第25話:再度、ダンジョン探索
――その後水と食料を少し買って、ライツは戦闘用のアイテムもを買っていた。
そして依頼を受け、今はダンジョンの中だ。
今回の依頼は、他のパーティーと一緒に行くわけではないらしい。
それぞれの都合があるし、ただの調査依頼で無理に連携させようと思うと
中で他パーティーと会った場合、必要であれば助け合ってくれ、とも言っていたが。
「それじゃあ、この地図に沿って行きましょうか」
レイラルは手元にあるダンジョンの構造が書かれた地図を持ってそう言った。
今回は、協会から銀貨三枚という割安で借りることができた。
無料で貸し出してくれないかとも思わないが……まあ地図、特にダンジョンの地図は高いのでしょうがないということにしておこう。
「魔石エリアは……このまま真っすぐ行って、突き当りで右です。その後はまたその時言います」
レイラルは前方を指差しながらそう言った。
ちなみに、荷物はライツとレイラル、ミレイルさんの三人で分担して持つということになった。俺は前線だから持たなくていいらしい。申し訳ない気持ちもあるが、パーティー全体のことを思えば妥当な選択だし、気に負う必要はない……はずだ。
分量で言うと、ミレイルさんが少し多めで、次がライツ、次にレイラルだ。
レイラルは魔法を使う都合上ある程度機動力もそのままがいいらしい。
「了解だ」
そう言って鼻歌を歌いながらズカズカ進んでいくライツ。
「ライツさん? 荷物も持ってるんですから、一旦下がりましょうね?」
なんだか怖い笑顔を浮かべながらミレイルさんは言った。
「お、おう……」
その気迫にやられたか、素直に下がるライツ。
「……まあ、荷物持ちだし下がっててくれ。予定通り前衛は俺がやる」
ダンジョンで警戒すべきは、構造にもよるが通路上のモンスターと罠が基本だ。
あとは、大抵はいくつか部屋が点在していて、そこには魔物と共に報酬がおいてあることが多い。
ダンジョンなりの人間をおびき寄せる工夫なのだろう。
このダンジョンは、通路自体の魔物は少ない方だ。
接敵しないわけではないが、通るだけならさほど難しくはない。
松明の設置されたまっすぐな通路を進んでいく。
――すると、前方から小さな声がした。
「グギャ、ギャ」
ゴブリンの話し声だろう。
少し前のT字路の奥から聞こえてくる。
先ほどまでは話していたが、まだバレてはいなさそうだ。
俺は後ろの方に、少し前に出るというハンドサインを出した。
ライツもちゃんと意味が分かったらしい。
と、レイラルがそこで杖をかざした。
何か体の奥に振動が響く。
それから、指を三本立てた。
今のは、索敵魔法ということか?
……だとすると、ゴブリンは三匹いるのだろう。
俺はゆっくりと戦斧を抜き、ライツも剣を抜いた。
通路の角に張り付いて、機を待つ。
「グギャ――」
通路から出てきて、こちらを視認すると同時、俺は戦斧を振り下ろす。
ゴブリンの体が真っ二つになり、鮮血が舞う。
「おりゃっ!」
同時にライツも斬りかかり、一人倒したようだ。
「『ウィンドカッター』!」
詠唱を省いて後ろから飛んできたその風の刃は、素早くものが通り過ぎるようなヒュンという音を俺の耳元で立て、俺の短い髪を切り裂きながら飛んで行った。
俺を通り過ぎて飛来したその風の刃は、ゴブリンの腹を切り裂いた。
致命傷とは言えないが、大きく隙ができた。
「ナイスだ!」
と、ライツが横から飛び出て、最後のゴブリンを斬り伏せた。
「おっしゃ、終わりだな」
「ですね。余裕でした」
「まあそうだが……俺の真横に魔法は勘弁な」
構えを解く二人をよそに、俺はレイラルに言った。
「す、すいません……まだ事前報告に慣れていないもので」
レイラルは肩を落とした。
「ま、いいさ。いざとなったらミレイルさんの回復もあるしな。慣れないならしょうがない」
レイラルがどれくらい冒険者を続けているのかは知らないが、個々人の問題なんて一朝一夕で直るものではないことくらいは分かっている。
「……流石の私でも、耳が斬り飛ばされたらそれを治すのは一か月はかかりますよ?」
後方で控えていたミレイルさんが、困り顔でそう言った。
「……やっぱり、気を付けてくれ」
「……そうですね」
レイラルが今度は真面目な顔で頷いた。
「あ、でも飛ばされた部位を接続するだけなら数十分で治るので安心してください!」
ミレイルさんは笑顔で言った。
……それは凄いしありがたいのだが、少なくとも笑顔でいうことではないと思うぞ?
「そ、そうですね……」
レイラルは頬をぽりぽりと掻きながら言った。
とりあえず、ゴブリンの角だけは取って俺たちは奥に向かうことにした。
◇
「魔水晶エリアまでどのくらいだ? この階層である二階層だということは知っているが」
俺は、少し歩みを遅めてレイラルの地図を少し遠くから見た。
その地図には一枚の紙の中に、四つに分かれた階層ごとの上から見た図があった。
また、植物っぽい絵が
ここの基本形は通路となぜか木製の人工物っぽい扉の付けられた部屋で構成されるダンジョンだ。
ただ、少し大きめの洞窟っぽい部屋があったり、この地図で示されているように植物や鉱物が多いなどそういう偏りはある。
「あと少しですね――地図見ますか? 今はここで、それからここの植物エリアから少し前に行って、右に曲がったところです」
レイラルは地図を俺の方に寄せて、そう言った。
「なるほど、了解だ」
俺はそれを見ると、そう言って身を引いた。
前を見ると、曲がり角があった。
そこを抜けると植物地帯だろう。
少し歩いて、その角を曲がる。
「おっとっと。そっちか」
そのまま進みかけたライツが、そう言ってこちらに戻ってきた。
通路の上部や横には緑の苔が生えており、脇の少しくぼんだ場所にはシダのような植物が生えていた。
確か、前はこれを取りに来たんだったか。
左横にはちょっとした水たまりもあり、上の方からポタポタと水が垂れてきていた。
「おしゃ、もうすぐか?」
「いえ、ここに行った先に下り坂があるので、そこを降りると左右の壁にバツ印の焼け跡がある通路があります。それでそこからそのまま突き当りで右左と曲がると着くそうです」
ライツの質問に、レイラルは冷静にそう答える。
下り坂、というのは俺が岩に追われたあの通路のことだろう。
それと、焼け跡というのは魔水晶エリアを見つけた冒険者のものだろう。
ダンジョンの壁は、破壊は難しいものの傷は簡単に付く。炎の焼け跡で場所を示すのはよくあることだ。
「んだよ、はよ行こうぜ」
ちぇ、と残念そうに言うライツ。
「走るか?」
「おん? いいのか? じゃあ行こうぜ!」
俺が冗談交じりに訊くと、ライツはそう言って走り出してしまった。
「あおい! 走ると魔物が寄ってくるかもしれないし体力減るだろ!」
俺の制止もむなしく、ライツは右の曲がり角へ消えていった。
「……はぁ、まさに無鉄砲ですね。私たちも少し速足で追いかけましょう。ここからは地図もいらないでしょうから」
「で、ですね……もうちょっと冷静になって欲しいものです」
そう言って二人も後を追った。
◇
バツ印のあった通路の前に、ライツは立っていた。
レイラルに聞いたのだが、落石トラップは他の冒険者が向かった頃にはもうなかったらしい。
俺たちが居たときはしばらくあったが、数個限定ということだったのだろうか?
それなら、あの時しばらく待って帰った方が良かったかもな……
しかし、それは結果論だ。
まあ、今はもう一度岩の追われることにならなかったことに感謝しよう。
「追いついたか」
「急に走らないでください」
レイラルはそう言ってライツの頭を軽く小突いた。
「いてっ、なんだよ生意気な」
「……危ないんですから、走らないでください」
「しょうがねぇだろ? 着くのおせぇんだし」
「走らないでくださいね?」
「……おうよ」
ミレイルさんの圧にすぐに屈したライツ。
……ミレイルさんは案外圧が強い、と心のメモをして置こう。
そしてそこを俺たちは進んでいく。
右、左と曲がったところでライツが立ち止まった。
「どうした?」
「――へぇ、これが魔水晶エリアか」
先に曲がり角のところに居たライツがそう言った。
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