第19話:結成会

 ――あれから、パーティーで戦闘に関する会議をした。


 基本はライツさんが前線出過ぎとか、レイラルは魔法を打つ前に教えてくれとか、大体その辺だ。

 また喧嘩をしていたが……まあそこは割愛しよう。

 ミレイルさんに関しては、あまり活躍できていないと言っていたが、僧侶なのだから安全な後ろで守ってもらうのが適役だろうと俺は思う。

 俺に関しては特に問題がなかったらしい。


 ついでに、その間に魔物を運ぶのも終わったらしく、報酬が出た。


 金貨十五枚。

 そのうちの八割くらいはワイバーン由来のものだ。

 ワイバーン素材の報酬もそうだし、危険を事前に発見して討伐したことへの報酬でもある。


 ホーンボアの方は、大体依頼の規定数と同じくらい倒した。

 ああいう依頼は、元々の部位ごとの値段の報酬に加え、依頼そのものの報酬も若干かさ増しされるおかげで、今回は金貨二枚くらいあった。


 全部山分けして、一人金貨三枚。余った三枚はレイラルの提案でライツ以外の三人に分配することになった……本人が計算が得意ではないのをいいことに、なんてことをするんだ。


 流石にそれはすぐバレて、その三枚は共有資金ということになったが。

 ついでに、それは一番信頼できるミレイルさんが保管ということになった。


 金貨三枚と言えば、節約すれば三週間、贅沢すれば一週間とちょっと生活できるといったところだろうか。


 かなりの稼ぎだな。

 そういえば、セイズと居た頃はいつもこれくらいだっただろうか。


「――ってことで! パーティー結成会しようぜ!」


 ライツさんはそう言ってダン! とジョッキをテーブルに叩きつけた。

 出た報酬で頼んだらしいメニマ酒という少し高めの酒――らしい。

 何やらダンジョンで採取される植物の粉末を入れてうんぬんかんぬん……俺は正直酒を飲むなら酔えればなんでもいい。多少金を出すことはあるが、基本ビールだ。


「いいですね! ついに我ら光の者とは入り交じることのできない、闇の冒険者たちのパーティーが結成されるわけですね!」


 レイラルが興奮した様子で言った。


「や、闇の冒険者?」


 一応分からないでもないが……独特な言い回しだな。


「我らハブられ冒険者でしょう? そういうことですよ……あっ、でもミレイルさんは少し違いますかね? どちらかと言えば光属性ですね。ギフトも『天使』ですし」

「あっはいまあ……そうですね?」


 ミレイルさんも困惑した様子でそう返している。


「じゃあ開催日はワイバーン料理が並んだ日だ! ……つっても、明日には出るだろうがな。今日か明日の夜飯時に協会に集合!」


 ライツさんはそう言って面白そうに笑った。


「分かりました」

「だな」

「ですね」


 全会一致のようだ。

 と言っても、まだ時間はある、今日は終わりでもいいが、明日は何かしら受けるだろうか。


 ◇


 ――と、いうことになったのだが、その日の夜にはもうワイバーン料理が並んでいた。

 レイラルがそれに気づいて、俺を含めたみんなを呼んで、全員で集まることになった。


「お、今日はワイバーンなんて並んでやがるのか」


 とある冒険者の声が俺の耳に届いた。


「討伐したパーティーが居るらしいぜ、頼むか?」

「……そうだなぁ。ま、頼んじまうか。どうせよくて数日しか食えねぇんだし、せっかくなら食っとこうぜ!」

「それもそうだな!」


 とある四人パーティーが談笑しながら席に着く。


「ワイバーン肉って本当⁉」

「食べたこと無いの?」

「そりゃそうだよ、高いんだし。でも協会に並んでるのは結構安いね!」

「まあ協会側が全部やってるらしいからねー、食べる?」

「食べる食べる!」


 とあるまだ十数歳に見える若そうなメンバーで構成されたパーティーが言った。


 料理したのは俺たちではないが、その食材を手に入れたのは俺たちだ。

 それで喜んでもらえてると思うと、どこか嬉しくなるな。


「まずステーキとシチューだろ? ローストワイバーン……一部だけローストにしたってことか? あ、あとミートボールもいいな」


 ライツさんが、協会の厨房の上に貼り付けられたメニュー表を眺めながら言った。


「……四人で食べる用ですか?」


 ミレイルさんが怪訝そうな表情で訊いた。


「いや、俺一人の分だ」

「ワイバーン料理を全部一人で食べるんですね……」

「いんだよ、どうせ数日経ったら料理系はなくなっちまうんだし」


 肉の長期保存は難しい。

 料理として提供できるのは、よくて数日だ。


 協会の保存技術やらで数日はなんとかなるらしい。

 例の運び屋のギフトでどうにかできないのかとも思ったのだが、レイラルが言うには容量制限があるから無理らしい。


 そんなことまでよく知ってるなと思ったが、レイラルは色々と調べているらしい。


「一人分が多すぎるという話ですよ。でもまあ、そう考えると全部味見してみるのもいいかもしれませんね」


 ミレイルさんはそう言って笑った。


「それじゃあ私はワイバーンシチュー一つと……あとライツさんの分から少し貰っていいですか?」

「あー……ま、いいぜ。俺の食べる文が減っちまうが、少しくらいならな」


 ライツさんは少し悩んだ後に、そう返した。


「も、もしかして本当に一人で食べる気だったんですか……」


 どこか引きつった表情でミレイルさんが訊いた。

 どうやら、一人で食べるという発言に納得しつつも、本当にそうだとは思っていなかったらしい。


「ん? そうだが?」


 ライツさんは当然、といいたげな表情で返す。


「そ、そうなんですね……じゃあ、私は後は小さいパンとサラダでも頼みましょうかね」

「俺はステーキとパンでいいかな。あー、でもちょっと果物サラダは買っとくか」

「私はぁ……ワイバーンシチューとワイバーンステーキで! ……お、デザートもあるんですか。ではデザートにアップルパイにしましょう!」


 レイラルが受付の方に書いてあるメニューを楽しそうに眺めながら考え込むと、そう言った。


「じゃ、あとは酒三人分だな!」


 ライツさんは笑いながらそう提案した。


「……なるほど、私は含まれていないと?」


 すると『三人分』という部分に反応したレイラルがその青い目を光らせながらライツさんに言った。


「あん? 子供が酒飲むのはあんまし良くねぇだろ。水かジュースにしとけ」

「別に私くらいなら全然飲んでもいいでしょうに! 十七ですよ、十七! 成人だってしてますし余裕です!」


 レイラルは立ち上がってテーブルを叩きながら言った。


「そうか? でも十七はまだガキだろ。水飲め水」

「もうあなた自分より年齢低かったらガキとか言うんでしょう! というか、水だって数十年前までは危険な飲み物でなんなら酒の方が安全で子供にだって飲ませていたことが――」

「あー分かった分かった、じゃあ四人分な!」


 早口でまくし立てるレイラルに対し、ライツさんは面倒そうにそう返した。


「分かればいいんですよ」


 レイラルは肩を組んで鼻を鳴らした。


「じゃ、じゃあ店員さん呼びますね。店員さん! 注文よろしいでしょうか?」


 ミレイルさんが少し困惑気味にそう言って、店員さんを呼んだ。


「少々お待ちください……ご注文はなんでしょうか?」

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