第216話 お礼参り 中編

 大陸東部

 日本国 新京特別行政区

 貴族街


 端正な高級住宅街に爆風が巻き起こり、迫撃砲の攻撃で一件の屋敷の塀がほとんど吹き飛んでいた。


「突入!!

 敵の生死は問わん、制圧せよ」


 第6教育連隊第6教導中隊を率いる柿生一等陸尉が号令を掛けると、AK-74 自動小銃を手にした隊員達が、崩壊した屋敷の壁に駆け寄り、壁穴や崩れた壁の隙間から銃弾を撃ち込み、担当区域を殲滅していく。


「うちの隊は逃げ出す奴を狙え」


 同連隊の同連隊新隊員教育中隊隊長中沢一等陸尉も新隊員達を率いて、屋敷から飛び出してきた不平浪人や反日元貴族を射殺していく。


「新隊員のうちから実戦経験完了か。

 引く手あまただな、お前ら」


 この屋敷には主家を改易され、浪人と化した貴族や騎士、兵士達が集まっていた。

 同様に別の屋敷、ダロトン伯爵の屋敷には、残党軍を支援する不平貴族達が集まっている。


「伯爵、このままでは……」

「ここに集まってるのがバレたら自衛隊が突入しかねない。

 各々方は各屋敷に戻って、シラを切りながら私兵を集めよ」


 今はこの屋敷はダロトン伯爵の屋敷の兵と貴族達が連れてきた護衛の騎士や兵士が少数ずついるだけだ。

 この貴族達が各々の屋敷に戻ればそれなりの兵士を動かすことが出来る。

 しかし、屋敷の門が開いて最初の竜車が出ようとしたとき、目映い投光器の光りに照らされた。

 屋敷のまわりは特型警備車に囲まれ、ポリカーボネート製の盾を整然と並べ、待ち構えていた。


「警察を舐めるな。

 全隊突入、一人も逃がすなあ!!」


 新京警視庁の第1機動隊に第2機動隊が屋敷を取り囲むように展開していた。


 貴族達の護衛の騎士や兵士達は、機動隊隊員達の大半が木製の警戒杖であることから切り抜けれると剣を抜いて、向かっていく。


「ガス小隊、撃て!!」


 後方に控えていた機動隊のガス小隊が、ガス筒発射器から発射し、ガス催涙弾に騎士や兵士達が、咳や涙で連携を崩されていく。

 出鼻をくじかれたところに隊列を整えた機動隊達のシールドアタックで突入され、武装を取り落として制圧されていく。

 さらに機動隊隊員達の幾人かは、明らかに日本刀や槍を持っていた。

 刀や槍で武装した抜刀班は、隊員達でも腕利きの剣術使いだ。

 奇襲で鎧を着ていない騎士達なら十分に圧倒して切り捨て行く。



 自衛隊の襲撃から屋敷をなんとか抜け出したイワノフは、最後の切り札だったAA-52 汎用機関銃を二丁持たせたアンデッドナイトに包囲を崩させ、足止めさせることで追跡を振り切り、港に向かって逃走していた。

 日本側の立て直しが予想以上に早く、その日のうちに報復に乗り出して来るとは考えてなかった。


「1日くらいは余裕があると思ってたんだかな……」


 港まで行けば、味方の貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ 』が、寄港していてコンテナにはドラゴンゾンビも待機させている。

 さすがに徒歩では無理かと、ゴミ収集を行っているゴミ収集車と作業員に目を付ける。

 拳銃を突き付け


「おい、その車は頂いていく、大人しく引き渡……」


 最後まで言う前に作業員達が、小銃を手に発砲してきた。

 地面を転がってかわすが、路地にいた軽トラックに撥ね飛ばされて動けなくなる。

 拳銃を奪われると、担架に載せられて救急車に乗せられる。


「お、お前ら救急隊員じゃないな?

 さ、さっきの作業員も……」


 救急車の外では、公安調査庁の波多野支局長が撤収の指揮を取っていた。







 新京城 

 大陸総督府


 新京総督府の指揮所では、佐々木総督が戦況報告を難しい顔をして聞いていた。


「こちらの状況はまずまずですね。

 足元が片付く前に、更に状況を動かします。

 敵の本拠地、ホラディウス侯爵領を攻撃します」


 猪狩三等海将が指揮所のモニターの地図に護衛艦の配置図を出す。


「シュヴァルノヴナ海で作戦行動中だった『いかずち』が、新香港沖合いにいます。

 また、大陸の定期沿岸パトロールを行っていた『きりさめ』も大陸西部沿岸を航行中です。

 攻撃に参加できます」

「よろしい。

 続いて、空自の動員状況を」






 大陸東部

 日本国 中島市

 航空自衛隊 中島基地

 基地司令部庁舎ビル


 第9航空団司令の執務室から澤村三等空将が慌てて防空指揮所に飛び込んできた。

 副官も指揮所の警備の隊員もぶっちぎる勢いで飛び込んできたことに防空指揮所の隊員達も驚いていた。


「各飛行隊で今すぐ飛ばせる戦闘機や攻撃機は幾つある?」

「各飛行隊2機スクランブル待機、バックアップにさらに2機が待機、予定通りであります」


 大陸の航空自衛隊は第9航空団が統括している。

 F-2戦闘機の飛行中隊とF-4戦闘機の飛行大隊だ。

 F-4戦闘機は本国で老朽化した機体を部品取り、共食い整備等でなんとか飛ばせる機体を大隊分確保出来た形だ。

 F-15やF-35は経済的では無いので少数配備だ。


「爆装して全機飛ばせるようにしろ。

 パイロットは全員招集。

 センチネルも飛ばせ、王都で給油させる」


 P-3AEW&C センチネルは、異世界転移で出番が減って、余剰となった海上自衛隊の哨戒機P-3cを改造した機体だ。

 グラマン E-2 ホークアイ用のAN/APS-125レーダーと電子機材を搭載したもので、アメリカアメリカ税関局で使用されたのを参考に再現させた。

 本国がE-2 ホークアイ 、E-767 J-WACSといった早期警戒機を大陸に配備を渋っていたことからの代用措置だ。


 開店休業と揶揄され、大半の隊員は地方業務本部に出向させられたり、空港管理の補助や航空機の製造、整備を行っている中島飛行機にバイトに行っていたりしていた。

 今の航空自衛隊が緊急に必要な任務など、輸送任務くらいしかない。

 緊急招集のサイレンや各種連絡が共同農場の方まで流されて、隊員達は大慌てで基地に戻ることになる。






 大陸中央部

 王都ソフィア

 宰相府


 緊急に会見を申し込まれた王国宰相ヴィクトールは、王都に駐屯する在ソフィア駐屯地の副駐屯地司令にあたる小代三等陸佐を応接室のソファーに座らせた。

 明らかに位負けして、大使や連隊長の先触れとして寄越されることが多い小代三佐にはいつも同情を禁じ得ない。

 しかし、彼が来るということは難題が持ち上がった時だと襟を正す。


「今回はどんな難題をお持ちになられたかな?」

「いや、大したことではないんですがね。

 ちょっと空自さんが、王都の上空を航空機を飛ばさせるので、お騒がせするかと」


 王都の上空を飛ばさせるなど、無礼だ、領空侵犯だ!!

 と、いう法律や概念は王国にはない。

 空から襲ってくるのはモンスターだから意味がなかったし、飛竜騎士は絶滅危惧種だ。

 領空という概念は地球側から学んで研究されているが、法に落とし込めるほどの暇がない。

 日本の輸送機や偵察機はたまに飛んでくるので、わざわざ伝えに来るのは実戦を意味していることはわかる。


「して、何機ほど?」

「最大で50機ほど」


 驚愕にポーカーフェイスを崩す宰相に小代三佐は心の中で詫びを入れる。

 普段は冷静で老獪な宰相は、急いでお触れを出す準備を始める。


「新京で色々有ったとは聞いている。

 佐々木総督閣下はそれほどお怒りか?」


 問いながら官僚達を呼び出し、王都にお触れを出すよう申し伝える。


「先に陛下を通さないでいいんですか?」

「お主等はわかっておらん。

 かつての皇都を灰塵と帰した空爆の恐怖を。

 1機や2機ならともかく、何人十機も頭の上を飛んだら中央の民はパニックになるわ!!」


 ホラディウス侯爵領は一応は王国所属で、そこを攻撃することに関しての抗議は一切無かった。

 侯爵領が皇国残党の根拠地となっていたのは、公然の秘密だったからだ。


「だが侯爵領の民には罪はない。

 小代三佐、そのあたりの配慮を総督閣下に御進言願えないかな?」



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