第16話:戦闘……とありえない魔物
「散!」
俺はその号令と同時に前に飛び出し、それと共にライツさんとレイラルは飛び出し、ミレイルさんはそれを追うように後ろについていった。
警戒していたホーンボアは、驚いたような様子で吠える。
「ブモォォ!」
同時に、他のホーンボアもこちらを向き、俺たち四人を捉えた様子だ。
しかし、比較的
「冥界の如く冷たき柱よ、貫け――『フロストランス』!」
レイラルは短縮詠唱らしき詠唱で魔法を飛ばした。
二本同時に射出された氷の柱は、俺がギリギリ捉えられるかと言った速度で飛来した。
うち一つは一匹のホーンボアの腹に突き刺さり、もう別のホーンボアの足元に刺さった。
しかし、ホーンボアの足元に刺さった氷柱は、刺さった場所を起点にホーンボアの体に氷を張った。
腹に刺さった方は、まだ生きてはいるものの、地面に倒れ込んでいた。
あの一匹はもう戦力外だろう。
「おっしゃ! ナイスアシスト!」
気がつけば一番前に出ていたライツが、その氷の柱が足元に刺さったホーンボアに向かい、それに長剣を振り下ろしていた。
それはホーンボアの胴体をしっかりと捉え、大きくその体に傷をつけた。
「ブモォ⁉」
ホーンボアは苦痛の声を上げた。
氷の柱で動けないものの、首は力なく項垂れていた。
と同時に、ライツさんに右から二匹、左から一匹のホーンボアが走っていっていた。
「右と左から来てるぞ!」
俺はそれをカバーするためにライツさんの方へと向かった。
「『ショックウェーブ』! ソイツ頼んだ!」
ライツさんが左の一匹に向かってそう叫ぶと、その一匹はのけぞり、地面を滑りながら押し戻された。
衝撃の魔法、確か構造が簡単だから、少し学べば魔法名を叫ぶだけでも使えるのだったか。
どうでもいい思考からは意識を逸らして、目の前の敵に目を向ける。
ライツさんの魔法で飛ばされた一匹は、まだライツさんの方を向いていた。
俺はそのホーンボアの首を捉え、戦斧を振り下ろした。
「せいっ!」
返り血に注意しつつ、同時にライツさんの方へと注意を向ける。
どうやら一匹増えているらしく、同時に三匹を相手していた。
連携により角で剣を持った右腕の一部を浅く裂かれ、血が垂れる。
「痛ぇな!」
傷を負っているのにもかかわらず、ライツさんはどこか楽しげに笑いながらも、ライツさんは一歩下がって体勢を整える。
ライツさんは腰に着けた投げナイフを構えていた。
「はっ!」
俺はそれの後ろから一気に地を蹴って走り、その一匹に向かって戦斧を振り下ろした。
「ナイス!」
二匹のホーンボアはこちらに一瞬目を向け、動きが止まる。
それを、俺の動きを見て即座に投げナイフをしまったライツさんが横から斬った。
「一緒にやっちまえ!」
片方のホーンボアはそれによって傷を負い、のけぞる。
同時に、その勢いでもう片方の構えを取っていたホーンボアにぶつかり、どちらも体勢を崩した。
それを俺は両方一気に斬るために戦斧を振り下ろした。
「おらっ!」
しっかりと二匹同時に当たり、片方は首が飛んで、もう片方は腹に大きな傷を負った。
ライツさんは、腹に傷を負った方のホーンボアの首を狙い、大きく剣を振り上げた。
「『ショックウェーブ』!」
そして、ライツさんがそう叫ぶと、剣は不自然な加速と共にホーンボアの首へと勢いよく振り下ろされた。
今のは――魔法を自分の腕に当て、剣を加速させたということだろうか?
「神が風よ、我が敵を切り裂け――『ウィンドカッター』!」
すると、後方からレイラルの声が響いた。
それが捉えたのは、俺の真横にいたホーンボア。周りへの注意が浅かったらしく、真横に来られていたらしい。
その一匹はレイラルの魔法によって首がすっぱりと斬れたらしく、力なく地面へと倒れ込む。
「助かった!」
俺はそう言ってから、今度は周りをしっかり確認する。
どうやら、これで終わりらしい。
逃げた個体もいるが、それすら追うのは危険だし、あまり意味がないことだろう。
「ちゃんと気をつけてくださいね」
レイラルは釘を刺すようにそう言った。
「す、すまんな」
俺は苦笑いを浮かべながら言った。
「いい感じだな! みんな強いじゃねぇか!」
ライツさんはそう言ってニカッと笑った。
「まあそうですね。皆さんランクも高いですし、これくらいはできるでしょう――が、ライツさん、少し自分勝手に動きすぎじゃないでしょうか?」
レイラルは、ライツさんのその発言に同意しつつも、そう意見した。
「……あー、ま、よく言われるな?」
「それはよく言われちゃ駄目でしょうに」
レイラルはそう言ってため息を吐いた。
「ま、まあまあ。でも、実際ライツさんは少し前に出すぎな気もしました。もう少し後ろに居てはどうでしょうか?」
後ろに居たミレイルさんが、前に出てライツさんにそう言った。
「まあそうだな。気をつける」
ライツさんは困ったように頭をガリガリと書きながらそう発言した。
「本当に分かってるんですかねぇ」
レイラルはライツさんの方へ詰め寄りながら言った。
ライツさんはそれを横目に、懐から包帯を取り出した。
治療用のものだろう。
用意周到な冒険者――にも見えるが、あの戦闘から考えると少し疑問が残るな……
「あっ、傷は私が治療しますよ?」
「おお、そういやヒーラーがいるんだったな、頼むぜ」
ミレイルさんはそれにそう提案し、ライツさんもそれを呑んで右腕を差し出した。
「聖なる力で癒やし給え、『キュア』」
そう詠唱すると、淡く緑の光が腕を包み込み、一瞬のうちに傷は癒えていた。
「こりゃ助かる」
ライツさんはそれを見て笑った。
「じゃあ一旦ホーンボアの処理でもしよう。この辺には――川があるはずだ。血抜きして、後はまあ協会に頼めばいいだろ」
俺は辺り見渡してから、そう言った。
陽光の森には何度か来ているから、少しくらいなら地形も把握している。
「処理、できるんですか?」
「まあな――ギフトが普段使えない分、雑用くらいはできるようにと色々やったのさ」
俺は今までのパーティーでのことを思い出しながら、嘆息して言った。
「そうなんですか。大変ですね」
レイラルは特に何か気にした様子でもなくそう言うと、倒した魔物の方に目を向けた。
「そういうことなら、とっととコイツら運んじゃおうぜ」
「そうだな、そうしよう」
俺たちが、そんな会話をしていた時。
「ギュアオォォォ!」
耳をつんざくような魔物の鳴き声が響いた。
そして、それがこの場ではありえない魔物の声であることは、俺でも分かった。
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