第31話:指名依頼達成と勇者の失墜

 あの後、グラロックタートルの残りは放置し、水晶は回収できる分だけ回収し、協会に戻った。

 道中少し接敵したが、無傷でなんなく戻ることに成功した。


「なるほど、協会からの指名依頼を受けた方ですね」


 受付の男性はそう言って頷いた。


「ああ、それとこっちの回収も頼む」


 俺はグラロックタートルから採取した魔水晶をカウンターの上に全部置いた。


「こちらは――全てご自分で採掘を?」


 受付さんは、少し怪訝そうな顔で訊いた。


「いや、背中に水晶が生えてる魔物が居てな。それから取っただけだ」


 多分勝手に採掘したのかと思ったのだろう、その言葉を聞くと、元の表情に戻った。


「分かりました。では後ほど決算します。それと、探索の指名依頼なので、奥の方に来てください。誰か代表者一名でも構いませんよ」

「分かった――どうする? 俺が行ってもいいが」


 俺は後ろの三人に訊いた。


「いいんですか? それじゃあ私は面倒なのでお願いします」

「そうか! じゃあ頼んだぜ!」


 嬉々とした表情でそう言う二人。


 ……よく考えたら、やるやらない以前にコイツらには任せられないな。


「すいません、それじゃあお願いしますね」


 ミレイルさんは丁寧に頭を下げて礼をした。


「ああ――それじゃあ、どうすればいいんだ?」

「こちらに来てください」


 俺が受付の男性に訊くと、俺はカウンターの裏へと案内された。


「じゃあなー」


 ひらひらと手を振るライツに俺は手を振り返して、そちらの方へ向かった。


 ◇


「一対一で聞く形にはなりますが、単なる秘密保持が目的なので、楽にしていてください。多少情報が漏れたとしても、大丈夫ですから」


 案内されたのは、小さな個室。

 木製のテーブルと椅子が二つあり、テーブルの端には燭台が一つ置かれている。

 まるで尋問室だな。


 緊張をほぐすためか、受付さんは小さく笑ってそう言った。


「それは助かるな」

「あ、それと武器はそちらの樽の方にでも入れて、楽にしてください。ずっと背負ってるのも大変ですよね?」


 受付さんは部屋の隅を指差してそう言った。


「お、入れ物があるのか。確かにずっと背負ってるのは大変だから、助かる」


 俺はそう言ってそちらの樽に戦斧せんぷを入れた。

 少し刃の部分が見えた。


 改めてみると、やはり刃が欠けているな。

 無理に水晶を割りすぎたせいだろう。


「それでは――」


 と、俺は大体の概要を説明した。


 グラロックタートルについては、驚かれたな。

 あのエリアは、ダンジョンからは隔離したエリアとして指定し、危険度も上にあるダンジョンよりも一つ上げるとのことだ。

 グラロックタートルは、討伐の報酬が出るらしい。


 また臨時報酬だな。


 それで、死体の方はまだ残っているが、取れるものは取ったし後は好きにしてくれと伝えた。

 まあまあな巨体だから、ダンジョンの吸収にも時間が掛かるだろうしな。


 ついでに、他のパーティーが持ってきた情報も加味して、一旦解放することになるらしい。

 といっても、侵入制限は依然としてあるらしいが。


 また俺たちがそこに行くのも悪くないかもな。


「――なるほど。大体分かりました。もういいですよ、今回はありがとうございました」


 受付の男性はそう言ってぺこりと頭を下げた。


「ああ、こっちも報酬とか情報が分かって助かった。それじゃあな」


 ◇


 協会の表に出ると、すっかりみんなは居なくなっていた。

 まあ当然だな。


 みんな用事があるんだろう。


 俺はまあ、大衆浴場にでも行って、その後オグルスに修理してもらおう。


 そう思って、俺は足を踏み出したのだが、急に大きな声が耳に入ってきた。


「もう! なんでこんなんなの! 最近ずっとこんな調子じゃん!」


 なんだか聞き覚えのある声だった。

 そちらの方を見てみると――そこに居たのは、未だ三人しか居ない『勇者パーティー』が居た。

 同時に、他の冒険者の視線も一斉にそちらに向いていた。


「……うるさい。今の状況にはお前にだって責任の一端があるはずだ」


 テイルの叫びに、セイズは冷静な、しかし怒りをにじませた声色で言い返した。


「なんで私に責任押し付けるの! 私なんもしてないのに!」


 テイルのヒステリックな甲高い声が協会の中に響く。


「……もしかして、まだ分かってなかったのか?」


 セイズはひどく失望したような、悲しいような顔を浮かべた。


「分かってないって、何がよ。あんたが適当に依頼受けるし、しかも新メンバーを入れないせいで、今こんなことになってるんでしょ?」


 テイルは至極当然といった様子で、セイズに責任を押し付けた。


「そうか、その程度の認識か」


 セイズは、あざ笑うようにテイルに言い放った。


「は? 何言って――」

「やめなよ! 面倒なことになるだけだって」


 エスカレートしそうになったところで、ケールが間に入った。


「それはそうだけど……もう分かった。ケール、このパーティーやめよう?」

「いやでも……勇者だよ? いいの?」


 提案するテイルに、ケールは二人を見ながらおろおろとしている。


「もう私はどうでもよくなっちゃった」


 テイルはセイズを見下すような目線で言い放つ。


「……いいのかよ、ずっと負けっぱなしじゃないか。このまま終わっていいのか?」


 そんなテイルに、セイズは挑発的に言った。


「そんなのどうでもいい! 別のパーティーにでも拾ってもらうわ。所詮勇者もこんなものね」

「……フン、馬鹿が。もう好きにしろ」


 プライドを踏みにじるような発言に、セイズは怒りを滲ませながらも、苦虫を噛み潰したような表情でそう返した。


「あんたが馬鹿よ」


 おろおろしているケールをよそに、テイルはそう吐き捨てて、どこかへ行ってしまった。


「ギャハハハハ! 最近はおもしれぇことが多くて飽きねぇな!」


 一人がそう言って大きく笑うと、周りからどっと笑いが起きた。


 ……他人の没落がそんなに面白いのか?


 思わず顔をしかめる。


 確かに、セイズは俺を追放した。

 だが、それは別にセイズが悪人だからとか、そういう理由ではない。

 ただ、俺が怖かっただけだ。

 それを嘲笑の的にするのは――あまり気分の良いものじゃない。


 でも、恐らく俺とセイズの道が交わることはもうないんだろう。

 俺だって、こっちから関わる気はない。


 向こうが何かアクションを起こしてくるなら別だが。


 俺は身を翻し、そんな嘲笑が溢れる場所から去ることにした。


 間際、セイズと目があったような気がしたのは気のせいだろう。


 ~あとがき~


 近況ノートの方では言っていたのですが、諸事情により一泊二日の入院をしていまして、一日のみ更新が遅れました。

 申し訳ありません……

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