第39話:情報収集

 まず、俺は防衛前線に居る騎士団に聞いてみることにした。


 少し奥を見れば陽光の森が見える場所で、騎士団や冒険者が数人見えていた。

 今は夜中にもかかわらず、騎士団はバリケードの設置や、迎撃兵器の設置、布陣の考案、整備などの作業に勤しんでいた。


 たまにところどころから青や赤の光が放たれたり、浮遊する木材が見えたりするが……恐らく、あれらは誰かのギフトか魔法の効果だろう。


 また、冒険者も幾人かおり、それに協力していた。

 冒険者の中には騎士団を目の敵にしている奴もおり、これから問題が起きるかもしれないが、こんな夜中まで防衛戦の準備をしてくれているような人間はそんな問題は起こさないようで、みんな静かに作業をしていた。


 辺りを見渡すと、少し後方で休憩中にも見える騎士を見つけた。


 俺は、その人物に近づいて、訊いてみることにした。


「すまん、今回のスタンピードの情報を教えてくれないか?」


 隊長格は忙しいだろうし、聞いても答えてくれない可能性も高いからな。


「いいですよ。ただ、教えられる情報には限度がありますので、ご了承ください。今回の防衛戦に関して有用な情報のみお伝えします」

「助かる、それじゃあ――」


 俺たちに必要な情報をまとめると、こうだ。

 予測された侵攻進路は、北からのみ。


 陽光の森の魔物のみが来ることになる。

 ドラゴンの位置は、未だ不明瞭だがやはり白竜山脈の麓であるというのが有力だと言っていた。

 加えて、魔物の動きを鑑みるとここから真北の辺りではないかとも予想が付いているらしい。

 ちなみに、この情報は明日公開する予定だったようだ。


 スタンピードはそのドラゴンを中心として展開されるが、魔物はドラゴンを避けるために降りてくるため、その周囲は逆に安全だろうとのことだ。


 まあでも、中心地に行くような馬鹿は居ないだろうから要らない情報だろうけどな、とはその団員の弁だ。

 ……まさか、俺がその『馬鹿』だとは思っていないだろうな。


 ともかく、魔物の種類は陽光の森に居るゴブリン、ホーンボア、サックボア、レイジウルフなどなど……とにかく色々と居るが、重要な魔物としてワイバーンなどの竜種も確認されているらしい。

 また、それらは白竜山脈から逃げてきたとのことで、飛行するタイプの竜しかいないらしい。


 もし、俺たちが突っ切るとしたら、木の多い部分を進んで、ワイバーンは避けるのが最善だろうな。


「なるほど、すまない。色々と訊いて」

「いえ、問題ありません。今回の防衛は激しくなるでしょうから、我々としても行える情報提供は惜しまず行います」


 その言葉に、俺は少し胸が痛くなる。

 防衛戦には参加しない、なんて口が裂けても言えないな。


 ……わがままかもしれないが、彼には死んで欲しくないな。


「本当に助かった。それじゃあな」

「ええ、さようなら」


 彼は剣の柄をトン、と叩いてから姿勢を正して、そして軽く頭を下げた。

 騎士団風の礼だろう。


 それにしても、とても礼儀正しく真面目な騎士だったな。


 ◇


 俺は、それからも他の冒険者に聞き込みをしたりしたが、あまり有用な情報は得られなかった。

 一応、今回スタンピードの最中に森の中に入ってしまって、そこから間一髪スタンピードから逃げ出してきた冒険者によると、魔物は少し弱っているが、数が多く、種類も多くて混沌としていたとのことだ。

 まだ街の付近はそうでもないが、深くに行けば行くほどそうらしい。

 また、突っ切れそうかと訊いたところ、白金級のパーティーが上手くやればいけるんじゃないか、とのことだ。

 ……その質問をしたときは正気を疑われた。な


 あまり時間も掛けていられないし、これ以上の成果もなさそうだったから、一度宿屋へと戻った。


 すると、ライツはもう既に戻っていたらしく、あとはレイラルを待つだけとなった。

 しばらく待っていると、レイラルも戻ってきた。


「皆さん、もう居たんですね」

「おうよ」


 レイラルの挨拶に、ライツが返事をする。

 彼女は俺たちが座っていたテーブルの空いていた椅子に座って、こう言った。


「それで、情報はありましたか?」

「ああ、スタンピードの情報はある程度入手した」

「俺も、だいたい買い込みできたぜ」

「私も、まあまあと言ったところです」


 どうやら、三人とも特にトラブルはなかったようだ。


「じゃあ――」


 そういうことで、三人で情報を共有した。


 レイラルによると、ドラゴンの種類は普通のレッドドラゴン。

 火を吐く、ドラゴンの中でも特に多い個体だ。

 大きな羽で空を羽ばたき、三次元的に移動してくるかつ、硬い鱗を持つ。

 魔法を操り、それを扱いながら口から火を吐いたり、前のワイバーンのように火炎球を出したりと攻撃方法も様々ある。

 個体としての強さは定かではないが、種としては間違いなく強い。


 やはり勝てる可能性は低いだろうということで、ミレイルさんを探してどうにか逃げ出すことを予定している。

 ドラゴンの巣は単純なはずだし、レイラルは魔法で自身の存在を多少隠蔽したりもできるようだし、そういったものを駆使してどうにかミレイルさんだけ逃がそうということになった。


 ライツの装備に関しては、今回はミレイルさんが居ないから、ヒール用の回復薬やら魔法スクロールやらも買っているらしい。

 加えて、買ってきたものは使えると思ったら、俺たちも自由に使っていいとのことだった。


 それと、ミレイルさんの杖は俺が背負ってある。

 もしあった時、杖がなかったら困るだろうからな。


 ――そして大事なのが、俺の狂化が使えないこと。

 ミレイルさんが居ない以上、使うのは危険だからだ。


 ……だが、もしやむを得ない状況になったら、使う。

 そういうことで、二人は納得してくれた。

 二人が俺を恐怖するかしないかは分からないが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 それに、信頼だってしている。今までも破られてきたものだが、二人は違うように感じる。

 まあ、ただの勘違いの可能性もあるのだが。


 それで、俺の情報とレイラルの情報を照らし合わせ、特攻する場所は陽光の森の東側、防衛戦線から少し離れた場所ということになった。

 そこから一気に、森の内部まで突き抜ける。


 どこにあるかもわからない、ドラゴンの巣を探して。

 ――だが、二人はそんな中でも行ってもいいと言ってくれた。

 俺も覚悟はできてる。


「――さて、こんなものか?」

「っしゃ、ついに突貫か――燃えてくるな」


 俺が言うと、ライツがダンと自身の手のひらに拳を突き合わせて、そう言った。


「私はげんなりしますよ……もうちょっと楽に済んだらいいんですがね。空飛ぶ箒でもありませんかね……」


 レイラルは、ライツの命知らずな発言に肩を落とした。


「まあ、そんなのはないだろうな。それに空を飛んだら、ワイバーンに落とされるんじゃないか?」


 叙事詩の中では空飛ぶ箒にまたがる魔女はありがちだが、実際にはそういう魔女――もとい魔法使いは見たことがない。

 あるとしたら、魔道具になるだろうがそれもまあないだろう。


「あ、そういえば確かにワイバーンに落とされますね……でも、飛べる魔法も飛べる魔道具もあったはずです。見たことはないので、確定ではないですが」

「そ、そうなのか……」


 ――と思ったのだが、あるかもしれないらしい。

 世界は広いな……


「――さて、それじゃあ心の準備もオッケーか?」

「ああ」

「……正直死にたくなんてないので行くのも億劫ですが、ここで行かなかったら死ぬより後悔するかもしれませんからね。心の準備もいいですよ」


 どこか投げやり気味に、しかしその奥底に確かな意思を宿してレイラルは言った。

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