第49話:終わり
「悪ぃ悪ぃ――じゃあ一旦、デイスを治療してやりな。こっから最終ラウンドだ」
ライツが言うと、ドスンドスンと地響きが聞こえてきた。
ドラゴンが近づいてきているのだろう。
しかし、傷を負っている上に、ある程度距離の離れた場所に落ちたため、治療するくらいの時間はあるだろう。
「分かりました――あっ、炎も受けてしまったんですね。治療します。神の息吹よ、我が手に宿りて彼の者の生命を癒やし給え『ライフブレス』」
詠唱すると、緑の光と共に俺の肌の焼けた傷は完全に治った。
本当に回復役が居るというのはありがたいな。
「助かる」
「再生魔法も使っておきます。神聖たる力よ、我が手に宿りて彼の者の生命力を再び取り戻さん『ライフリジェネレーション』」
「ありがとう――じゃあ準備完了だ。やるぞ」
俺が構えると、ドラゴンの姿が見えた。
首からダラダラと血を流しながら、こちらへと走ってきていた。
もう二、三発も入れば倒せそうだ。
「俺が突っ込む! こっちも配慮はするから、遠慮なく援護してくれ!」
「えぇ……? まあはい、分かりました」
納得のいっていなさそうなレイラルの返事を聞いてから、俺は走り出した。
先程のようなただの特攻ではない。
チームプレイ、とは言っても俺は前線役だ。
連携は狙いつつ、最前線でドラゴンの攻撃を受ける。
ヘイトを受けて、後衛を守るのが役目だ。
俺は迫ってくるドラゴンを見据える。
近くまで行ったところで、ドラゴンが勢いよく足を上げた。
踏み潰す気か。
俺はギリギリまでそれを引き付け、横に飛んで回避した。
ズン、と地響きがなるが、俺はそれをものともせず、目の前にある足に向け戦斧を叩き込む。
最初攻撃した場所とは別の部位だが、勢いよく鱗が弾け、肉を裂く感覚が伝わってくる。
「グルォォォォ!」
ドラゴンが雄叫びを上げ、尻尾を振り回そうとした――その時、炎の光線がドラゴンの顔をかすめた。
驚き、仰け反るドラゴン。
俺はそれに対して、最初に傷つけた足の方に回った。
鱗は剥がれ、肉のえぐれた箇所を狙い、戦斧を振りかぶった。
しかと命中し、血が噴き出す。
「グゥルルルォォォ!」
怒りに染まったドラゴンの声が聞こえ、腕を動かして俺に対して爪で攻撃しようとする。
――瞬間、氷の槍が勢いよくドラゴンの首元に突き刺さった。
それは、俺が傷を付けた部分に深々と突き刺さり、さらに血を噴出させた。
「おーらよっ! ついでにこれも食べやがれ!」
後ろからライツの声が響いたと思ったら、何かの丸い瓶をドラゴンの口元に投げつけた。
一瞬見えたその瓶の中には、白い何かが閉じ込められていた。
「矢の如くその炎を解き放ち、我が敵を焼き尽くせ! 『ファイアアロー』ッ!」
さらに、飛んでいく瓶に向かって詠唱を行うと、炎の矢が飛んでいった。
口の中に入った瓶を、その魔法が射抜く。
瓶が弾けると、そこからは霜が噴き出した。
炎と氷が同時に竜の口内を焼き尽くす。
極度に違うその二つの温度に、ドラゴンは声を出すことすらできていないようだ。
「お膳立ては済んだぜッ!」
グッ、と親指を立てたライツが、俺にそう言った。
「――ああ!」
頷き、俺は跳んだ。
眼前に出現するは、驚愕し目を見開くドラゴン。
さぁ、今度こそその首叩き斬ってやる!
「これで終わりだッ!」
俺は叫んで、戦斧を思いっきり横薙ぎに振った。
まるで閃光のように迸った攻撃が、その首を確かに捉えた。
振り抜き、俺は地面に着地する。
ドラゴンの体は、数秒の後に地面に勢いよく倒れ伏した。
◇
「――では、ドラゴン討伐にかんぱーい!」
「「「乾杯!」」」
レイラルが先に言ってから、俺たち三人も同じく声を上げた。
賑やかな夕飯時の酒場。
ドラゴン肉の料理をいくつか頼んで、俺たちは散財していた。
せっかくドラゴンに勝ったんだから、と祝勝会をしているのだ。
――あの時ドラゴンを討伐した後、俺たちは何事もなく戻ってくることができた。
ボロボロになった俺たちは、少しの間陽光の森で休憩した。
ライツがはしゃいで、レイラルが茶化して、ミレイルさんが仲介する。
何度か見た光景だ。
またそれが戻ってきたのが嬉しかった。
それから、俺たちは頭に生えていた角の一部を切り取り、討伐の
残りの部分はどうしようもなかったし、それ以外は放置して街に戻ることにした。
戻る過程、多くの魔物と会ったが、息を潜めているだけで通り過ぎていき、様々な場所へ散り散りになっていった。
もしかして、ドラゴンが居なくなったからスタンピードが収まりつつあるのだろうか?
まだ魔物同士の戦闘も起きており、平和とは言い難いが、最初よりはマシになっているようにも感じた。
――そして道中、セイズが居た。
息も絶え絶え、もうすぐ死ぬといったところで俺たちが助けに入り、結果的に命はとりとめた。
ミレイルさんの回復魔法で回復して、そのまま街まで連れて行った。
しかし、道中は一言も話さなかったし、付いてからも『助かった。それじゃあ俺は行ってくる』と言って一人でどこかに言ってしまった。
晴
その道中では陽光の森前線の人たちとかち合うことはなかった。
まあ合っていたら色々聞かれたかもしれないし、ちょうどよかったな。
全員装備がボロボロだったため、門番には怪しまれたが、今はスタンピードもあるからそれに追われた、と説明をすれば普通に通してくれた。
……まあ、嘘ではない。
戻ったところ、俺たちが起こした騒ぎについても色々と報告がされていて、スタンピードに関してもごちゃごちゃしていたと聞いた。
俺たちがドラゴンと戦ったときの轟音と、スタンピードの異変についてだ。
とは言っても誰が何をしたのかまでは分かっていなかったようだが。
当日は『スタンピードはちゃんと終わるだろうか』と不安に思いながらも、みんな疲れていたのでそのまま就寝。
これは後で分かったことだが、予想通りドラゴン討伐の影響でスタンピードは徐々に収まりつつあったようだ。
現時点でもまだ安全とは言えないが、大元が消えたこともあって街になだれ込むような自体は避けられそうだ。
街にも、段々と活気が取り戻されつつある。
で、討伐から帰ってきた次の日に俺たちがドラゴンの報告をした。
当然最初は信じてもらえなかったが、採取した角のおかげでなんとか信じてもらえた。
今はそれも向こうに保管されている。
その日は向こうも事務処理があったのか、特に何があったわけではなかった。
それで、昨日の疲れを癒やすために風呂に入ったり、最低限だけではあるが壊れた装備の修繕、買い替えをしていたところ――その次の日がまあ大変だった。
やれ本当にドラゴンを倒したのか、やれドラゴンはどうだったんだ、やれ英雄だな、などなど……
英雄譚好きな冒険者たちは、俺たちの話は話題にするにちょうどいいらしい。
ついでに、吟遊詩人にとっても。
ああ、でも英雄ってのもまあ、悪くはないな。
今まで人間扱いすらされなかったんだ。これくらいの夢は見たっていいだろ?
「ほらデイスさん、せっかくのドラゴン料理なんですから食べないと。食べないなら私が全部食べちゃいますよ?」
そんな俺の思考は、いつも通り食い意地を張っているレイラルの声によって引き戻された。
「まだ十七の女性なのに食い意地張りすぎだろ」
「そこはどうでもいいんですよ。それで、食べるんですか?」
「食べる食べる、流石にこの機会を見逃しはしないさ」
俺は詰め寄るレイラルに対して呆れ気味に返しながら、とりあえずこの祝勝会を楽しむことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます