第131話 総督府定例会議

 大陸東部

 新京特別行政区

 大陸総督府


 総督府では、局長や将官達を集めた定例会議が行われていた。

 今のテーマは経済の活性化について話し合われている。

 青塚副総督補佐官が財界からの要望を伝えている。


「現在は中島市が航空産業、那古野市が造船業の企業が集中しています。

 また、国内大手自動車会社10社が古渡市に工場を造り始めました。

 何れの市にも港を経済活動に使いたいから移民船の寄港を止めて欲しいとの要望が来ています」


 三都市にこれらの企業や工場が集中したのは、防衛的にも助かるのが本音だ。

 しかし、前提となる先立つ物が無ければ話にならない。


「移民船の事はこちらでも考えてたから問題は無い。

 しかし、そんなにポンポン大規模工場を造られても火力発電所の発電量では賄えないぞ?

 第一、車とか沢山造っても原油が足りないから売れないだろう」


 さすがに財界の代弁者である北村副総督も渋い顔をする。

 各都市の電力の主力は石炭式の火力発電所である。

 もちろん風力や水力等、自然エネルギーを活かした発電所も造られているが、そういった発電所はモンスターの興味を引いて、度々施設が損壊させられる被害が起きていた。

 保守点検にも武装警備員の護衛が必要になる有り様だ。

 沿岸部に建てられた石炭式の火力発電所も将来的な大気汚染の心配はある。

 秋月総督はそういう意味でも行政や産業の新京への一極集中は危険だと考えていた。

 原油も本国の僅かな採掘量と華西民国が運営する海底油田や北サハリンのオハ採掘所の成果をだましだまし使っている現状だ。

 現在、移民により人口が減少した千葉市内においても南関東ガス田に由来する天然ガスの採掘場が急ピッチで建設や整備が行われている。

 だが地盤沈下の恐れもあり、慎重な採掘の結果、大規模な増産に踏み切れないでいる。


「総督府としては神居市への移民本部移転を今月中に終わらせ、始動させる。

 あそこは他の都市と比べて自警団の力も強く、移民が大量に来ても受け入れの対応が見事だった。

 日本人冒険者に取っても最初の拠点になっていて武具の生産も盛んだ。

 経済力もあるしな。

 神居市は今は乳製品の製造、販売が順調なんだろ?」

「加えて種苗事業、養牛用飼料の製造・販売、緑化造園事業ですね。

 前三都市と違い、いずれも大陸民にも技術流失規制法に抵触せずに売れる商品なのは大きいですね。

 移民達に日雇いの仕事や農作業や牧畜の経験を与えれるのも大きいです」


 保存に問題のある製品ばかりだから流通も日本側で握れるし、牛乳自体は大陸民からも購入できる。

 大陸民から牛乳を買い取り、加工品を売り返す。

 その上で日本人の牧場による育成も行っている。

 そして市内には乳製品や製菓の工場を建てて雇用に貢献している。

 食料も工業もなるべく自給自足が可能な都市建設が優先だが、特色が出てきたのは都市経済に余裕が出てきた証しでもある。


「上手く食い込んだ好例だな。

 他の都市はどうだ?」


 秋山補佐官が立上がり報告する。


「福崎市に建設業企業が集中しています。

 植民都市の建設や鉄道網の構築などで引く手数多ですが、建築資材の生産、加工、流通などを一都市に集中させて合理化をはかっているようです。

 こちらも移民を建設要員として雇い込み、そのまま建設中の植民都市に送り込んでいます。

 他の都市はまだまだ第一次産業頼りですね」


 他にも総督府や企業はこの福崎市に研究機関を移転させている。

 一大研究都市への発展が望まれている。


「次のテコ入れは稲毛市か」

「稲毛市には食肉加工業者が工場の建設に乗り出しています。

 モンスターの肉の加工とかに力を入れたいと」


 食料の増産は急務なのだが、モンスターの中には人間と意志疎通を諮れる者もいて、肉として加工されることに抵抗を覚える者が日本人を含む地球人には大変不評ではあった。


「大陸では普通に食べられてるからと、食事会に連れまわされたのは悪夢だったな。

 こっちでは貴族とかでも普通に言語を話す二足歩行の生命体をディナーに出してきたりするんだぞ?

 何度その場で吐きそうになったか……」

「最初は何かの嫌がらせかと思いましたよ、アレ……」


 主にディナーと出されたのはオークという猪、又は豚の顔をした亜人だ。

 言語も有るらしいが、人間と人間と交流のある種族は、未だに語り合うことが出来ていないので解明できていない。

 なにしろ性格は凶暴で、他種族が視界に入ると襲ってくる。

 人肉を好み、繁殖率が高く、他種族の女を孕まることが出来る。

 傾向としてはゴブリンに近いが、その筋肉質な体は武器を持たない人間では絶対に勝てないとも言われている。


「ゴブリンと違い、上着を着る衣類文化はあるようです。

 あとは簡易な武器を生産する能力ですか」

「うわっ、よく食事として出してくるな、ここの連中!!」


 オークも貴族達の駆除対象だったが、例によって貴族達の弱体化によって被害が増えていた。

 大陸東部では植民都市を建設する前に自衛隊による駆除作業が徹底的に行われているが、他地域から巣別れをしてきたオークの流民が流出してきて、日本の庇護下に無い領地に被害が出ている。


「だいたい何で他種族の牝を孕ますんだ?

 ハーピーとは逆に、オークに牝はいないのか?」

「大陸の学者に聞いたところ、オークの牝は常に妊娠中と答えられました

 巣からはあんまり出てこないようです」


 本当はもっと生々しい話があるのだが、会議の場で語る話ではないと秋山は口をつぐむ。

 日本はおろか、他の地球系独立国、独立都市でも食材として忌避して、法で規整していたりする。


「それでも問題は有りまして、我々は食糧確保の為に各貴族領に賠償として年貢の半分を差し出させてます。

 しかし、食肉の中に毎回オークの肉が混じって送られて来るんですよね」


 そう発言したのは食糧管理局長の菅原だ。

 各貴族領から送られてくる膨大な食材を管理、配分する激務の為に目の下に隈を作っている。

 総督府で最も残業が多い局とも言われている。


「か、管理局の奮戦には頭が下がる思いだ」

「そう思いでしたら、食糧管理局の増員をお願いしますよ、何度も通達や指示を出しても送ってくるんですよ、あいつら」

「オークの肉は庶民には出回らない贅沢品の認識ですからね」


 菅原の迫力のある要求に秋月総督が圧されて、秋山補佐官がフォローを入れている。

 他の局長達は関わり合いになりたくないので、目を逸らしている。

 実際のところ、オークの食肉化に対しては反対運動まで起きている。

 よくある動物保護の観点では無く、


『なんか、生理的に気持ち悪い』


 と、正直に公言しており、多くの支持を集めている。

 ちなみに保護する気は全く無く、駆除に関しては推進しているくらいだ。

 その主張には総督府の面々も大いに賛同していたりする。

 だが菅原局長が愚痴をブツブツ呟き始めたので、空気が悪くなり始めた。


「そういえば中之鳥島の件はどうなっている?」


 話の空気を変える為に北村副総督が話題を提起する。


「ハイライン侯爵領にいた巡視船『つがる』を派遣しましたが、弾薬を使いきられても困るのでケートスの駆除は最低限。

 上陸も禁止しています。

 本国の調査船団待ちですな」


 海上保安庁第13管区本部長の原口海上警備監が答える。


「マイノーターや魔神共の対処は?」

「王国が近衛騎士団を派遣して、周辺の領邦軍を集めて、討伐軍を編成させています。

 うちからは魔神討伐に第16偵察中隊、第16戦車大隊、第6対戦車ヘリコプター中隊を派遣しています。

 マイノーター討伐には第17偵察中隊と冬季戦技教育中隊ですね。

 中之鳥島には水陸両用大隊を派遣しますから、待機させています。

 むしろ問題は今月から本格的に始まる浦和市への移民です。

 警備戦力の抽出が全く出来ていない」


 大陸東部方面隊総監高橋陸将が溜め息混じりに答える。

 すでに浦和警察署が設置され、300名の署員が活動を開始しているが、都市防衛にはとても足りない。


「いよいよ志願者と武装警備員による民間防衛隊の動員かな?」

「今でも自警団的な郷土防衛隊は組織されていますが、植民中の都市には組織しずらいものがあります」


 郷土防衛隊は、転移前から存在していた消防団を中核として、退官した自衛官や警察官を指導的立場として送り込み、消防、巡回、防犯、防災、都市防衛を目的とした民兵組織だ。

 あくまで自警団的な組織であるが、モンスターの襲撃に対する対応も求められており、組織だった猟友会的な役割も担っている。


「そもそも植民した連中にとってはそこは郷土じゃないだろ」

「新たな新天地に愛着を持ってもらう為の命名だからそこはいいんです。

 問題は移民が完了してない植民都市では、愛着も持たれないし、本国から来たばかりで大陸は危険な場所であるという認識も薄い。

 郷土防衛隊への参加者が集まらないんです」


 職業的意識も薄ければ郷土愛も無い。

 そんな彼等が命を掛けて、防衛任務に着けるわけがない。

 浦和市は自衛隊から抽出した戦力で周辺のモンスターの駆除が行われたが、次の杜都市ではそれが出来ないまま都市建設が行われ、植民が始まってしまう。


「それでも名乗りを挙げている団体はいるんですよ。

 まずは青葉城武将隊です」

「おい、いつの時代だと思ってやがる」


 秋月総督が思わずツッコムが、秋山補佐官はやれやれという感じで答える。


「きっかけは唐津・平戸ハーピー襲撃事件でして、平戸城の武将隊がハーピーの迎撃に役に立ちました。

 本国各地の城下町が観光用に作っていたおもてなし武将隊とかを自警的に武装化させている傾向にあるんです。

 仙台市も青葉城の武将隊を武装強化させていたんです。

 老人達の地域お越しな物から中高生の剣道部や弓道部の参加者が加わり、ボーイスカウトや他の格闘技系の団体が加わり、ちょっとした一大民兵組織になっています。

 通常の自警団組織とは一線を画した武装度です」

「ま、まあ、役に立ってくれるなら助かるんだが……」


 現状で戦力を出せないのは代わらない。

 鎧甲冑に弓馬槍剣、銃火器迄を自腹で都市防衛を担ってくれるならありがたいと思わないといけないと考えることにした。


「例によって日仏連の僧兵団も参加を表明しています。

 また、独自に大陸の傭兵を集めてる市もあります」


 あまりにも手際が良すぎて怖くなる。


「早めに自衛隊部隊を配備して、首輪を付けないとな」


 民兵組織に好き放題される未来しか見えなかった。


「もう一件よろしいでしょうか?」


 新京警視庁の柿崎亮警視総監が挙手している。


「治安関係で何か問題でも?」

「去年我が国はエルフ大公国と国交を結びましたが、その結果大陸東部の植民都市にもエルフが観光に来るようになりました。

 しかし、彼等彼女等は隙あらば屋内外問わずに全裸になったり、異性を既婚未婚、成人未成年問わずにナンパして性交渉に及ぼうとして問題になっています」

「しっかりと取り締まって下さいね、あと詳細な資料をお願いします」


 秋月総督もそれなりに興味があった。

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