第226話 討伐任務
大陸東部
ソリステア子爵領
日本国自衛隊分屯地
「ほほう、子爵閣下がお国入りの前に野盗やらモンスターを掃除する為に各部隊は出払ってると?
結構なことだと思いますが、これはあれです。
我々も参加した方がいいのですかな?」
偉そうな口調で語る大陸東部警務隊隊ソリステア分室室長の夏木一成一等陸尉に第13先遣隊隊長城ケ根三等陸佐は辟易していた。
大陸東部警務隊が一等陸尉というこの分屯地のNo.2たる普通科中隊隊長の羽倉一等陸尉と同等の階級の隊員を送り込んできたことに作為を感じてしまう。
「そちらの任務の性質上、現地の把握は必須になるだろう。
うちの隊員と同行してもらえば案内にはなる。
色々出払ってはいるが、偵察班が残っている問題はなかろう」
「大丈夫ですかね?
いや、こちらに問題がありまして、うちの分室10名のうち4名はWACなんですよ」
女性差別をするわけでは無いが、色々と気を遣うし、体力的に男性隊員に見劣りするのは間違いない。
「参ったなあ。
実は残りのメンバーの海自組にもWAVESがいるんだ」
陸上自衛隊が女性自衛官をWoman's Army Corps、通称WACと呼ぶのと同様に海上自衛隊もWomen Accepted for Volunteer Emergency ServiceをWAVESと呼称する。
ちなみ航空自衛隊もWoman in the Air ForceをWAFと呼称し、この分屯地にも二人いるが、彼女等は他の部隊と領内の掃除に他のWAC達と早々に参加してしまっていた。
「後の二人は誰なんですか?」
「君等同様普段はこの分屯地にいない隊員で、鉄道科の望月一等陸曹だ」
このソリステアにも鉄道の駅があり、現在は申し訳程度のローカル駅だが、そこの自衛隊路線の保守、管理かを担当する駅員隊員である。
頭痛を覚えてきた夏木一尉は、最後の一人に期待を掛ける。
「まあ、最後は自分だな。
色々配分してたら先遣隊長の自分が余ってしまった」
夏木一尉が本人の前で天を仰いでしまったが、城ケ根三佐は咎めることはしなかった。
「本当に気を遣ってるのは俺達だよ」
偵察班班長倉田洋介一等陸曹は、分屯地のボスや女性自衛官達を押し付けられたことを部下達に愚痴り出した。
「とにかく、ボスとお嬢さん方を危ない目に合わす訳にはいかない。
気合いいれて、ご視察を無事終わらせろ」
「班長、さっきお嬢さん方の武器を点検に行ってたんですが、うちの分屯地、89式なんてあったんですね」
「なんだと?
俺達だって、AK-74なのに……」
空自と海自はすでに全隊員分の89式5.56mm小銃が支給されている。
警務隊も本国寄りの部隊として支給されていた。
先遣隊の新装備配備など、大陸各師団より後である。
そこまで性能差があるわけでは無いが、待遇に負けた気がするのだ。
「車もなんか、ごっついのが……」
海自が高機動車なのはわかるとして、警務隊は装輪装甲車と軽装甲機動車を2両持ち込んでいた。
偵察班は偵察用オートバイ2両と軽装甲機動車1両である。
「ブッシュマスターか、そういやあったな、あんなの」
ブッシュマスター防護機動車は、2013年に発生したアルジェリア人質事件で邦人に10名の犠牲者を出したことを受け、自衛隊による邦人の陸上輸送の為にオーストラリアより4両購入した車両だ。
購入された車両は、中央即応連隊の誘導輸送隊に配備されていたが、大陸での戦争やモンスターの驚異から邦人を守るべく、輸送されたが、現在は本国に2両、総督府に1両、そして、この子爵領に1両の配備となる。
「みんなでそれに乗り込めばいいんじゃないですかね?
10人くらい乗れるでしょう」
さすがにその案は車載火器が不足するからと却下された。
それでも女子隊員5名と城ケ根三佐、夏木一尉は、ブッシュマスターに押し込めることに成功した。
幸いなことに警務隊隊員は全員がブッシュマスターの運転が出来るので、彼女等に運転手とガンナーを任せればよかった。
上官二人はギスギスした空気の中乗車し、女子隊員特有の空気に晒されて気まずい道中となった。
「ああ、俺はどれに乗ればいいですかね?」
鉄道科の望月一曹は業務2号車という民間車両を自衛隊業務用に塗装した車両で分屯地に駆けつけたので、他の車両を割り当てられた。
「海自さんの高機動車に乗ってくれ。
普通科の訓練も受けてるならガンナー出来るだろ?」
車から降りなければ多少のモンスターや野盗相手でも即死はしないだろうと倉田一曹は考えていた。
ある村に盗賊討伐に来た羽倉一等陸尉は呆れ果てていた。
領内の掃除は、一番人数の多い普通科隊員を6つの分隊に分けて、他の隊員のフォローをさせて任務に当たらせることになっていた。
羽倉一尉の隊は、普通科10名、特科、後方支援科、施設、通信科の各5名。
普通科隊員以外は後方で大人しくしてくれれば良いと考えていたが、特科隊員がM120 120mm迫撃砲を高機動車に牽引して持ってきてくれた。
通常、迫撃砲など普通科連隊の重迫撃砲中隊で運用するものだが、特科の自走榴弾砲など先遣隊の分屯地に持ち込めないし、第一空挺旅団などでも特科が運用してることから、彼等に運用を一任している。
「だんちゃーく、いま!」
野盗に襲われていた村の広場に火柱があがる。
人がいないのを確認して、砲撃したのだが、襲っていた野盗も襲われていた村人も等しく爆発の衝撃波で倒れるか、驚愕に動きを止めていた。
そこをすかさず車両群が突入し、降車した隊員が銃床で野盗を殴り倒し、村人を救助していく。
隊員達は発砲すらしてない。
本来は野盗など、その場で射殺しても良かったのだが、彼等の格好が気になり制圧に留めていた。
「お前ら正気か?
よくこんな衣装用意できたな」
拘束した野盗集団は奇抜なメイクを施してる者、髪型をモヒカンにしてる者、ホッケーマスクやガスマスクを被る者、トゲ付き肩パットや鎖を体に巻く、いわゆる世紀末ファッションだ。
武器も釘付き棍棒やクロスボウ、刀剣にモーニングスターという凝りぶりだ。
「こんな格好の集団が、バギーやバイクで攻めてきたのか。
そりゃあ、村人は怖がるよな」
拘束したヒャッハー集団は20名ばかり、困ったことに全員が地球人だ。
半数は日本人で、他のアジア系、白人系とバラエティーに富んでいる。
不幸中の幸いで、村人に死者はいなく、怪我人は隊員の治療を受けているので、世紀末野盗の処置は自衛隊に一任してくれていた。
本来なら広場で縛り首だっただろう。
「その……指示役が全部用意してくれれてて……
俺達は借金や前科で首がまわらなくて、闇の求人広告の応募に乗っちゃいまして……」
尋問に答えた男は、メイクを洗顔で落とせば、どこにでもいそうな中年の男だった。
闇の求人広告は、冒険者達に後ろ暗い仕事を斡旋する盗賊ギルドの地球人版だ。
別名闇バイトとも呼ばれ、移民したばかりで新天地に馴染めない地球人や犯罪歴のある地球人の間で広まっていて、社会的不安を覚えさせていた。
「なるほど、地球人相手だと官憲の取り締まりに合うが、大陸人の村だと自警の兵士さえどうにかすれば、警察は来れないし、領邦軍は機動力から追い付けない。
略奪した農作物は闇市に流すか、考えたな」
闇市の存在は総督府も黙認はしているが、流通経路は厳しく取り締まっている。
指示役は元々村の外にいて、自衛隊の攻撃を目の当たりにして早々に逃亡していた。
羽倉一尉は闇バイトの野盗達の処分に困ったが、地球人である以上、村人や領邦軍に引き渡すわけにはいかない。
踞っている一人の肩を叩いてある提案する。
「君、いい体してるね、更正師団に入らないか?
衣食住は師団が面倒見るから好きなだけ貯金できるし、いろいろな資格も取れるぞ」
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