第124話 2029年 三つの艦隊と海自特別警備旅団
大陸南部
高麗国
任那道百済市
高麗国では今年になって成立した任那道のもと、第五の植民都市耽羅市の建設ブームで好景気に沸いていた。
日本から派遣された鉄道連隊第4中隊の面々も増設される鉄道路線の乗務員、駅員教育に忙しがしい。
それでも百済駅ビルの庁舎からは港の全貌を見渡す光景が確保できていた。
「石出二尉、港が中々の見ものだぞ」
石出二等陸尉が上官である中台一等陸尉に言われて、窓から港の光景を観て驚きの声をあげていた。
「いつもの『慶南』、『太平洋9号』、『鄭地』に加えて、昨晩到着した『大祚栄』、『大田』、『浦項』、『太平洋10号』、『島山安昌浩』、『光陽』、『柳寛順』、『李範奭』、『安武』が停泊している」
「詳しいですね」
「方面隊総監部より資料が送られてきた。
どんな艦が来たのか確認しろってさ」
李舜臣級駆逐艦
『大祚栄(テ・ジョヨン)』
大邱級フリゲート
『大邱(テグ)』 『慶南(キョンナム)』 『大田(テジョン)』 『浦項(ポハン)』
孫元一級潜水艦(214型潜水艦)
『鄭地(チョン・ジ)』 『柳寬順(ユ・グァンスン)』 『李範奭(イ・ボムソク)』
島山安昌浩級潜水艦
『島山安昌浩(トサン・アン・チャンホ)』 『安武(アンム)』
統営級救難艦
『光陽(クァンヤン)』
太平洋3号型警備救難艦
『太平洋9号』 『太平洋10号』
「高麗国国防警備隊海洋部のほぼ全艦じゃないですか、本国の守りはいいんですか?」
「まあ、今はシュモク伯邦国がパトロ-ルしてくれてるし、哨戒艇でも十分だしな。
演習と国際観艦式も兼ねて暫くこっちにいるようだ。
それに今となっては大陸の方が本国の五倍の人口がいるからな」
この機会に高麗国は大陸側に防衛戦力を大陸側にシフトしてきている。
既に三個の軽歩兵連隊、砲兵連隊、軍輸支援連隊が創設されており、将来的に確実な人口増加による第六植民都市建設の暁には、第一歩兵師団司令部創設が予告されている。
「南部じゃ唯一の師団だ。
高麗国のお偉方もやる気になっている」
「その為の国威高揚の意味を込めた国際観艦式とサミットによる根回しですか、大変ですね」
二人は完全に他人事と楽しんでいたが、戦力の鉄道輸送に付いて問い合わせが殺到して苦労することになる。
大陸西部
華西民国
首都新香港市
同様の動きは新香港の軍港でも見られた。
国際観艦式に出席する艦隊を林修光主席が激励の為に訪れていた。
「私もサミット後に国際観艦式に出席する。
日頃の訓練の成果を存分に発揮し我が国の威信を示してくれると期待している」
国際観艦式に参加する艦船の艦長、船長達と一人一人握手していく。
現在は静岡県からの中国人移民の輸送の為に、護衛の艦船を割きたく無かったが、他国、他都市に遅れを取る訳には行かなかった。
3000トン級海警船
『海警2307』『海警2308』
5000トン級海警船
『海警2501』
江凱II型(054A型)フリゲート
『常州』
3000トン巡防船
『宜蘭』
エンデュアランス級ドック型輸送揚陸艦
『レゾリューション』
そして、新知島で修理を終えた094型原子力潜水艦『長征7号』がこれに加わる。
艦長代理の呉定発武警小佐の指揮のもと、『長征7号』に乗員が乗り込んでいくが、艦の乗員の定数が足りていない。
定員140名中70名しか揃っていない。
「まだ、潜航は無理だな。
大陸に来るだけでも日本人の力を借りたからな」
現在の海上自衛隊は練習潜水艦が少ない。
それを補う為に海上自衛官の訓練生を乗せての『長征7号』に乗艦しての大陸への航海だった。
さすがに今回は武装警察の乗員による単独航海だ。
浮上航行に専念するしかなかった。
「まあ、仕方がないな」
7隻の艦隊は新香港の港を出港した。
大陸東部沿岸
大陸南部近海
豪華客船『クリスタル・シンフォニー』
石狩貿易本社
石狩貿易CEO社長乃村利伸は、総督府から受注した仕事の契約書を企画部部長の外山と検討していた。
傍らには休暇で、本船に乗り込んでいる妻であり防衛大臣秘書の昭美も契約書を読み漁っていた。
「何も休暇の時までこっちの仕事を手伝わなくていいのに……」
「この船の保養施設は粗方体験し尽くしたわ。
暇潰しよ、家事とかやることも無いのだもの」
夫婦の会話を聞かされてる外山としては、この道楽社長の何が琴線に触れて、謹厳実直な完璧超人とか呼ばれていた彼女が結婚したのかが理解できなかった。
確かにこの道楽社長の父親が持っている権力や財産は魅力的だ。
だが当時の道楽社長は、大陸で冒険者を早くから始めていた浪人と言ってよい存在だった。
子供の頃からの幼馴染みと聞いてはいるが、彼女がそこまでロマンチストには見えなかった。
「それにしてもまさか総督府が我が社に仕事を振ってくるとは思いませんでした」
「総督府の人材不足は深刻なようね。
貴方みたいに胡散臭いのにまで動員掛けるのだから」
言いたい放題の妻と企画部長に乃村は涼しい顔で言ってのける。
「これも地道な宣伝活動が身を結んだ結果だろう、あ~はいはい、そんな目で見ない、冗談だから。
まあ、これはアレだな。
我が社のような何をするかわからないのを野放しにしておくくらいなら、仕事でも与えて行動に制限しようという腹積もりだと思うよ。
実入りも内容も悪い仕事じゃないから大歓迎さ」
今回受注した仕事は、狼の獣人を束ねるビスクラレッド子邦国の大使館設立に伴い、大使とその職員家族を日本まで輸送せよとの内容だった。
「また、大使館設立と職員家族が生活に必要な物資の調達や住環境の整備の為の窓口になって欲しいとのことだ」
「能力は評価されてるわけね。
悪評も信用のうちなのかしら?」
「で、企画部長、大使館周辺の購入は完了してるのかな?」
在日ビスクラレッド子邦国大使館は、旧ウズベキスタン大使館と隣接する旧スリランカ大使館が使用される。
租借されるのは高輪2丁目となるが、寺社や教会はその対象では無い。
「学校施設は全て廃校となっているから問題なく売却されました。
会社施設もほとんどが廃業か、移転してますので問題はありません。
後の問題は忠臣蔵関係です」
「忠臣蔵?
ああ文化的な問題か、東京の住民がほとんどいなくなったとはいえ、慰霊祭なんかは大勢集まるからな」
高輪2丁目には、忠臣蔵所縁の泉岳寺がある。
赤穂四十七武士の墓所も有り、ちょっとした名所でもあるのだ。
「狼人の気質からも問題は無いと思うがな。
武人系美談なんて喜びそうなネタだ」
3人で問題点の洗いだしをしていると、ブリッジから連絡が入り甲板に出る。
他の船員や社員も右舷方向に現れた艦隊に注目している。
「何なの?」
「船の上だと娯楽も限られるからな。
『『クリスタル・シンフォニー』の航路をここにしておいたんだ」
海上自衛隊あがりの船員がスピーカで通過してくる艦隊の解説をしてくれる。
艦隊は横二列に並んで航行していた。
「北サハリン海軍の第44対潜艦旅団です。
北サハリンとヴェルフネウディンスク市の防衛を第36水上艦艇師団と交代で行っている北サハリンの主力艦隊の一つです。
先頭からウダロイ級駆逐艦『アドミラル・ヴィノグラードフ』、『アドミラル・パンテレーエフ』、『アドミラル・トリブツ』、『マルシャル・シャーポシニコフ』。
続いて、アレクサンドロス=サハリンスキーを母港とする第100揚陸艦旅団です。
ロプーチャII型戦車揚陸艦『ペレスヴェート』、ロプーチャI型戦車揚陸艦『アドミラル・ネヴェルスキー』、『オスリャービャ』、アリゲーター型戦車揚陸艦『ニコライ・ヴィルコフ』。
次は第31保障船舶旅団。
普段は北サハリンとヴェルフネウディンスク市を往復していますが、今回の大規模艦隊運用の為に集結したものと思われます。
ボリス・チリキン級補給艦『ボリス・ブトマ』、改アルタイ級給油艦『イェルニャ』、『イゾーラ』、『イリーム』」
想像以上の艦数に昭美は驚いている。
そのほとんどが前世紀に建造され、艦齢40年以上の古臭い艦ばかりだが、偉容だけは凄まじいものがあった。
護衛艦『あさぎり』の艦長を父に持ち、防衛大臣の秘書ある昭美もそれなりに軍艦の知識はある。
何れもスコータイサミットの国際観艦式に参加する為の艦だ。
『クリスタル・シンフォニ-』の女性船員やスタッフが手を振ると、北サハリン海軍艦の乗員達も身を乗り出して手を振ったり、服を脱ぎ出して来たりする。
反面、乃村も子供みたいにはしゃいでいるが、内心ではがっかりしていた。
「ヴェルフネウディンスク市の防衛艦隊は仕方がないとして、第11水域警備艦大隊はいないか」
先年のポピキの戦いで活躍した部隊がいないことが残念だった。
「さすがに本国を丸裸にする気は無いのでしょう。
代わりに潜水艦が多数浮上航行してますよ」
外山の指さす方に双眼鏡を向けると、北サハリン海軍の潜水艦が多数浮上航行していた。
「さすがに艦名までは判りませんがオスカー型原子力潜水艦4隻、アクラ型原子力潜水艦5隻、デルタ型原子力潜水艦1隻、キロ級潜水艦3隻。
北サハリン海軍の潜水艦は全て揃っています」
同行してきた潜水艦は
オスカー型原子力潜水艦
『イルク-ツク』
『トムスク』
『クラスノヤルスク』
『オムスク』
アクラ型原子力潜水艦
『バルナウ-ル』
『サマ-ラ』
『カシャロ-ト』
『マガダン』
『ブラ-ツク』
キロ級潜水艦
『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォ-レツ』
『モゴ-チャ』
『コムソモリスク・ナ・アム-レ』
デルタ型原子力潜水艦『ポドルィスク』
で、ある。
「この偉容を見せつけるのが北サハリンの目的だろうな。
大陸も征服できそうだ」
乃村の言葉に頷きつつ、外山は別のことを呟いていた。
「ホストのスコータイを遥かに上回る戦力を出していいのかな?」
日本国
神奈川県横浜市
旧神奈川区 鈴繁埠頭
鈴繁埠頭には旧在日米軍が接収して使用していた横浜ノース・ドックという港湾施設がある。
他にも倉庫街、風力発電所が存在したが、異世界転移後は日本に返還されて海上自衛隊特別警備旅団司令部が存在する。
海上自衛隊の陸戦隊たる特別警備隊隊員達は、中隊長が頂点だったが、これでは三等陸佐止まりである。
本州の部隊を統括する大隊長、九州、沖縄を含む本国部隊を統括する連隊長、豊原、中島の部隊を含む全部隊を統括する旅団長が新設された。
勿論、はっきり言ってただの名誉職である。
ただし、名誉職に着いた者が実権を得よう目論むのも仕方がないのかも不思議なことではない。
廃墟と化し、復興が諦められたみなとみらいを窓から眺めていた旅団長河原崎海将補は、他の治安機関からもぎ取った陸上自衛隊の旧式装備の目録にガッツポーズで拳を頭上に掲げていた。
「やるぞ、74式戦車、155mmりゅう弾砲 FH70、89式装甲戦闘車、96式装輪装甲車。
部隊配備を進めて本国の特別警備隊の増員を認めさせる」
「落ち着いて下さい旅団長、戦車や榴弾砲なんて海自でどう使うですか?」
幕僚の三田村二等海佐の冷静なツッコミにも河原崎旅団長はめげない。
「アメリカの海兵隊だって使ってるだろ?
大規模な部隊を創る必要はない。
旅団司令部所属の混成大隊を編成できればいい」
確かに現在、西方大陸アガレプリヒトに派遣されている陸自の派遣隊、第1空挺旅団や第1特科旅団、富士教導旅団、中央即応旅団等は、増強されて旅団化された隊なのでそれぞれの基幹連隊に混成大隊と旅団司令部中隊が付与された形だ。
「水陸機動団の結成が再浮上してますから、リソースの喰い合いになるんじゃないですか?」
「なんだまだ諦めて無かったのかあいつら」
「それ絶対、他の人の前では言わないで下さいよ
」
まあ、河原崎海将補の言いたいことはわかるのだ。
これまで特別警備隊隊員は、その技量と反比例するように昇進に関しては冷飯を食わされていた。
それが名誉職とはいえ、海将補にまでなれるように部隊が拡大したのだ。
当然次は旅団の数を増やし、師団化、師団長、三等海将への道を切り開くのが目標だ。
組織拡大発展に意欲を示しているのは頼もしい限りと言えた。
「でも公務員としてはどうなんですかね?
ただでさえ軍閥化してないかと自衛隊は騒がれてるのに」
「今さらだな。
それに軍閥化は自衛隊に限った話ではないがな」
自衛隊が地域経済に根を下ろし、隊員が第一次産業に関わることで異動がほぼ無くなって土着化が進んでいるとは指摘されていた。
だが自衛隊以上に地域に密着して軍閥化しつつある組織があった。
今年に入って出入国管理局と正式に合併した国境保安庁だ。
「あいつらは我々よりえげつないかも知れんぞ」
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