南方大陸アウストラリスに渡っていた乃村は見学する機会を逸していた。
そんな上機嫌の乃村に企画部長の外山が声を掛けてくる。
「社長、護衛からです。
囲まれてると」
見渡せば周囲に移民や観光客に混じり、黒スーツにサングラスの男達が等間隔に配置されてこちらの様子を伺っている。
「威圧が目的だな?
コーヒーでも奢ってやれ。
公務員なら受け取れないさ」
こちらがコーヒーを差し入れする前に公安調査庁新京支局の波多野支局長が姿を現す。
「プライベートの邪魔はしないで欲しいですね、波多野さん」
「大事な用件があってね。
君、闇バイトの総元締めみたいな立ち位置だろ?
ソリステア子爵領に手を出した件に心当たり無い?」
その領名を聞いて乃村は呆れた顔をする。
「うちはバックが政府と経団連の真っ当な民間企業ですよ。
国益に反し、そんな面倒な領邦にちょっかい掛ける気はさらさら無いですな」
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