第212話 獣身変化

 大陸東部

 日本国 新京特別行政区

 大陸総督府


「護衛艦『いかづち』の配備で、定数は8隻のうち、7隻がむらさめ型で編成されたから旗艦は護衛空母が良いと?」


 この日、佐々木洋介総督は、新たに大陸の海上自衛隊第5護衛艦隊に配備となるむらさめ型護衛艦『いかづち』の報告と今後の海自の那古野地方隊の方向性を那古野地方隊総監猪狩三等海将と第5護衛艦隊司令中川誠一郎三等海将と懇談していた。

 西方大陸アガリアレプトの戦線からもがみ型護衛艦『なとり』が帰還し、本国の護衛艦隊に復帰した。

 代わりに護衛艦『いかづち』が、アウストラリス大陸配備となったので詳細を詰める必要があったからだ。


「次は旧式のしらね型護衛艦が配備されて、当面はしのがれます。

 あれもヘリコプター搭載護衛艦には違いないですが、就役から半世紀以上経ってますから流石にガタが来てます」


 ヘリコプターが3機運用できるしらね型があれば、作戦運用としては幅が大きく広がる。

 しかし、垂直離着陸機 V-22 オスプレイや大型輸送ヘリコプター CH-47 チヌーク、将来的にはF-35 ライトニング IIの空母運用を考えると見劣りするのは間違いない。

 しらね型は二隻とも老朽化と事故による修理で、スペック的にも不安が多い。

 ましてや『しらね』自体、異世界転位元年に退役させるところを慌てて取り消した経歴もある。

 財務省の『』自衛隊装備は壊れるまで使え』は、海自においては『沈むまで使え』だから酷い話ではある。

 しらね型の『しらね』、『くらま』共に大陸の那古野地方隊第16護衛隊に配備されている。

 その総監たる猪狩海将としては、中川海将に苦言呈し始める。


「散々言われてるが、しらね型はうちの主力なんだがね。

 いっそ、全艦むらさめ型でいいだろ?」


 佐々木総督はは苦笑を禁じ得ないが、それも長くは続かない。

 懇談を続けていると総督警護室長の吉田香織三等陸佐が警護隊員と川田雅晴次席補佐官が入室してきたからだ。

 全員が武器を携帯していた。

 警護隊員は拳銃を携帯することは総督府内でも認められていたが、小銃を持ち歩くことは緊急事態を意味し、心得のある川田次席補佐官まで日本刀を持っていることは、敵の侵入を許したことになる。


「総督閣下に提督の方々にご報告します。

 先程、新京城三の丸において、モンスター警報が発報されました。

 詳細は不明ですが、念のためにシェルターへの避難をお願いします」


 現在の三の丸は、陸上自衛隊の駐屯地として使われている。

 そんな場所への侵入などは容易な事態では無いことが、察せられる。


「わかりました、誘導に従いましょう。

 モンスターは市街地からの侵入では無いのですね?」


 総督府のある新京城は、新京特別行政区を護る外壁の一角を担っており、三の丸は内陸側に位置している。


「市街地からの報告は有りません。

 三の丸も非戦闘員の避難が済み次第隔壁を封鎖予定です。

 その前に駆除が済めば良いのですが」


 避難する前に武術の達人として知られる佐々木総督は、川田次席補佐官から護身用の愛刀を渡され、猪狩、中川海将達も預けていた拳銃を警護室室員に返却される。


「駆除の指揮は誰が?」

「柿生武志一等陸尉が部隊を率いて、現場に向かっています」





 新京城三の丸


 食堂で突如と発生したモンスターを遠巻きに、新隊員教育中隊を任された中沢一等陸尉は対処に迷っていた。


「中沢一尉!!

 なんでさっさと駆除にあたらない!!」


 非難の声を挙げているのは、司令部庁舎から駆けつけてきた第6教導中隊隊長の教導中隊隊長柿生一尉だ。

 彼からして見れば、新入隊員の部隊とは銃火器を持たせた隊員がいるのに発砲を躊躇う中沢一尉の指揮に疑問を持っていた。


「アレ、射ってもいいのか……」


 中沢一尉に促され、食堂内の様子を物陰から見ると、そのモンスターは見知った隊員の顔をしていた。


「加東二尉?」


 女子隊員の教官だった加東二等陸尉の上半身、両手は蠍のようなハサミ、下半身も蠍の胴体と針のついた尻尾を持つ姿に動揺を抑えられない。

 件のモンスターは他にも五匹。

 何れも訓練用の野戦服を着ていた。


「モンスターには侵入されたんじゃない。

 内部で発生したんだ。

 幸い食料がいっぱいあるせいか、あそこから動こうとはしていない」

「上に判断を仰ぐしか無いが、逃がすわけにはいかない。

 食堂を物理的に封鎖しよう」


 三の丸には訓練用の土嚢袋が多数、保管されているし、人数だけなら新入隊員、WAC、教導中隊と大隊規模はいる。

 食堂事態は鉄筋コンクリート仕立てで、人間より少し大きいだけの生物には簡単には壊せそうにない。

 窓からは人間大の大きさは出れない小ささと鉄格子付きだ。

 時間は稼げると判断するには申し分が無かった。


「扉だけの封鎖なら何とか出来るだろ。

 土や土嚢を積み上げて、掩体で食堂を封鎖する。

 各員指示があるまでひたすら土嚢を造り続けろ、かかれ!!」


 新人も女性隊員も一斉に動きだし、シャベル、或いは素手で土を掬い、土嚢を造り食堂出口を塞ぐように積み始めた。

 その間にモンスターはその姿が、酷似していることからギルタブルルという蠍人間のモンスターとして認定された。

 なお、この世界での発見報告は無い。






 新京中央病院


 医療大学を併設するこの病院から大勢の患者や職員が避難を続けていた。

 近隣の新京警察署から駆け付けた警官達は、誘導にあたり重武装させた機動隊隊員達が問題の看護学校を取り囲む。

 警官の一人が突入を試みる機動隊隊員に最新情報を告げに来る。

 新京警察署の車田署長で応じたのは機動隊の本宮隊長だ。

 共に階級は警視で同期でもあったので気安い関係でもあった。


「先に制圧に乗り出した大学保安官は死傷者を多数だして後退だ。

 ライオンの身体、人間の女性の顔と乳房のある胸、鷲の翼を持つ怪物が看護学校ロビーに陣取ってるそうだ。

 講堂での集会中に看護学生の一人が突如として変身。

 周囲の学生に噛みつくと四人の看護学生が同じ生物に変身という有り様だ。

 防犯カメラの映像からライブラリーに照会した結果、モンスターはスフィンクスと特定。

 過去に確認された事例は無しだとよ」


 大学の自治権を謳う大学側は権力の介入を嫌う傾向がある。

 その為に司法権を持つキャンパスポリスとも呼ばれる大学保安官が雇用されていた。

 この大学の保安官は助手二人と警備員4人達と制圧を試みるが、都市化が進んだ新京特別行政区内では重武装は許されておらず、拳銃と刀剣だけで退治を試み、返り討ちにあったのが真相だ。

 また、ライブラリーは地球時代の神話やファンタジー作品、この世界での知識人から得た情報から似ているモンスターから命名されるシステムだ。


「SARや自衛隊に頼んだ方が良くないか?」

「駐屯地に電話が繋がらないから伝令のパトカーを飛ばした。

 SARは総監の許可が降りたからこっちに向かっているが………

 間に合いそうに無いな」


 警官隊の設置したバリケードを突破し、数匹のスフィンクスが外に出てきてしまった。

 上半身に千切れた看護学生の制服を着ている。

 明らかに日本人の学生の容姿だが目が狂暴に血走り、奇声を挙げている。


「放水車と警戒杖で講堂内に押し返せ。

 だめなら……

 あれはもう人間じゃない、射殺を許可する」


 本宮隊長は自衛隊相手に顔見知りでも仲間意識が薄い相手だから苦悩しながらも部下達に決断下せた。





 同時刻

 新京東警察署管内


『警視庁から新京東PS管内。

 桜花女子高等学校にて、モンスターが侵入、暴れているとの マル目(目撃者)情報 入電 近い移動どうぞ』

『新京東04、同女子高至近巡回中』

『新京東04、了解 願います。

 侵入したモンスターは、上半身人間体、下半身蛇体の亜人タイプの模様。

 意思の疎通がはかれず、暴れまわるならば駆除が許可されました』

『新京東04、了解』

『以上、警視庁』

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