第15話:戦闘開始
「そろそろホーンボアと会ってもおかしくないだろう。みんなのランクを考えれば余裕だとは思うが、初任務だし気をつけろよ」
木漏れ日が眩しい森の中、俺たち四人は獣道の上を歩いていた。
ホーンボアの群れが居るらしい『陽光の森』の中に入り、もうそこそこ歩いてきていた。
「おうよー」
なぜか一番先頭を歩いているライツさんの、気の抜けた返事が聞こえる。
「ええ、分かっています。全て魔法で消し飛ばせば問題ありません」
明らかに分かっていなさそうなレイラルの声が響いた。
「……本当に大丈夫か? このパーティー」
俺は思わず呟く。
本当の実力がどうなのかは実際に戦ってみないことには分からないが、このパーティーで俺は上手くやっていけるのだろうか……
心配になってきたな。
「ま、まあ悪い方達ではないでしょうから、大丈夫ではないですか?」
後ろからミレイルさんのそんな声が聞こえてくる。
「ライツさん、レイラル、探知系の魔法は使えるか?」
「おうよ、使えるぜ」
「私も使えますよ」
俺が訊くと、二人からそう返事が返ってきた。
どうやら、どちらも扱えるらしい。
「私の方が魔法は得意だと思いますし、私が使いましょう」
「おん? それは俺が魔法が下手だって言いたいのか?」
「違いますが――ギフトもありますし、私の方が上手いのは事実ですよ?」
「あーあー、待ってください二人とも。どうして初対面なのにお二人はそんなに親友みたいなんですか」
二人の論争が始まるかと言ったところで、ミレイルさんが急いで間に入ってそう言った。
うん、全面的に同意する。
「しょうがないですね。とりあえず私が使いますよ?」
「ま、しょうがねぇか。いいぜ」
「――我が魔力よ、封印されし第六感を
レイラルはそう詠唱し、魔法を発動した。
サイトレイ自体は一番一般的な索敵魔法だが、詠唱は随分複雑化している。
「私独自の詠唱ですよ、カッコいいでしょう? ちなみに、第六感という単語が重要です」
すると、こちらをチラッと見たレイラルが決め顔でいきなりそんなことを言い出した。
……何が言いたいんだ?
俺が言葉に詰まっていると、ライツさんが発言した。
「おう、そうか。んで、敵は居たのか?」
ライツさんはその発言をまるで聞いていなかったように流してから、そう質問した。
「そ、そうですか……敵は前方二時方向にホーンボアらしき魔力影四体がありますね。あとは――奥の上空にちょっと変なのがありますが、これは多分私のミスですね」
レイラルは残念そうに肩を落としてから、次にそう言った。
探知魔法のことはよく知らないが、完全に敵が分かりやすく見えるわけではないのだろうか。
「……あん? 二時ってどっちだ?」
すると、ライツさんがそんなことを言った。
どうやら、
「……時計、見たことないんですか?」
「見たことくらいならあるけどよ……注視はしてねぇし、よく分からんこともある。つか、あれでどう敵の位置が分かるんだ?」
まあもし文字や数字が読めなかったり、もしくは時計の読み方を知らない場合、時計は意味のないものになってしまうし、そういう人間も少なくない。
ライツさんに関しては、多少は分かるようだが、完全に分かるわけではないらしいしな。
「ええっとですね……つまり、若干前よりの右です。右から十度くらい傾けた位置ですよ」
「十度って……どんくらいだ?」
しかし、またもライツさんは眉をひそめて訊いた。
「ええい! もういいです、あっちの方です! 分かりましたか⁉」
レイラルは地団駄を踏みながらその方角へと指を差した。
「おうよ! 分かった!」
ライツさんはそれなど全く気にしていない様子で、親指を立てながらそう言った。
「……はぁー、そうですか」
レイラルは呆れた様子で肩をすくめた。
「ま、まあまあ、ライツさんの出身は知らないですが、そういう方も多いでしょうから仕方ありませんよ」
ミレイルさんはそう言ってレイラルをなだめた。
俺も孤児院出身だが、もしそうであるならば、識字率は特に下がる。
と言っても、俺は好奇心が強かったらしく本孤児院にあった本をよく読んでいて、文字を読むだけなら問題ないが。
「それで、今大きな声を出したからバレたんじゃないか?」
「あっ」
俺が言うと、レイラルがそう答えた。
何やら、今度は目を瞑って杖を掲げている。
「……ですね、完全にこっちに気がついています。戦闘体勢を取っていますね」
「まあしょうがないな、こっちから出向いて、倒しに行こう。位置が分かってるなら、あまり焦ることもない」
俺は背中に背負っていた戦斧を取り出してからそう言った。
「だな、行くぞ」
ライツさんもそう返事をして、剣を構えた。
先ほど同様なぜか一番前に立っているが。
……俺が前衛じゃなかったのか?
「あー、ライツさん、俺が前衛を張るぞ?」
「おお、そういやそうだな。すまん」
ライツさんはそう言って、一歩下がった。
どうやら、ただ忘れていただけらしい。
「皆さん、少し待っていてください。一旦先に身体強化魔法をかけようと思いますので」
すると、ミレイルさんがそう言ってみんなを引き留めた。
「おっ、ありがてぇな」
「神の祝福をその身に宿し、力強き肉体を作り出さん『ホーリーオーラ』」
その詠唱と魔法名は俺はあまり知らないもので、おそらくミレイルさんが教会で学んだ独自の魔法だろう。
昔、孤児院にあった本で『流出することも稀にあるが、基本的に教会は独自の魔法と詠唱を独占している』と書いてあったような気がするし、そういうことなのだろう。
杖を構え、詠唱をすると俺を含む四人の体が一瞬光る。
若干体が軽くなった――ような気がする。
まあすぐに体感できるほどの強化魔法というのは、ほとんどお目にかかれないし当然なことだ。
「デイスさん、狂化は使いますか?」
「いや、一旦やめておこう。先に様子見をしてからだな。俺のはただの身体強化だし、戦闘スタイルを見るのにあまり必要性を感じない」
俺はあまり大きな声を出さないようにしながらそう返した。
流石に、これ以上大きな声で会話するのはよくないだろう。
もしかすると、既に逃げられている可能性もあるが。
「今回はみんなの戦闘の様子を見るのが目的だ。それを意識してくれると助かる、あとはここからは少し静かにな」
俺は声を潜めてそう言ってから、茂みの方へと歩いていく。
「……真面目ですね、リーダー」
「俺も思ってたところだ」
すると、同じく声を潜めたレイラルがそんなことを言い出し、ライツさんもそれに同意した。
「そ、そうか? というか勝手にリーダーにするな」
俺はそう返しつつ、前の方へと目を向ける。
茂みの中にゆっくりと入っていき、その隙間から向こうを除く。
そこにはしっかりとホーンボアがおり、数匹が警戒しつつ、数匹が既に向こうの方へと歩いていっている。
さっきまで長々と喋っていたせいか、だいぶ遠くまで行ってしまっている。
『三秒後、全員で顔を出すぞ』
俺は冒険者がよく使うハンドサインを三人に見せた。
銀級以上なら、大抵が知っているサインだ。
三人はこくりと頷いた。
――三、二、一。
「散!」
俺はその号令と同時に前に飛び出し、それと共にライツさんとレイラルは飛び出し、ミレイルさんはそれを追うように後ろについていった。
〜あとがき〜
最後までお読みいただきありがとうございます!
設定の補足になるのですが、クロックポジションに関しては『12時間制の時計がある程度メジャーであるため、軍隊や上級の冒険者はよく使っている』という設定にしています。
ちなみに火薬と大砲はあるものの、銃器はほぼありません。
銃器の代わりに魔法がある感じですね。
皆さん魔法に夢中で銃器を開発する気はない……みたいな理由ですね。
事実、この世界で銃器があったとしても、魔力で強化されたバケモン人類に対しては現実よりはかなり効能が薄いと思われます。
少し訓練した銃士よりは多少魔法が使える魔法使いの方が強いんじゃないでしょうか。
それで、まず本作の基本モデル、特に技術面や文化面のそれは近世ヨーロッパになっています。
下水道も機械式時計ありますからね。
それに、宗教の関係もありますが自身の体は清潔に保つのが美徳であるとされています。
ですが、他の街並みや、法律とかはだいぶ中世よりですね。
冒険者の関係もありますが、武器携帯は普通です。まあ街によっては怖がられることもありますがね。
だってその方がロマンがあるじゃない……
……私は大真面目ですよ?
加えて、色々調べてみたところ、当の近世ヨーロッパでは、 初期にはもう機械式の時計、バージ脱進機や振り子式時計が存在していたらしく、不自然ではないかなと思います。
普及率も、まあ多分本作くらいだったんじゃないですかね?(適当)
……いや、調べても出てこないんです! AI(LLM)も使いつつなんですが、LLMはハルシがあるので信用はしきれないですし……
自分で調べると今度は情報の濁流にのみ込まれますし……
本当、この辺しっかり調べて作れる人は凄いと思います。
……というか、それならなんで時計塔がないんだという話になってくるような気もします。
そういった観点から見て、そもそも、ちゃんと近世モデルになっているのかと言われると疑問が残りますが。
歴史小説ではないので勘弁してください……
一応、前述の通り近世モデルでありつつも、魔物や魔法の関係で中世や近代も混ざってはいるんですが、やはりあまりガバすぎる設定は望ましくないですよね、とは思っております。
ですので「ここは違うかもね」、「この方がいいかもね」といったことに気づいた有識者の方は、その点について教えてくださると幸いです。
本来の中近世に寄せると、私の展開したい物語の邪魔になってしまう場合も多々ありますので、そのまま取り入れることは少ないと思いますが、参考にはなるのでお暇があればといったゆるい感覚です。
次回もお読みいただけると嬉しい限りです。
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