第24話 共同戦線
街から竜騎兵が数を減らしたことを双眼鏡で確認し、石和黒駒一家は代官所の奪還に乗り出そうとした。
案内役の代官所の兵士や役人もいる。
僅かばかりの竜騎兵など銃弾で黙らせればいい。
しかし、竜騎兵と石和黒駒一家の間に高機動車2両が立ち塞がり、RPK軽機関銃の銃口がこちらを向いていた。
高機動車から浅井二尉が降りてくる。
勝蔵も組員を抑えて前にでる。
「どういうことで?」
「我々は基本的に王国内の争いに関与しない。
我々に火の粉が振り掛からないか、公的な機関からの要請がない限りな。
まして相手は出ていこうとしているんだ。
大人しく出ていかせればいい」
「ここは日本の管理区域じゃなかったので?」
「正確には来年からな。
租借してはいるが正式には王国の領地だ」
統治機関の代官所も今年限りの予定なのだが、今はまだ存在している。
「アレを行かせれば来年のここの領民は苦境に晒されますが、それでも我々を止めるので?」
「前者は答える権限はない。
だが、石和黒駒一家を止めるのは大陸密航の容疑者として拘束する為だ」
駐在所のパトカー2両も封鎖線に加わっている。
「なるほど、なら日本人でないギルドメンバーや代官所の兵士達は関係ないと?」
手を振って大陸系のギルドメンバーや兵士を先に行かせ、自衛隊側も素通りさせる。
だが若頭の北村や荒木は納得が行かない顔をしている。
「あいつらじゃ勝てませんぜ。
敵は銃を持っているが、あいつらには持たせてません」
「かといって強引に押し通ればモロともに銃弾の餌食だ」
浅井は日本人だけになったところで話を再会する。
「黒駒さん、あんたらは日本の移民局の許可を得ずに大陸に渡ってきたのはすでに判明している。
その経緯を説明してもらおう」
「大した理由じゃない。
青木ヶ原事件で、外道仕事がバレて地元に居場所を無くした。
大半の幹部組員が死ぬか、逮捕されて残されたこいつらを見捨てることも出来ずに組を継いだ。
だが日本では大組織に狙われ、地元を追われた。
で、紹介状を貰ったので、綺麗所を温泉街に斡旋する仕事で知り合ったタイ人マフィアに密輸船でタイ人の植民都市スコータイに渡ってこの地に来てみたのさ」
「紹介状?」
「ベッセン、その名を総督府に照会してもらいな。
そうすれば俺らのことは不問になるから。
まあ、そんなわけで密航かも知れないが、密入国じゃないんだ。
ああ、なるべく上の人間に掛け合ってくれよ、訳ありな名前だから。
そうだな経済難民というのが一番近いかもしれない。
日本人ではあるが、すでに王国に国籍を移したのさ。
つまりあんたらは王国の民に銃口を向けていることになる」
日本人が難民になる発想はほとんどの日本人には理解しずらい。
皇国は大陸に一つしかない国家だった為に国籍の概念はなかった。
王国は総督府からの提案を受けて国籍の制度を採用した。
皇国に比べて半分以下となった財政を改善する為に税制の効率化をはかる意味があった為だ。
その時にすでに町の住民となっていた勝蔵逹が、どさくさに紛れて、滑り込ませたのだ。
「だ、だが日本の施政権がこの街に及べばやはりあんたらは国を捨てた犯罪者として逮捕されるぞ」
「だがそいつは来年からなんだろ?
まだ、年は明けてないですぜ。
さあ、そこをどいてもらおうか」
「だいたいその銃器はどこから手にいれたんだ」
「あんたら植民都市造る際に厳重に刀狩りみたいなことしたんだろ?
タイマフィアも移民するのに足手まといになるから買い叩いたのさ。
元はタイ王国陸軍の横流し品さ」
そう言いながら封鎖線を駆け抜けていく。
不問にならなかったらならなかったで、この街は大陸系組員に任せて隣の領邦の事務所に拠点を移せばいいだけの話だ。
別に石和黒駒一家の縄張りはこの街だけではないのだ。
すでに竜騎兵団と大陸系組員の市街戦は始まっている。
「代官を救出したら我々に救援要請を出させろ。
公的な機関からの要請なら我々も動ける」
浅井が聞こえるように大声で伝える。
後ろ姿の勝蔵は片手を上げて応えていた。
方針を転換するようだが、せめて自衛隊としては介入の余地を残しておかないといけない。
このままでは石和黒駒一家の影響力だけがこの領地内で大きくなる。
「連隊司令部の一番偉い奴を出すよう通信しろ。
総督府の偉いさんに紹介状の真偽を確かめないといかん」
浅井は高機動車の無線機を担当している隊員に告げた。
建物の屋根や窓から銃撃を始める石和黒駒一家に竜騎兵団も応戦する。
しかし、竜騎兵団は銃撃戦を市街地で行うという経験はない。
通常は突撃と同時
マディノの町から高機動車2両が、竜騎兵団の追跡を開始する。
だがすぐに目標を視認することが出来た。
さすがに40台もの馬車が固まって街道にいれば嫌でも目立つ。
「なんでこんな所で停まってるんだ?」
「二尉、街道の先で騎竜兵団が交戦中のようです!!」
高機動車の後部でドローンから配信される映像を見張っていた隊員が浅井を呼び掛けてくる。
「一揆軍か?」
「いえ、これは二足歩行ロボット?」
要領を得ない隊員の発言に浅井もモニターを確認すると、確かに二足歩行の巨大な像が動いていた。
「ゴーレムって奴か」
グルティア兵達が一斉銃撃後、竜騎兵達が槍や剣で切りつけている。
デイノニクスも爪や牙を突き立てているが、まるで歯が立っていない。
尻尾を掴まれて振り回されている光景が目にはいる。
その周辺では一揆に参加した農民達が倒れていたり、逃げ回っている。
「先にアレを片付けないといけないか、やるぞ!! 」
銃架にRPK軽機関銃を装着し、高機動車から銃撃が開始させる。
車両から降りた施設科隊員もAk-74で射撃する。
無数の銃弾がゴーレムに撃ち込まれるが、多少ヘコませる程度で前進が止まらない。
そのヘコみもすぐに修復していく。
後方からの突然の攻撃にグルティア兵達は慌てるものの、マッシモが号令を駆けて落ち着かせる。
すぐに高機動車の元に駆け寄って忠告してくる。
「それじゃあ駄目だ。
ゴーレムは、魔力を込めた宝石を体のどこかに埋め込まれている。
それを破壊するんだ!!」
さすがにマッシモは家臣団に組み込まれて士族に族籍変更が行われているとはいえ、貴族の子弟だったこともあり日本語を学習している。
討伐の第一対象に忠告されて浅井は舌打ちをする。
「どこかってどこだよ!!」
「だいたい頭部、胸部、腹部がセオリーだ」
銃撃は当然胴体を集中して狙っている。
弾込めを終えたグルティア兵達も攻撃に加わる。
「あそこまでヘコめば、行け!!」
竜騎兵4騎が、デイノニクスの腕に取っ手を持たせて持ち上げさせた巨大な金属製破城鎚を火線に注意しながら突撃する。
巨大な杭のような穂先を持った重量400キロの金属製である。
「撃ち方やめ!!!」
銃撃が止まり、ヘコみが戻る前に、ゴーレムの腹部を金属製破城鎚が貫く。
「外れか、いかん、退け!!」
貫通して背中まで穴が空いたゴーレムの傷が塞がっていく。
刺さったままの破城鎚が、そのまま刺突していた部分が切り落とされる。
そのまま落とされた破城鎚を握られて振り回され、まだデイノニクスに取っ手を握らせていた騎竜兵二人が騎竜ごと投げ飛ばされる。
そして、何事もなかったかのように前進を再開する。
「兵を街道から外させろ。
さっきから見てると、奴は進路を妨害するものにしか攻撃しない」
浅井の指摘通りで、蹴散らされた農民や竜騎兵、排除された倒木や盛り土も全て街道のゴーレムの進路上でだ。
しかし、後続の馬車を街道の外に出せるほど、街道の周辺の森は広くない。
「最後尾の馬車から負傷者を馬車に乗せろ。
満載になったら順次その場で転回して町に戻れ!!
竜騎兵は足止めに徹しろ!!」
町には石和黒駒一家と代官所の兵士達が待ち受けてる筈だが、馬車に積まれた食料を無視出来ないのは同様だった。
まだ竜騎兵は30騎ほど残っているが、ゴーレムを倒す決定打に欠けていた。
転回しようとする馬車を浅井が引き留めている。
馬車の兵士達に片言の大陸語で説明しているが、なかなか理解してもらえない。
ようやく日本語がわかるマッシモが来て双方胸を撫で下ろしている。
「何をしている?」
「命令しろ、馬車に一揆に参加した農民も乗せてやれ。
そうすれば町に入る通行手形の代わりになるぞ」
確かに先程まで戦闘を行っていた武装集団がいる町に入るには手土産が必要ではあった。
「積み荷を放棄せるわけにはいかない。
負傷してない農民は走らせろ」
マディノの町では次々と引き返してくるグルティアの馬車に困惑していた。
「何があったので?」
「わからん」
勝蔵とエミリオも戦力を集め、グルティア兵を町の広場に集めて、馬車を制圧して食料を奪還させた。
グルティア兵の抵抗の無さに戸惑っている。
ようやく馬車に乗っていた農民に状況を説明してもらったが、町の外では爆発音がして全員が振り返る。
その後に銃声が鳴り響いている。
「手榴弾でも倒せてないのか」
町の門を高機動車が後進しながら竜騎兵と退避してくる。
「門を閉じろ!!」
だが閉じられた門には一向にゴーレムがやってこない。
門の内側で待ち受けていた自衛隊、グルティア兵、石和黒駒一家、マディノ代官所の兵士達は拍子抜けする。
高い塔から見張りをしていた隊員が無線機で叫んでいる。
「ゴーレム、進路を変更!!
街道を外れて東の外壁に向かってます!!」
「なんだと!?」
ゴーレムは街道から来ると信じすぎていた。
「東の外壁が破られたぞ!!」
「なんでそんなところから、あそこには旧子爵邸がある?」
エミリオの言葉に全員が顔を青ざめる。
「まだ、調査団が!!」
「村の娘達やうちの女の子達もそこにまだいやしたね」
「そんな、ジーンにまだ詩を贈ってないのに」
「え、うちの娘に?
娘達はそこにいるんですか?」
「街道は開いたみたいだし、我々は帰っていいかな?
いや、なんでもない」
全員から睨み付けられてマッシモは黙る。
全会一致で迎撃に向かうことなったが、根本的な問題が解決してない。
「どうやって倒すか?」
デイノニクスの爪や牙、銃弾や手榴弾、破城鎚でも効果は薄かったのだ。
移動を開始するが打開策は見つからない。
「待てよ、あれがあったな。
打撃が効かないなら押し返すか?」
浅井は旧子爵邸と連絡を取った。
ゴーレムは僅かな抵抗をものともせずに、旧子爵邸の門を破壊せんと破城槌を構えると、邸内の庭先でロシア製戦闘工兵車IMR-3のエンジンが唸りをあげる。
「いいのかなあ?」
「いいんじゃないですか、二等陸尉の許可は出てますし。
今さら調査団や女の子を退避させる時間もないですから」
車長である松田曹長と宮本一曹が、各種の装置の点検を行いながら会話をしている。
「よっしゃあ、800馬力の突撃を見せてやる。
速度最大、ブレードは奴の胴体を狙え!!」
何度も破城槌を叩きつけられた門が開門されると、IMR-3がゴーレムに対して突撃を敢行した。
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