第190話 国際連隊

 大陸東部

 日本国 那古野市

 海上自衛隊那古野基地


 大陸にて海上自衛隊を統括する那古野地方隊総監猪狩三等海将は、第5護衛艦隊に参加するむらさめ型護衛艦『さみだれ』を基地内の桟橋に迎えていた。


「これでむらさめ型が6隻か。

『いなづま』と併せて第10護衛隊として活動できるな」

「欲を言うならそろそろ護衛空母の配備をお願いしたいところです」


 共に出迎えた第5護衛艦隊司令となる中川誠一郎海将補の言葉に頷く。

 異世界転移により周辺諸国への気遣いを気にする必要が無くなった日本は、いせ型やいずも型といったヘリコプター搭載護衛艦を護衛空母と呼称するようになった。

 また、いずも型の2隻には固定翼対応の改修が施され、垂直/短距離離着陸機であるF-35 B型やした垂直離着陸輸送機 V-22 オスプレイを既に配備している。

 最もF-35 B型もA型と同様に愛知県小牧市の工場での年間生産数が一機程度なので、配備は遅々として進んでいない。

 近年ようやく護衛空母『いづも』に9機の定数配備を達成し、『かが』への配備が始まったばかりだ。


「私としては補給艦や輸送艦といった支援艦艇を増やして欲しいな。

 いいかげん『しらせ』に代行させるのも無理がある」


 砕氷艦『しらせ』は南極観測船の任務が無くなり、その豊富な輸送力を生かしての補給艦や輸送艦の代わりに動員されていた。

 二人は護衛やら幕僚等のお供を引き連れて『さみだれ』の後部甲板にタラップを登り、降り立つ。


「本省からも言われてるが『さみだれ』は、昇進担当艦として取り扱う。

 昇進予定者の人選を取り進めてくれ」


 本国から遠く離れた大陸では、昇進させるポストも少なければ、他に異動させる基地も無い。

 ましてや移民問題と絡み、一度大陸に配属となった隊員は本国に戻さないこととなっている。

 新しく配備された艦は移民対象外の隊員が艦を降りて本国に残り、第5護衛艦隊や那古野地方隊の既存艦艇の乗員を昇進異動させる担当艦としての役割を与えられていた。

 昇進予定者を『さみだれ』に集めれば、他の艦船の乗員も穴埋めに昇進が可能になる。


「陸自も大陸に駐屯させる連隊を昇進担当と呼び始めたそうだが、空自がどん詰まりで年功序列による退役待ちで、不満が高まってるそうだ」

「その話は聞いてます。

 空自は大規模な部隊を作りにくいですからね。

 不満者が他の治安機関に流れたり、武装警備員として除隊してしまうとか」


 なんだかんだと言って、自衛隊は配給を優先的に受けれる好待遇な職場だ。

 家族に留意を勧められて残る者が大多数だが、人材の流出も年々増加していた。





 大陸南部

 サイゴン市

 在サイゴン日本国自衛隊駐屯地


「高麗からは誰が来るかと思ったがおまえさんか、納得だわ」


 日本国自衛隊水陸機動大隊隊長長沼貴司二等陸佐は、かつて何度か肩を並べて戦った高麗民国国防警備隊柳基宗少佐の参加を歓迎した。


「去年は虎人族相手にやらかしちゃいましたからね。

 こちらで鍛え直して貰えってことですよ」

「敵がいなかったのはお前さんのせいではあるまい」


 このサイゴン駐屯地は、南部独立都市群が協同で設立する国際連隊の根拠地になる予定だった。

 日本はあくまで教導並びにオブザーバーとして参加するだけで、主体は南部独立都市だ。

 これらの独立都市が紛争を巻き起こす為に毎回派遣されるのにうんざりしていたのが背景ではあるが、実際に日本側に余裕が無くなってきたのも事実なのだ。

 国際連隊の任務は、有事に対処する初動対応である。

 中隊長には柳基宗少佐が就任する。


「まあ師団相当の戦力がある我が高麗はともかく、他の都市は厳しいようで」


 高麗国国防警備隊は国際連隊に中隊規模の部隊を派遣したが、他の9都市は小隊を派遣するのが限界だった。

 それでも第二中隊として訓練はさせている。

 指揮官はエウローパ市都市憲兵隊のバウマン少佐だ。


「バウマン少佐もエウローパと南部貴族連合との紛争以来、最前線か閉職に行ったり来たりだからしがんしたそうですよ」

「うちにフレンドリーファイヤーしたり、乱闘になったりしたからな。

 あのバカ元市長のせいなのに気の毒なことだ」


 当の銃火の雨に晒された長沼二佐自身は、あの件をなんとも思っていない。

 部下に死傷者はいなかったし、政治家に苦労させられたバウマン少佐には共感を覚える。


「問題その1はあちらでして」

「今のがその1じゃなかったのか」


 訓練所で走り込むを行わされている南部貴族達の領邦軍から派遣された騎士や兵士達だ。

 大陸南部で起きる騒動を地球人達に任せるのは、矜持に反すると送り込まれた連中だ。

 地球人側の戦術ノウハウを学ぶ狙いもあるのだろう。


「あれって、現代軍隊でどう運用したらいいんですかね?

 一部の騎士達は先祖伝来の武具甲冑は手離せないと頑固なんですよ。

 散兵戦術ぐらいはできるんでしょうか?」

「とにかく走らせてから、先祖伝来の甲冑を汗臭くする気かと言ってやれ。

 俺達と同じ銃火器を支給するわけにもいかないし、連中の装備を役立つようにする運用を考えた方が早い」


 中には地球人から見てもみるべき装備や走り込みを見せる将兵もいる。

 聞いてみると南部貴族では先進的なハイライン侯爵領領邦軍や新京で人質として在住し、教育を受けた貴族子弟が新たに当主に就任し、改革に励んだ領地の領邦軍、或いは地球人が

 内政顧問に着いた地の将兵達だった。


「玉石混淆、二個中隊はいるな。

 千人にはまだ満たないが、連隊は名乗るくらいは問題ないか」


 これらが軍隊としてモノになるまで鍛えるなど骨が折れるなとため息が出る。


「どうれ、矜持とか、血統とか、身分などとか抜かす連中の鼻を折ってみるか」

「足りない分はどっから持ってくるんですかね?」

「知らん、考えるのは政治屋の仕事だ。

 まあ、言葉くらいは通じる連中が来るんだろ」


 後に長沼二佐は自身の発言を大いに後悔することになる。


「まだまだ俺は政治家連中を甘くみていたようだ」


 追加の部隊として送られてきたリザードマンには言葉が、ラミア達は性に関する自制心がなかった。

 エルフに至っては全裸でウロウロする。


 そしてこれだけの兵員を運ぶだけの車両も無かった。

 地球人の将兵は当分はケンタウルスの背に乗せられて運ばれることになる。


「さあ、遠慮無く我が背に乗りたまえ!」


 と、言われた長沼二佐は本気で腰の拳銃に手を掛け掛けていた。






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