第21話:「蒼天の四翼」

「……そういえば俺達のパーティー名って、まだ決まってなかったよな?」


 俺は、そのことを思い出してみんなに訊いた。


 パーティーやクランは、協会側としては『好きにやってくれ』というスタンスだ。

 だから名前も必要はないのだが、あった方が向こうとしても識別自体はしやすいらしいし、士気も上がるからやはりある方がいいだろう。


「もぐもぐ……そういやそうだな、決めちまうか?」


 ステーキを頬張ったライツが言った。


「いいですね。何にしましょうか? 私は――あまり得意じゃないので分からないのですが……」


 ミレイルさんが少し困ったような表情で言った。


「では、私に任せてください! すぅいんぴの魔女であるこの私が、名前を決めて差し上げます! 超絶カッコいい名前を用意しましょう!」


 テーブルにダン! と足を乗っけて、前を指さしながらレイラルがそう言った。

 随分独特なイントーネションの神秘だな。


 ……というか、やっぱりこれは酔ってるな。


「足下げろ足。それで、案は既にあるのか?」


 俺はレイラルを宥めながら言った。


「はい! 我々腫れ物ばかりではないですか。ですが、同時に高い能力を持っているわけです。神秘の魔法使いである私、最強のバフを持つデイスさん、最強の回復を持つミレイルさん。ライツさんは……よく分からないですが。ともかく周囲から避けられるに相応しい高い能力を持っているわけです」


 レイラルはよく分からない決めポーズをしながら言った。


「おい! お前俺よく分からないって……一応、他パーティーでも魔法剣士としては一目置かれてんだからな? 投げナイフとか縄も使った搦め手、魔法を使った特殊な戦い方、剣を使った柔軟なサポート! オールラウンダーなんだよ」


 すると、ライツが飲んでいたビールのジョッキを机に叩きつけてから、抗議の声を上げた。


「なるほど、ではそういうことにしておきましょう」

「おい!」

「ともかく! そんな我々の能力は、ある種翼と言えると思うのです」


 レイラルは、仕切り直すように言った。


「そして、翼を持つものは、空を飛べますがその見た目故に避けられます。まあ人類種に翼を持った類いのものは居ませんが――もし居るなら差別されたことでしょう」

「……確かに、そうですね」


 ミレイルさんが自嘲気味に笑いながら言った。

 俺がそれに大して何か言う前に、レイラルが続けた。


「つまり! 我らは翼を持ったもの。それでは、俗世のことは忘れ、四人で力いっぱいこの青空に飛び立ってやろうではないですか。と、言うことで私の案は『蒼天そうてん四翼よんよく』! どうでしょうか? 四人ですから四翼ってことです」


 レイラルはそう声高に叫んだ。


「あー、理由はなんだか分からんがいい名前だな!」


 ライツは火照った顔でけらけらと笑いながらそう言った。


「そうでしょう! 皆さんも、どうですか?」


 レイラルは、ライツの言葉に同意すると俺とミレイルさんにもそう訊いた。


「俺も良い名前だと思うぞ。意味も悪くない」


 俺はそう言って口の端に笑みを浮かべた。


 問題はある。だが、だからこそ自分たちのギフトは空にも飛べる翼。

 だから、俗世を忘れて空に飛ぶ。


 確かに、良いかもしれない。


「そうですね、私もいいと思いますよ。天使の翼、二対の翼ですか。あの青い空に飛び立つ、翼――」


 ミレイルさんは、どこか遠いところを見るような目で言った。


「天使……別に天使だとは思っていませんでしたが、確かに天使もいいかもしれませんね。ミレイルさんのギフトも天使でしょう?」

「そ、そうだったんですね。すみません、勘違いしていました」

「いえ、天使でもいいんじゃないでしょうか? 実際『四つの翼!』なんて言ったら二対の翼の天使を創造するでしょうし」

「……そうですか、ではそういうことでお願いしますね」


 ミレイルさんは、少し考え込むとふっと笑ってそう言った。


「じゃあ『蒼天の四翼』結成を祝って、もう一度――かんぱーい!」


 レイラルは、ジョッキを掲げて声高に叫んだ。


「乾杯!」

「乾杯」

「乾杯!」


 三人の声が重なった。


 気づけば、このパーティーでの不安は既に吹き飛んでいた。

 ミレイルさんは凄く良い人だし、レイラルとライツもちょっと変だが、悪い人じゃないし、面白い。


 今が楽しい、それだけで十分だった。


 ◇


「……狂戦士? って何だ?」

「少し待ちなさい……なるほど、どうやら理性を失い、代わりに強くなる能力のようだ。ああ、なんと恐ろしい恩寵なのか」


 当時は、その蔑視の意味が分からなかった。

 周りの同年代の子たちも、特に気にしている様子はない。


「お前なんだった?」

「俺、千刃だってよ!」

「へぇ、なんか強そうだな! どんな感じの――」


 誰だって、赤の他人に興味はない。

 面白ければ寄ってくるが、ただそれだけだ。


「とにかく、今日は帰りなさい。神がどういったご意思で授けてくださったのかは定かではないが、君はその恩寵を有意義に使うべきだ。くれぐれも悪事は働かないように。フェタール様はいつでも君を見ているのだから」


 酷く冷めた目を俺に向けながら、そう言う神父。

 その胸中にざわざわとした罪悪感のようなものが浮かぶ。


 ――でも、お前も、見られてるんじゃないのか?

 ふっとそんな思考が浮かぶ。


 フェタール様とやらは、お前のその低俗な言い分を許すのか?

 だとしたら、ソイツは馬鹿な神だ。


 そんな思考とは裏腹に、俺の体は勝手に動いた。


「そ、そうなのか……じゃあ、分かった」


 よく分からないままに、俺は孤児院の方へと去っていった。


 ――

 ――――


 ◇


 じん、というまぶたの奥に感じる痛みと共に、俺は目を覚ました。


 今のは、昔の夢だろうか。

 ギフトを貰った頃の、夢。


 あの時は何も意味が分からなかったが、冒険者を知り、ギフトを使い、次第にその意味を知っていった。

 これは呪いだったと。


 ――でも、もう大丈夫だろう。

 レイラルとライツが、俺のギフトに恐怖しないかは別だ。


 だけど、ミレイルさんはそのままで居てくれたし、あの人のギフトのおかげで俺は今までよりもずっと怯えなくて済むようになった。


 ふっ、と口元に笑みが浮かぶ。


 これから、俺は強くなる。

 いつか憧れた、冒険者になる。

 人を助けられる、人間に。


 天に伸ばした拳を握る。


 〜あとがき〜


ライツ「そういやレイラル、結成会のときのこと覚えてるか?」

レイラル「あー、お酒のせいで少し忘れてますね……も、もしや何かヤバイことしましたかね?」

ライツ「安心しろ、お前が子供みたいに駄々こねてるクソ面白い絵ができただけだからな!」

ミレイル(もしかして、レイラルさんが寂しいってこと言ってたときの話かな……? だとすると、駄々こねてるというのも少し違うような気もするけど……)

レイラル「なっ……⁉ い、今すぐ忘れてください! じゃないと魔法でこの辺り一体を消し飛ばしますよ⁉」

ライツ「やれるもんならやってみやがれ! はははっ!」

レイラル「こ、根源たりし我が魔力よ――」

ライツ「おい、やめろ、頼むからマジでやめろ」

レイラル「大地を焦がす爆炎よ――」

ライツ「忘れた! 忘れたから! お前は大人だ、OK?」

レイラル「……しょうがないですね。許してあげましょう」

ライツ「……ふぅ、危ねぇぜ」

ミレイル「仲が良い……ですね?」


 ちなみに、デイスは寝てる時の話です。


 最後までお読みいただきありがとうございました!

 次回もお読みいただけると幸いです。

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