第153話 観艦式 2
豪華客船『クリスタル・シンフォニー』
クリスタル・ペントハウススイート
自国の艦隊が航行する姿を目にした高麗国任那波道知事白泰英は無事に観艦式に参加出来たことに胸を撫で下ろしていた。
「なにしろ百済サミット時は亀共の襲撃を受けたからな。
君はあの時はどうしてた?」
本当にアガフィア海亀甲艦隊に襲われた時は、当時百済市長だった白はストレスで死ぬ思いだった。
語りかけたのは護衛として乗船した国防警備隊の柳基宗少佐だ。
「百済港の亀甲船騒ぎを鎮めるように命令を受け、到着したら上陸してきた重甲羅海兵と鉢合わせてなし崩しに戦闘になりました。
何度も死ぬかと思ったか」
「ああ、そんな命令だした記憶あるわ。
しかし、今回も参加艦の調整に悩まされたな。
直前に水上艦8隻に調整してくれというから、一度は帰した警備救難艦を呼び戻す羽目になった」
大変な苦労だったが高麗国が日本に継ぐ2番手と位置づけられてるのは喜ばしい限りだった。
本国の存在と広大な任那道の存在がこの立場を作っている。
何よりも高麗国は日本以外では唯一軍艦を建造出来るのは強みだ。
特に目の前を航行しているな大邱級フリゲートの『大邱(テグ)』 『慶南(キョンナム)』 『大田(テジョン)』 『浦項(ポハン)』や統営級救難艦『光陽(クァンヤン)』は、この世界に転移してから進水、就役した艦だ。
当初は推進機の故障や推進軸とベアリングが干渉、破損しオイル漏れを起こす問題が複数艦で発生している。
日本の協力で最大速度を出せない欠陥はそのままだが、航行は出来るようになった。
「百済サミット時は西方大陸の戦線に派遣してたのは本当に失敗だったよな。
まあ、本国の決めたことなんだが」
『太平洋9号』も『大祚栄(テ・ジョヨン)』も百済サミットで奮戦したが、『大邱(テグ)』はアンデットドラゴンの戦いで中破する失態を犯している。
「ところで少佐、本国の存在をどう思う?」
柳少佐は返答に困るが
「冗談だよ」
と、伝えて艦隊に視線を戻す。
各艦の甲板には手空きの乗員達が整列し、白知事に対して敬礼をしてきている。
反対側では観閲艦『プミポン・アドゥンヤデート』に座乗するスコータイ市市長カムトン・プサーンラーチャキットに対して敬礼が行われている。
白知事も答礼し、思いに耽る。
今も海上戦力の主力がこちらにあって本国は無防備状態だ。
首都を百済に遷都するか、本国を切り離して分離独立するか、悩ましいところだ。
来年には大統領選があり、圧倒的な人口差がある任那道と本国を背景に白は出馬する気となっていた。
『続いて受閲艦隊第3群です』
高麗艦隊が通過し、白知事はベランダの椅子に座る。
「チカチローニ市長も似たような立場だがどう考えてるかな」
受閲艦隊3群は北サハリンの艦隊である。
同じフロアにチカチローニ市長は顔が怖いのであんまり会いたくない相手だった。
そんな失礼なことを考えられてるとは思いもしてないチカチローニ市長は、上機嫌でドワーフから購入した火酒をストレートで飲み干していた。
「う〜ん、上手いな。
難民に支援して工場を作らせた甲斐があったというものだ」
「市長、次は我が国の艦隊です」
「おお、そうか」
酒瓶を持ったままベランダの柵に近寄る。
「市長、落ちないでくださいね?」
「ああ、わかった、わかった」
北サハリンの艦隊は
第36水上艦艇師団
スラヴァ級ミサイル巡洋艦『ヴァリャーク』
ソヴレメンヌイ級駆逐艦
『ブールヌイ』、『ブィーストルイ』
第44対潜艦旅団
ウダロイ級駆逐艦
『アドミラル・ヴィノグラードフ』、『アドミラル・パンテレーエフ』、『アドミラル・トリブツ』、『マルシャル・シャーポシニコフ』
ボリス・チリキン級補給艦『ボリス・ブトマ』
の8隻は、海上自衛隊や高麗国国防警備隊を上回る大型艦、重武装揃いで、来賓の大陸人達を驚嘆させるに十分であった。
大陸西部
華西民国
首都 新香港
北側外壁
無数の騎竜に蹂躙された北部外壁の守備隊は防衛ラインを後退させて、主要なゲートや通用口を守るべく奮戦していた。
当初は武装、装甲化させた即製戦闘車両、テクニカル部隊を縦横無尽に走らせて騎竜達を撹乱するが、ヴェロキラプトル風の騎竜達は、高い機動力とトリッキーな動きで逆に翻弄させられる嵌めに陥っていた。
何よりも燃料不足で車両は停止し、乗員達は車内から銃を射って抵抗するが、今度は銃弾が不足する有り様だ。
幸いなことに騎竜達の鋭い爪や牙は、車両の装甲を切り裂き、貫くが出来ない。
しかし、西部貴族連合軍の竜騎兵団団長は、その矛先を北側外壁を守る陣地の部隊に変えてきた。
こちらも外壁に備え付けられた機銃や大砲も駆使して抵抗するが、すぐに弾薬の在庫が尽き掛けて幾つもの陣地が蹂躙され、通用門からの市内への侵入を許してしまっていた。
「了解、状況は理解した。
あとは任せろ」
陽城跡の市に駐屯する第1自動車化狙撃連隊第1大隊長劉文哲少佐は援軍の第一陣として、新香港市北側の西部貴族連合軍本陣のさらに後方に部隊を陣取らせていた。
残念なことに、敵本陣は旗指物や陣幕が放置されたもぬけの殻だった。
しかし、高所から見渡させる絶好の場所であり、ここから市内の味方に連絡を取り、各中隊に2両ずつ配備された三菱キャンター6両を駐車させた。
森には都市建設の為に伐採した木を運ぶための間道が無数にあり、悪路には辟易したが走破は可能な状態だった。
三菱キャンターが牽引するトレーラーの屋根に設置された銃座から攻撃が反撃の口火を切る。
「攻撃開始だ。
蜥蜴野郎共を生かして帰すな」
12基のJM61A1 回転式多砲身機関砲の銃弾が騎竜兵団の団長のいた後詰めの部隊を一瞬で粉砕した。
その後、森の中から接近した装甲化したトヨタ・コースターGX マイクロバスがいっきに接近し、窓から無数のAK74 カラシニコフ自動小銃74の銃弾が竜騎兵を狙い撃ちしていく。
グラインドドアからも通路側席にいた隊員達が飛び出し、後背を突かれた騎竜兵団を駆逐していく。
指揮車両に改造された三菱パジェロからは大隊長劉文哲少佐の指示が飛ばされていく。
「市内に敵が侵入しているが、大隊は市外の敵の殲滅に専念する。
徐々に攻撃を市外東側に展開できるようにシフトしろ」
下手に市街戦に参加して、部隊に無用な損害を出すことは避けたかった。
銃弾は騎竜達に当てるのは難しく、その硬質の鱗も銃弾の衝撃をある程度受け止め、致命傷を与えるのは困難なものにしていた。
しかし、騎乗している騎士や兵士達の位置は捉えやすく、着ている鎧は騎竜の鱗と肉よりも薄かった。
「少佐、こっちに1騎来ます!!」
身形が一際良く、着ている鎧も竜達の鱗で造られたスケイルメイルの男が騎竜に乗って突撃してくる。
その手には騎竜に固定して使う大型の騎槍が二本括り付けられていた。
その姿は一つの破城槌のようだ。
瀕死の騎竜兵団団長が事切れる寸前に自らの愛竜に目標を定めさせての突撃だ。
「スピードを上げろ!!」
突撃してくる騎竜を振りきろうと、装甲化パジェロはスピードを上げるが、それに呼応するように騎竜も追い縋ってくる。
文少佐はパジェロの上面ハッチを開けて、全周旋回可能なターレットと防楯付き銃架に取り付けられたPKT機関銃で蜂の巣にして仕留めることに成功した。
「焦らせてくれる。
第一中隊は残敵を掃討しつつ、守備隊と協力して放置された車両を給油してから本隊に合流しろ。
残りは市外東側の敵を叩くぞ、着いてこい!!」
幸いなことに非武装の市民の犠牲は最低限で済んでいると報告を受けている。
敵は市内の治安部隊と戦うのが手一杯で、略奪や虐殺といった行為は行う余裕は無いようだ。
主席官邸兼政府政庁たるノディオン城ももともと城だっただけに防衛施設として適しているし、住民が多数避難している。
一部住民は在華日本国自衛隊駐屯地にも保護を求め、受け入れられている。
敵も余計な手を出して敵を増やしたくは無いのであろと推察していた。
大陸南部
スコータイ市沖
豪華客船『クリスタル・シンフォニー』
クリスタル・ペントハウススイート
新香港からの新たな戦況報告に主席である林修光は胸を撫で下ろしていた。
「かなり押し込まれたようだが、ようやく鎮圧の目処が立ったか。
艦隊を帰国させたら西部貴族共に報復攻撃を行うから計画を立案させておけ」
まだ鎮圧も出来てないのに気の早い主席に呆れながら国防軍総参謀長常峰輝中将は了承する。
そもそも首都が敵の侵入を許した大事な時期にサミットやら観艦式に興じているのだから、帰国したら責任問題として追及されるのを理解していないのか疑問が生じていた。
「参謀長、我々の責任を追及して来そうな奴は、派遣部隊や制圧した貴族領の統治官として追っ払う。
帰国より前に部隊を派遣して制圧すれば有耶無耶に出来る。
忘れるな」
常中将は顔に出てたかと慌てたが、国防の責任者として自分も追及される立場だと思いだし、主席と一蓮托生だと思い知らされる。
「用城の包大佐が隣接するアランデル伯爵領に対する対越自衛反撃戦を上申してきました」
「許可しろ。
他の都市の部隊にも懲罰的軍事行動が取れるか問い合わせろ。
空軍による空爆で、連合軍に参加が判明した貴族の城や館、砦を攻撃させろ」
ベランダで今後の方針を話し合っていると、船内アナウンスが華西民国海軍の受閲艦隊の接近を伝えてきた。
『続いて受閲艦隊第4群です』
華西民国海軍は旗艦である江凱II型(054A型)フリゲート『常州』を先頭に、5000トン級海警船『海警2501』3000トン級海警船『海警2307』『海警2308』の3隻が菱形隊形で航行している。
その後を旧中華民国海上警察に所属していた3000トン巡防船『宜蘭』、旧シンガポール海軍に所属していたエンデュアランス級ドック型輸送揚陸艦『レゾリューション』が続くが、次の2隻は公用船として使っているのを数合わせに呼び寄せた調査船だ。
3000トン海洋調査船『東方紅2』
2650トン海洋調査船『海大号』
どちらも転移前は中国海洋大学所属の船舶だった。
現在は武装警察の調査船として、マーマンの海底王国の調査で大量の財宝や海洋資源開発で多大な貢献をした船舶だ。
どうにか数だけは揃えたが、来賓、観客には先の日本、髙麗、北サハリンの艦隊と比べれば質、量ともに見劣りするのが一目瞭然だった。
「もう少しどうにかならなかったのか」
航行する艦隊の勇姿に二人は敬礼しつつも、林主席の落胆したボヤキが常中将の耳に残るのだった。
華西海軍が終われば次は南部独立都市郡の艦艇だ。
大陸西部
エジンバラ自治男爵領
新香港からの邦人避難民をヘリコプターから受け入れていたエジンバラ自治男爵兼陸上自衛隊第10先遣隊隊長日本人の自治男爵にして陸上自衛隊三等陸佐丸山和也は、エジンバラの領邦軍を指揮するアレク団長に西武貴族連合に参加した隣接するアルケニア伯爵領への進攻を命じていた。
「よろしいので?」
「華西民国が空軍による攻撃を実施する兆候が出てきた。
自衛隊は動員出来ないから君らを動かしてくれという総督府の意向だ。
第一、アルケニア伯爵家は君等、エジンバラ本家の親戚だろう?
保護しろってさ」
「それはありがたいことで。
なるほど、日本は華西への牽制の為に西部貴族の不必要な弱体化は望んでないってことですか」
親戚といっても領邦軍や伯爵家男子は西部貴族連合軍に動員されてほとんど残ってないだろう。
「フォレスティン子爵領も進攻先に加えてよろしいですか?」
「勝手にやってくれ、軍監として隊員を派遣するから無用な軍旗違反は厳罰に処す。
総督府には連絡しておく」
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