第40話:暴走の中へ

「……さて、こっからだな」


 陽光の森の獣道を歩いていたところ、ライツが呟いた。

 森に入ってから、少し歩いたところで、。そろそろ、魔物が増えてくる頃だ。


 それと、この道は深部まで続いており、白竜山脈の麓まで出られるらしい。

 もし途切れていたとしても、方角を忘れず真っ直ぐ進めば山には着くだろう。


 辺りは既に暗くなっていて、森の中ということも相まって暗闇に包まれている。


 歩くことはできるが、戦闘は難しい程度の暗闇だ。

 普通の人間なら歩くのも厳しいかもしれないが、俺たちは慣れているからな。


 ただ、敵はレイラルの魔法で索敵し、戦闘時になればレイラルが宙に浮かせた光球でどうにかしてくれるとのことだ。

 レイラル曰く、浮遊型をずっと展開するのは意外と大変らしい。


「ですね。索敵魔法の反応によると、ここからは徐々に魔物が増えてきます――あまり戦闘なんてしていられませんから、なるべく無視して突っ切りますよ」

「おうよ、雑魚にかまけてらんねぇからな」


 レイラルの言葉に、ライツがニッと笑ってそう言った。


 そう言ってからまた歩いていると、今度は前方から声が聞こえてきた。

 ギャアギャアと騒がしいその声は、ゴブリンのそれに聞こえる。


「……声がすんな。それにちっとだけ炎が見える」

「ゴブリンだな。避けるぞ」


 声をひそめたライツの言葉に、俺は同意する。


 この暗闇でかつ戦闘中のゴブリンなら、まず気づかれないだろう。


 パキパキと枝を踏みしめる音がなるが、その程度ではこの戦いの音が無数に響く戦場では目立つことはなかった。


 俺たちはそのままうるさい魔物の中をくぐり抜け、しばらくするとまた声は聞こえなくなった。

 獣道から少しそれたが、戻ってから探してそこを歩く。


 ……と思えば、すぐさま別の魔物が戦っていた。

 レイラル曰く、巨大な熊っぽい魔物と数匹狼らしきシルエットが戦っているらしい。


 恐らく、奥の方から逃げてきた魔物が浅い部分の魔物を襲っているのだろう。

 食料もそうだし、ドラゴンが居るのを知って恐慌状態になっている魔物も居るのかもしれない。


「横を抜けるくらいなら行けるでしょう。行きますよ」


 そうしてまた、無事にくぐり抜けた。

 そうやって、俺たちはしばらく歩いていた――


「あっちに敵がいます。どうやら戦っては居ないようですから、音を立てないようにお願いします」

「また声がするな――ま、避けれるだろ」

「今回は少し多いですね――でも、戦闘してますし一応避けれますね」


 さて、そんなこんなで大体半分くらいまで行けたところだろうか。

 思ったよりも接敵せずに奥深くまで来られた。

 レイラルの索敵魔法のおかげもあるだろう。


 しかし――


「……本格的に多いです。ここからは、突っ切りましょう」


 レイラルが限りなく声を潜めながら言った。


「今度こそ戦闘か」


 ライツも、同じく小さい声で応答する。

 同時に、背負っていた剣を抜いた。


「ああ――ここから接敵したら、だな。下手に静かに歩くよりも、そうした方がいいからな」

「分かってるぜ。前々から聞いてたからな」


 俺が言うと、ライツは頷いた。


「じゃあ行くぞ」

「あ、待ってください。一回囮として大きな音を出す魔法を向こうに放ってみます」


 俺も戦斧せんぷを抜いて歩こうと思ったところ、レイラルに引き留められた。


「お、そりゃいい案だな」


 その言葉に、ライツが同意する。


「じゃあやりますね……えっと、今回は雷の二次被害は必要ないので、出力は――」

「ちょっと待て、今詠唱を考えているのか?」


 詠唱を変えると、少し魔法の仕組みが変わる。

 しかし、そういったことは基本的にかなり難しく、一朝一夕でできるものではないのだが――


「え? まあそうですね。少し難しいですが、詠唱を考えるのには慣れてるので」

「そ、そうか……じゃあ頼んだぞ」


 かなり人間離れしたことにも思えるが、そのギフトも関係しているのだろうか? 

 詠唱次第で威力が変化する、となると必然的に詠唱を考えることが必要になって、それが詠唱改変を得意にしているのかもしれない。


「……天から注ぎしいかずちよ、雷球となりて我が手中にその姿を顕現させよ。雷鳴を轟かせ、我が敵を滅したまえ――『サンダーボール』」


 彼女が詠唱をすると、手の中に光り輝く球体が生み出された。

 同時に横の方に手をかざすと、そちらに射出された。

 目で追えるくらいの速度で飛んでいったそれは、どんどんと小さくなっていき、遠くの方へと飛んで行った。


 しばらくすると地面へと落ちて行って――直後、雷鳴が響いた。

 大地が揺れ、轟音が辺りに響く。


 飛び去る鳥はもうすでにいないが、代わりに魔物がぎゃあぎゃあと騒ぎ立て、さらに混沌を呼ぶ。

 一部は、狙い通りその音源の方へと向かったらしく、あっちの爆発が起きた方角はかなり騒がしくなってきている。


「特別な音量強化、かつ威力減少タイプです――さぁ、行きましょう」

「おうよ」

「分かった――行こう」


 俺たちは言ってから、走り出した。


 ~あとがき~


ライツ「……なぁ、あの魔法やばくね?」コソコソ

デイス「まあ、確かに凄いな」

ライツ「やっぱアイツ怒らせねぇ方がいいかな……」

デイス「……あれ、多分こけおどしだぞ? ライツが引っかかってどうする」

ライツ「は⁉ マジかよ……やっぱアイツ許さねぇ」

デイス「理不尽すぎる……」

レイラル「……二人とも、何こそこそ話してるんですか?」


 ……えっと、余韻ぶち壊しだったら本当に申し訳ないです。

 それでも思いついてしまったのです……

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