第155話 2030年 新年の定例会議
大陸東部
日本国
新京特別行政区
大陸総督府
年が明けて西暦で言う2030年。
異世界に転移していつまで西暦なんぞ使っているのかという批判はあるが、日本以外の地球系独立国、独立都市に配慮し、日本の元号である令和と並行して使われている。
いっそ皇歴を公的に復活させようという動きもあるくらいだ。
秋山補佐官が総督執務室の日めくりカレンダーを仕事始めの今日の日付けに変える。
正月休みが終わり、執務室には総督府幹部が勢揃いしている。
執務室は新年の挨拶から恒例の定例会議の場と化していた。
「さあ、令和12年の仕事始め、今年も宜しくお願いします、秋月総督閣下」
「今年も宜しく諸君」
日本国では2019年に皇国との終戦、大陸進出という難局を乗り越えるべく皇室の方でも譲位が行われた。
元号も令和に改元となった。
青塚副総督補佐官が話題を振ってくる。
「本国からの新年の新聞も溜まってますね。
ん~、我が国の人口は11700万人迄に下落。
出生者数は117万人に上昇。
既に転移以降に産まれた日本人は1500万人及びますからね。
来年には地球出身日本人国民は1億を割り込むかも知れません」
その言葉に北村副総督が頷く。
大陸にいる日本人人口は800万人程である。
「来年には最初の年代の子供達の義務教育が終わる。
進学しなければ社会に出てくるかもしれん。
魔法が使える子供は、既存の権益を崩壊させるかも知れないから対策と政府による囲い込みが進んではいる。
敷地の余っている東京に全寮生の魔法科高等学校を創る計画だ。
そろそろ放置しておくのは限界が来ているということだな」
異世界転移により、この世界で産まれ育った地球人にも魔術や法力、神道術が使えるようになっていた。
寺社などの宗教団体は法力僧、神道術師として囲い込みを始めており、大陸系魔術の使い手も自衛隊、警察がスカウトの方向で動いている。
最も大陸系魔術は調布の相談役以外は教えれる者が少なく、完全に政府が管理できている。
一部にはネットに魔術の素質を見出だす方法や修行の仕方がアップされていてるが、中学生以上は魔力が無いので問題になることは少ない。
政府としても魔術の素質の保有者を集めるのは歓迎するところなので、特別に配給を増やすなど宣伝して登録化を行っている。
法力、神道術に関しては、相談役から学んだことを参考にそのノウハウが寺社に漏れていた。
術式そのものを寺社が管理していたのだから時間の問題だったのだ。
最も寺社は自分達の子弟を寺社の後継者として当面は外には出さない方針だ。
神仏の力を借りてる前提なので寺社の子弟にその素養がある子供が多かったのでやはり問題にならない。
「そのうち野に下った『本物の霊能力者』が現れるかもしれないが、大きな問題になるのはまだ先の話だろう?
宮内庁は陰陽寮の復活が出来ないか検討に入ったようだが」
杉村外務局長は面白そうに話すが、菅原食糧管理局長は渋い顔をする。
「直近の問題は自然発生的に現れ始めた精霊系の術を使える子供の出現です。
食料の自力生産で自然に触れる子供が多かったのが原因でしょう」
最初は見えないなにかと話をしている子供を見て大人達は、精神的な病か、イマジナリーフレンド的な何かと見ていた。
しかし、彼等の携わる田畑の収穫量や漁船の漁獲量が他と比較して膨大な物となっていた。
そこにエルフ達との接触による精霊術の存在の発覚である。
「エルフ大公領の王国からの独立は決まったが、講師として呼ぶには公序良俗的な問題があるから招致しにくくてな。
何故か本国からの苦情がこちらに来る。
あのフリーダムぶりはなんとかならんかな」
柿崎警視総監としては、大陸の日本領でもところ構わず脱ぎたがるエルフには苦い顔をしていた。
性的に奔放で容姿端麗な彼等彼女等に魅了される者も多く、
性風俗産業から芸能界、出版業界までもスカウトに動き、当然妊娠、出産した者もいる。
幸いにして本国ではエルフ達への租借地は東京都旧港区六本木5丁目だけであり、過疎化した東京では問題は少ない。
むしろ地続きの大陸の方が問題化しているのだ。
「ハーフエルフの方は対称的に身持ちが固いので、そちらを講師として招聘する方向です。
また、困ったことにエルフ達はハーフエルフに関してはネグレイト気味なので、大陸民はハーフエルフの村による保護が行われたそうです。
我々も日本人とエルフによる混血ハーフエルフ保護施設の建設が必要になります」
「どこからお金を捻出するんですか、全く」
秋山補佐官の指摘に斉木和歌財務局長代理がジト目で睨んでくる。
彼女の睨みを無視して秋山補佐官はそのまま話を続ける。
「移民問題ですが、浦和市、鯉城市、杜都市は年内に移民が完了します。
年末には沢海市への入植も本格化します。
陸自からは新設される第18師団司令部と来年到着する第35普通科連隊で防衛にあたる計画です。
次の都市は王都に派遣された第18即応機動連隊を呼び戻すとして、他はもうアテがないという話です」
先に言われてしまった陸上自衛隊大陸東部方面隊総監高橋二等陸将は、逆に答えを求められている。
「陸自にはアテはありませんが、総督府直轄の大陸人部隊で時間を稼いで貰うしかありません。
本国では第18即応機動連隊のかわりに新設された第53普通科連隊が入ったばかりです。
陸自は本当に手が足りません」
第53普通科連隊は転移後に創設された初の普通科連隊だ。
創設の為に各連隊から隊員を異動させたので、本国の部隊は
新隊員による大幅な補充が行われた。
新隊員のほとんどは失業者対策の即席自衛官ばかりだ。
戦力としてはまだ期待できない。
「まあ、そっちしかないか。
それとは別件で各国、各都市と合同でミュルドンへの調査部隊を編成することがサミットで決まった。
そちらの人員編成もよろしくな」
秋月総督の無慈悲な言葉に高橋陸将は頭を抱える。
「ああ、予算ですが海自も港の拡張が必要なのでよろしくお願いします」
新たにこの会合に参加することになった中川誠一郎三等海将だ。
現時点では海上自衛隊第5護衛隊司令にすぎないが、将来的に第5護衛艦隊司令となる。
増える艦船の為に整備施設に司令部庁舎、宿舎、桟橋の拡張等、建設するものが増える。
「去年は中島市の空自基地を拡張したばかりなのに……
王国からの年貢は厳しく取り立ててくださいね」
斉木財務局長代理の嘆きに杉村外務局長が狼狽える。
この場合の年貢とは王国と貴族に対する賠償を意味する。
「あんまり厳しくしてもなあ。
去年の西部動乱だってまだ終わってないんだぞ。
あの二の舞は御免だ」
昨年から始まった華西民国と西部貴族連合の戦いはまだ終わっていない。
貴族当主と主力の領邦軍は殆どが死亡し、領地の城や砦が破壊されたが華西からの取り立てや賦役が領民から相当恨みを買っていたのか、彼等による抵抗が止まない。
さらに一族の男子を失った貴族家から保護を名目とした乗っ取りによる侵攻によって、華西軍の侵攻ルートが寸断されることなった。
華西軍自体の経戦能力が低く、これ以上進めなくなっているのだ。
「年貢の徴収ルートが連合に加わった貴族とそうじゃない貴族の領地が入り乱れて徴収が大幅に遅れている。
途中で奪われたりしている」
これに対し、護衛の領邦軍は一切抵抗せずに引き渡している。
華西に引き渡すくらいなら抵抗勢力に渡そうという魂胆だ。
「我々はこれを静観する。
援軍の要請も無いしな」
秋月総督の方針には誰からも異論は出無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます