第227話 更正顛末
大陸東部
ソリステア子爵領
闇バイトの大量拘束は、子爵領の各討伐隊に伝えられ、第13先遣隊長の城ケ根三等陸佐は眉をしかめる。
「例の石狩貿易の仕業かな?」
「いえ、石狩貿易なら政府や経団連、防衛省がバックにいるので、この子爵領に商売以外で手を出すことは無いでしょう」
同行する大陸東部警務隊隊ソリステア分室室長の夏木一成一等陸尉は、総督に近い位置で仕えていた人間だ。
二人とも表向きはただの貿易会社の石狩貿易の事情を知る立場だ。
「闇バイトどもは拘束して、更正師団送りにしてやる。
確か、第三の設立も検討されてるんだろ?」
更正師団の第1の意義は、色々と理由付けされてるが、要するに口減らしだ。
「衣食住は最低限保証されてますが、蓄えた作業報償金は除隊後の積み立てです。
除隊しなければ予算に還付されるだけで、重傷で戦闘不能になった時に刑期を終えてなければ刑務所に逆戻り。
また、ほとんどが医療費で消えてしまう」
保険会社など異世界転移後にほとんどが倒産してしまい、国民皆保険制度等も有名無実化してしまった。
各医療機関も自らの技量で食い扶持を稼ぐ必要に迫られ、高騰化する医療費も本国の人口激減の原因の一つだ。
「『大陸に行けば薬草くらいは煎じてくれるさ』は、移民促進の流行語になったからな」
「逆に防衛省職員や自衛隊隊員の家族は自衛隊病院で受診できましたからね。
警察も東京、神奈川や大阪だけでなく、全国の警察に警察病院を作ろうとしてましたが、医官を育てる機関を創るところから始めなければいけなかった」
異世界転移は経済破綻を招き、失業者を急増させる。
食い詰めた者達は当然の如く、各地で凶悪犯罪を発生させた。
政府は規定の文言である『緊急事態』、『緊急事態宣言』を通り越して、超法規的に『国家非常事態宣言』を発令し、国全体を戒厳令下に置き、警察、自衛隊、はては自警団にまで銃器による発砲許可、射殺命令まで出して治安を回復させた。
それでも死刑、それに準ずる凶悪犯罪者が二万人が逮捕された。
「当時の法務大臣が毎日、死刑執行のサインを書かせられて、心が病んだと言われましたから本当に囚人の処理に困ってたんでしょう。
そして折よく、皇国との戦争が始まりました」
日本を中心とする地球系多国籍軍は、アウストラリス皇国との国交締結が決裂、開戦の運びとなった。
地球側多国籍艦隊が皇国海軍を一蹴し、厳選した凶悪囚人で編成される第1更正師団に粗末な武器を持たせて大陸東部に上陸させた。
彼等が蹂躙した沿岸部の貴族領や天領は公文書や教科書には載せれない惨状となった。
その非道ぶりは悪逆を極め、大陸東部沿岸部を無人の地に変えていった。
第1更正師団の初期団員は人を殺めた、或いは故意に傷害を行った者達だけで構成されている。
現在の沿岸部植民都市建設に大陸人の抵抗が無いのはこの為である。
情報伝達の技術から皇国軍東部軍団に伝わるまで30の領邦が陥落し、略奪や暴行、虐殺が行われた。
自衛隊督戦隊も同行したが、彼等が命令したのは敵から逃げないことと、農家への暴虐の禁止であり、違反者は銃殺された。
しかし、いくら凶悪犯罪者による兵団といえとも銃器、車両を持たせて貰えない状況では、剣や槍で武装した大陸人相手では戦死者が続出した。
定員の三倍の戦死者を出しているが、その都度囚人が補充されるので、末期には団員の刑期は懲役十年以下にまで下がっていた。
皇国軍東部軍団を指揮するウォルフ将軍は、東部における皇国軍、領邦軍、志願兵による義勇軍を総動員を行い、決戦に突入した。
十倍の兵力、騎士や騎竜を使った機動力、大砲まで動員した火力で、第1更正師団は蹂躙され、包囲殲滅陣と名付けられた敵の攻撃に飲み込まれていく。
この時は団員の脱走を防ぐ為に配置された自衛隊督戦隊も初めてその銃口を皇国軍に向けて発砲したが、壊滅的打撃を受けている。
この戦いで第1更正師団と皇国軍東部軍団は双方壊滅状態となる。
地球側からもぎ取った初勝利を喧伝したい皇国皇帝は、大陸全土の兵力を皇都に結集、皇帝親征と第1更正師団殲滅の戦勝式典のパレードを敢行した。
そのパレードは米空母『ジョージ・ワシントン』、『ロナルド・レーガン 』を中心とする機動艦隊から発進した航空部隊と、米領として確保したアミティ島から発進した B-52 戦略爆撃機を中心とする米空軍航空隊、巡航ミサイルの雨霰な皇都空襲の呼び水となった。
「東部軍団を指揮したウォルフ将軍は、捕虜となり龍別宮捕虜収容所に収監されていましたが、出所後に残党軍に奥方とともに誘拐されて収容所の情報を提供しました。
まあ、人質を取られてたから仕方がないと不問に伏され、公安に救出されたそうです」
「それも数奇な人生だよな」
城ケ根三佐と夏木一尉は仲良く雑談しているふりを装っているが、女子隊員ばかりのブッシュマスター防護機動車車内の空気に耐えれないので気をまぎらわせてるだけだったりする。
各討伐隊の第1隊は普通科中隊の中隊長の羽倉一等陸尉が指揮し、第2隊と第3隊も普通科の小隊長達が指揮をしてるので問題は無く討伐任務は遂行されていた。
第4隊は特科、第5隊は後方支援科、第6隊は施設の小隊長が指揮していたので、些か消極的な動きとなっていた。
どの小隊も自分達の持ち味の兵器を分屯地から持ち出し出来ずにいたから精彩を欠いていたのは仕方がない。
最低限の普通科訓練は受けているし、一個分隊の普通科隊員も同行しているが、普通科分隊からは完全に足手まとい扱いだった。
それでも第4隊はゴブリンの集落を、第5隊はバンデラスというジャガーに似た魔物群れをそれぞれ殲滅に成功している。
そんな中、華西民国から購入した08式歩兵戦闘車を持ち込んでいた第6隊に参加していた機甲科は違った。
彼等が狙ったのはテストゥドという亀のモンスターだ。
一週間前に川沿いに住む一家を襲撃して惨殺し、冒険者パーティーが討伐に出たが、その固い甲羅は低級魔術による攻撃魔術や鎚による打撃も寄せ付けなかった。
さらに土を液状化させる震動を発生できるらしく、地中に潜って、冒険者二人を引きずり込んで殺害した。
「目標発見、至近に民間人少女がいる!!
発砲は控えて救助しろ」
普通科分隊の隊員達が前進するが、追われている少女が近すぎて発砲は躊躇うなか、空自隊員が運転する高機動車が少女とテストゥドの間に割り込み、車内の隊員が拳銃や小銃を発砲してる間に少女を車内に入れて離脱する。
すかさず普通科分隊からの03式自動歩槍や軽装甲機動車の銃架からのRPK軽機関銃が発砲されるが、固く傾斜した甲羅から震動波が空気を伝って放出され、銃弾の効果を著しく削いでいた。
それでも銃弾の雨に辟易したのか、テストゥドは地中に逃げ込もうとしたが、施設科のウインチ付き73式大型トラックのウインチを甲羅に引っかけて、地中から吊り上げた。
しかし、甲羅と震動を貫ける火力は小銃では足りない。
「総員、銃撃を続けながら後退、08が来るぞ!!」
機甲科の08式歩兵戦闘車が前進し、99式 30mm機関砲が唸りを上げて斉射される。
着弾とともに土煙が立ち上ぼり、テストゥドは甲羅ごと粉砕されて肉片に変えられていた。
「目標の死亡を確認、他にもいるかもしれないから警戒を厳にしろ」
一匹だけ個体がいると判断はせずに、近くにツガイや幼体がいる巣がある前提で捜索は開始され、発見された巣穴に手榴弾が放り込まれて駆除に成功するがこととなる。
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