第27話:あぶれ"種族"パーティー

 このダンジョンは直線的な通路が多かったが、それと比べるとこのエリアは少し曲がりくねった道だった。

 もしかすると、別のダンジョンと繋がったという可能性もあるらしい。


 壁の色など、似ている部分はかなり多いが、ダンジョンは、大体生成された場所によって特徴が決まる。

 だから、同じ場所に生成されたダンジョンという可能性はあるだろう。


 もし、こちら側の最下層にダンジョンコアが発見されれば確実だろう。

 ダンジョンコアは、文字通りダンジョンの核。破壊するとダンジョンはダンジョンとしての機能を失い、ただの洞窟になる。


 まあ、俺はそこまで深くに行く気はないが。

 特に今回は日帰りだしな。


「大体、似たような地形が続いてますねー」


 ミレイルさんが周りを見渡しながら言った。

 確かに、最初の頃からあまり変わりない。


 しかしそれは逆に言えば、それだけ魔水晶が生えているということでもある。


 今いる場所は、少し大きめな部屋だ。

 この部屋からは三本の通路が伸びていて、俺たちが来たのは後ろの通路の方だ。


 この部屋には天井から鎖が生えていたり、荷台が床に置かれていたりするが、あれらは全てダンジョンが人間のそれを模倣して作ったもので、人工物ではない、とレイラルが言っていた。


「ですね。魔物も大体分かりましたし……一旦引き返すのがいいんじゃないでしょうか?」


 レイラルは足を止めてそう言った。


 あの戦闘から、また数種類くらいの敵と対峙した。

 時々引き返したりもして魔物と何体か会った。

 魔水晶の生えた素早い虫や、普通のゴブリンも居た。


 そもそもあまり大きな場所が少ないのも相まって、あまり強い魔物は見当たらない。


「だな。つーかそういや結局他のヤツらとも会わなかったな」

「まあここまでいくつか別れ道があったし――」


 俺はそこまで言ってから、前の道の奥の方を凝視した。

 なぜなら、そこから小さく声が響いてきたからだ。


 しばらく耳を澄ましてみると、どうやらそれは人の笑い声のようだった。

 なるほど、噂をすれば他パーティーということか。


「どした?」


 ライツが不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「いや、噂をすれば他パーティーがいるみたいだぞ? 声がする」

「え? ――ああ、確かに少し聞こえますね」


 レイラルも同じく気づいたらしい。


「――でよー、なんかソイツが俺の顔にどうこう言ってくるもんで。まあ慣れっこだがちょっと喝入れてやったな!」

「喝入れるって……殴るのはやめてくれ。評判落ちるし」

「ちょっと脅かしただけだ。はっはっは!」


 前の方から三人組が歩いてきた。

 二人は獣人、一人はフードを被っていて少し見えにくいが、エルフらしい。


 獣人の方は、顔がまるまる狼と猫のそれになっている。

 確か、血が濃い獣人だとそうなるんだったか?


「――ん? どうした?」

「なんだ? お前ら」


 怪訝そうな顔をして立ち止まった先頭の狼獣人に対して、不思議そうに訊く猫獣人。


「ああいや、今俺たちは帰ろうかと言っていたとこでな。それで立ち止まってたら、お前たちが来たんだ。すまんな」


 俺はそこでハッとして、状況を説明した。

 別に敵意はない、という意思表明だ。


「そういうことか。紛らわしいな」


 紛らわしい、というのはダンジョン内では他人を襲う冒険者も居るからだ。

 襲うのにあからさまに見ているヤツは少ないだろうが、それでも怪しくは映ってしまうのだろう。

 ましてやここには数パーティーしか居ないわけだしな。


「あんたらも冒険者協会の指名依頼を受けたのか?」


 ライツが後ろから出てきて、その獣人に訊いた。


「当然さ。そうじゃないと入れないからな――ま、勝手に入ってるやつが一人二人居ても不思議ではないけどな!」


 彼はそう言って面白そうに笑った。


「ん? つかお前ら――あれか、今話題の狂戦士パーティーじゃねぇか」

「俺のこと知ってるのか?」


 俺は思わず聞き返す。


「ああ、なんかあの勇者パーティーから追放された後に奇妙なパーティー作って、今有名だろ? 他からあぶれた連中のパーティーだって、見てて面白いぜ。あ、でもそういや勇者パーティーも駄目になったんだったか?」


 どこか嘲笑うように彼は言った。

 少し不快になるが、別に言い返す必要はない。


 面倒ごとが起こるだけだ。


「奇妙なパーティーなんて言ったら、あなた方も随分奇妙だと思いますけどね?」


 レイラルがムッとした表情で言い返した。


「なんだ嬢ちゃん、言うじゃねぇか――ま、他種族は信用できねぇからな。だから俺らだけで組んでんのさ」


 そう言いながら彼は首だけを仲間の方に向けた。

 確かに、彼らの中に人間族はいないように見える。


「まあ、そんなとこ」


 興味なさげなエルフの声が響いた。

 少し高いその声から察するに、女性のようだ。


「私からすれば、あなた方の方が信用できませんけどねぇ」

「そうかい――でも、協会は俺のことを信用してるぜ?」


 レイラルの言葉に、獣人はそう言い返す。

 確かに、ここにいるということはそうなのだろう。


 ……素行が悪ければ多少評価は落ちるが、他人を害さない限りは協会側としても悪とは言えない。

 ちょうどいいパーティーが彼らしかいなかったとか、その辺りの理由で彼らも派遣されたのだろう。


「つか、お前ら最近すげぇけどよ、どうせまた駄目だろ? 今まで上手くいかなかったヤツが、急に上手く行くわけない。特に狂戦士は、この前勇者パーティーから追放されたんだからな」


 俺は心の中でため息を吐いた。

 イライラするな。よくも他人の事情に首を突っ込んで、あーだこーだと好き勝手言えるものだ。


「なんですかあなたたちは! 結局何が言いたいんですか!」


 ミレイルさんが我慢できないといった様子で前に出て言い返した。


「そう怒るなって。事実を言ってるだけさ。ま、せいぜい上手くやれよ?」


 彼はそう言ってミレイルさんの肩をぽんぽんと叩くと、笑いながら去っていった。


「……全く、酷いヤツらだ」


 俺は思わず呟く。

 聞こえているかもしれないが、別にどうでもいいだろう。


 どうせ、最近ちょっと話題になった俺たちのパーティーが気に食わないとか、そういったしょうもない理由だろう。


「おう、とんでもねぇ馬鹿みてぇだったな」


 ライツはいつもと変わらない様子でそう言った。

 言い草の割にはその表情はいつも通りで、あまり怒っているようには見えない。

 ……本気で相手のことを馬鹿だと思っているということなのか?


「同じあぶれ者同士でも、仲間とは限りませんね」


 レイラルが吐き捨てるように言った。


 ――と、その時、地面が揺れた。

 地響きが鳴り、天井から砂埃が落ちてくる。


「うぉっと! な、なんだってんだ?」


 ライツが疑問の声を上げる。


「グゥオオオォォ」


 低く、唸るような声が俺たちの体の奥底に響くように聞こえてきた。

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