第48話:狂戦士、"飛"ぶ
「みてぇだな。さて、竜討伐戦第三ラウンドってとこか?」
ライツがニヤリ、と笑って言うと同時、竜の咆哮が響いた。
瞬時、飛んでいるドラゴンがこちらへと急接近した。
その口の横には、炎が尾を引いていた。
ブレスか火球か、ともかく炎で攻撃するつもりのようだ。
「向こうの攻撃は私が一時的に防ぎます! ――ですが、長くは持たないでしょう。私も魔法を放ったら一度逃げるので、相手が攻撃している隙に相手を攻撃してください!」
すると、それを見たレイラルが叫んだ。
瞑目し、詠唱を開始する。
「荒ぶる暴風よ、我が呼びかけに応じ、絶えぬ絶海の嵐となりて万物を吹きとばせ――」
レイラルは、そこまで詠唱してから目を開いてドラゴンを見据えた。
その手には、渦巻く暴風が閉じ込められていた。
おそらく、いつでも発動できるということなのだろう。
詠唱保持、とでも言うべきなのかは分からないが、凄い技術だ。
――さて、じゃあレイラルの言った通り、俺は向こうの攻撃に合わせて攻めるとしよう。
レイラルは大丈夫なのか、という不安はある。
だが、今は彼女を信じよう。
彼女なら、できるはずだ。
「グルルゥ……ウォォォ!」
ドラゴンの声が響き、炎の息吹がその口から放たれた。
炎がその道を阻む全てを燃やし尽くしながら、進んでくる。
「――『ウィンドブレス』!」
同時、レイラルが手にある魔法を開放した。
緑の荒ぶる暴風が目の前の炎の息吹にぶつかり、双方がまるで鍔迫り合いのように相手を押し、また押し返していた。
レイラルは汗をかきながら、魔法を維持していた。
「――頼んだぞ、レイラル!」
そして、俺もドラゴンの真下に潜り込むべく、それに乗じて走り出す。
「攻撃ってどうやってやりゃいいんだろうな――クソッ、降りてきてくれりゃ楽なんだがよ!」
ライツが悪態を吐きながらも、俺の追従するようにドラゴンの方へと走っていった。
ちらり、と後ろの方を見ると、先程までレイラルが居た場所に人影はなく、ミレイルさんと一緒に横の方へ逃げているようだった。
俺は、そのまま高速で一人駆け抜けていき、ドラゴンの真下へ辿り着いた。
上部に居るドラゴンは、未だブレスを吐いている。
ここからどう攻撃するか――簡単だ。
ワイバーンのときと、同じことをすればいい。
あのときとは高さが違うが、俺の強さだって違う。
精神回復魔法がある状態の狂化、その効果に身を委ねる。
普通の狂化なら理性がなくなるが、今の状態では単純に気分が高揚するだけなのは分かっている。
冷静な状態ではやれない、かなり酔狂な作戦。
だからこそ、こうする。
さらに、俺にはミレイルさんの回復魔法という保険もある。
ならば、問題ない。
だんだんと気分が高揚していき、自分にはなんでもできるかのような全能感に満たされる。
――こっから飛んで、アイツの首を飛ばすだけだ、簡単だろ?
それから足に思いっきり力を込め、俺は跳んだ。
木々の間をくぐり抜け、俺は森の遥か上空へと飛び立った。
それとほぼ同時、ドラゴンがブレスを吐くのをやめた。
今は森林の方を睨んでいる。
どうやら、何かに気づいたらしい。
――だが、もう遅い。
未だ熱気が残る中、俺はドラゴンを見据えた。
制御の効きにくい空中、しかし俺ならやれる。
何も問題なんてない。
「落ちてもらうぜっ!」
思いっきり力を込め、その首を叩き切るようにして横薙ぎに戦斧を振り払う。
戦斧がしかとその首に突き刺さる。
鱗を砕き、その下の肉までをも傷つける。
「グルゥォ⁉」
「結構良いの入ったんじゃねぇか⁉」
驚きの声を上げ、一瞬制御を失うドラゴン。
俺は、空中ながらも未だ戦斧の刺さったドラゴンの体を軸にして、戦斧に全体重を乗せ――振り抜いた。
その勢いのまま、ドラゴンは一気に下方に落ちていく。
一瞬翼による制御が入るが、それでも落下は止まらずふらふらと落ちていく。
「グルォォ……」
一方、俺はというと――戦斧を振り抜き当たった衝撃で、一瞬上昇。
くるりと視界が一回転し、俺はそんな中どうにかして自身の体を制御した。
次に目に飛び込んできたのは、朝日。
遠く向こうの空は、段々と暁色に染まり、世界に太陽の光が戻りつつあった。
まだ地上は薄暗い。
俺だけが一人、この朝日を眺めていた。
まるで世界が遅くなってしまったかのように、俺はそれを眺めていた。
しかし次の瞬間、落ちていく俺の体によって、意識は現実へと引き戻される。
そういえば、ここは結構な高所だ。
困ったな――まあでも俺なら死なないだろ。
ニヤリ、と口の端に笑みが掠める。
「まだ全然、余裕だ――まずはアイツをふっ飛ばさないとな!」
叫んでから、地上を見据える。
風を切る音と共に、ぐんぐん地面が近づいていく。
――同時、俺の頬を炎がかすめた。
チリ、と髪が焼け、後に次弾が飛んでくる。
ドラゴンの死物狂いの攻撃か――!
「やべぇっ!」
必死に避けようとするが、無数に飛んでくる小さな火球の一つが避けきれず、もろに当たってしまう。
「クソッ、痛ぇな……!」
しかし、高速で落下していることによって、その小さな火はすぐに消えた。
痛みが走る中、俺は地上を見据える。
だが、未だ俺は落下の最中だ。
着地のことを考えなければいけない。
受け身の準備だけして、俺は大きく体を開いて、なるべく落下速度を落とした。
それで――
「……ああ、なんかちょっとヤバイ気がしてきた」
そう、少し正気に戻ってきてしまったのだ。
が、もうやってしまったものはしょうがない。
着地するだけだ――と、地面の方に動く黒い影が見えた。
それはだんだんと俺の下へと近づいてきた。
「――なんだ? あれ?」
しかし、そんなことを考えている暇はなく、もう地上はすぐそこだ。
そうして俺が体勢を整えようとした時――ふわりとした風が俺を包んだ。
それがレイラルの魔法であることに気がつくのにそう時間は掛からなかった。
まだまだ落下速度は速いが、ギリギリ着地できる程度の速度で落ちた。
しっかりと地面を見据え、着地。
「ほっ――痛ぇっ。流石に高く跳びすぎたか……」
しかし、衝撃を完全には殺しきれずに足に痛みが走る。
そして、俺は周りを見た。
そこに居たのは、レイラルとライツ。ミレイルさんは少し奥の方に居るらしい。
「また跳んでんじゃねぇよ馬鹿野郎。言えって言っただろ?」
「ほんとですよ。あれはもう
レイラルとライツが呆れ顔で俺に言った。
「……今の何がちげぇんだ?」
「……忘れてください。それよりも! まだ戦いは終わってませんよ?」
不思議そうにするライツに、レイラルが頬を染めながらそっぽを向いてドラゴンの落ちた方角を指差した。
「グルォォォォ!」
直後、大地を揺るがす咆哮が響いた。
「それもそうだな――だが、あとはウィニングランだろ。だって、ウチの狂戦士がいりゃあ楽勝だろ?」
剣を肩に預けたライツが、あいも変わらず好戦的な笑みを浮かべた。
「そう言ってくれるとありがたいがな」
鼻を鳴らし、俺は笑って答えた。
「皆さん……はぁ、はぁ、速いですね……」
少し遅れて、息を切らしたミレイルさんが言った。
「悪ぃ悪ぃ――じゃあ一旦、デイスを治療してやりな。こっから最終ラウンドだ」
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