第13話:またもや新メンバー?

「なるほど、ではこの子が新メンバーですか」


 ミレイルさんは、予想通りしばらくすると来た。

 しかし、どうやら話によると、既に早朝に一度来ており、その時にもうあの新エリアの詳細を報告していたらしい。

 つまり、このまま顔合わせをした後、依頼を受けることもできると言っていた。


 報酬も受け取っているそうで、後で分けてくれると言っていた。ありがたい限りだ。

 他に早起きする用事があったそうだが、それでもそんな早くにやるとは凄い人だ。


「こ、この子……ええ、私が偉大な魔法使い、神秘の魔女とも呼ばれるレイラル・ヘクスです。よろしくお願いします」


 レイラルは顔を引きつらせながらも、自信満々にそう言った。

 子供扱いされるのが本当に嫌らしい。


 というか、自分で偉大なってよく言うな。


「……神秘の魔女って本当にそんな二つ名があるのか?」

「そこは本当ですよ。私の恩寵の名前が『神秘』ですから――そう、神秘です。カッコいいでしょう?」


 すると、彼女は帽子のつばを持って、その下からニヤリと笑ってそう言った。


「そ、そうか……」

「面白い子ですねー」


 ミレイルさんはなんだか微笑ましそうにレイラルを見ながらそう言った。


「子……」


 今度はレイラルが忌々しそうに拳を握っていた。


「ま、まあまあ。ともかく、魔法使いっていう役職もちょうどいいから、一旦一つ依頼でも受けてみるか」

「いいですね、行きましょうか」

「ええ、いいでしょう」


 と、そんなことを言っていると、協会の中に怒号が響いた。


「おいおい! 確かに俺だってはぐれたけどよ、お前らだって適当な動きしてただろ⁉ 俺にだけ責任を押し付けるなよ!」

「うるせぇ! 普段から死にたがりみたいな戦い方するヤツとはもうやってられねぇんだよ!」


 どうやら、とあるパーティーのいざこざらしい。

 まあ珍しくはないことだ。


 他の二人もそちらの方を見ていた。


「まあよくあることだ――とりあえず、依頼探そう」


 個人的には、とても気になるが、他の二人まで俺の感情論に巻き込むわけには行かない。

 それに、実際彼らに何があったのか詳しく知っているわけではないし、勝手に首を突っ込むと面倒なことになるかもしれない。

 追い出された側がとんでもない人間な場合もあるのだ。


 ……でも、もしそうでないなら助けに入ろう。

 自分に非がないのに追い出される悲しみはよく分かっている。


「……そうですね」


 ミレイルさんはどこか心配そうな様子でそう言った。

 しかしレイラルは、あまり興味がなさそうだった。


「死にたがりだぁ⁉ 確かに言うとおりだけどよ、十分パーティーに貢献してきただろ⁉」


 ……確かに言う通り、というところに引っかかりを感じるが、まあいいだろう。


 依頼書を見てみると、当然色々とある。

 が、あまり難易度の高いものを選ぶのはよくないだろう。


「お前がちょっと強いだけだろ⁉ それ以上に、無鉄砲すぎるんだよお前は! もう限界だっつってんだろ! 俺は帰る! 二度と付いてくんな!」


 後ろではまたも怒号が聞こえた。

 思わずため息が出そうになるが、もうすぐ終わりそうだしかまやしない。


「あおい! 待てって! ……くっそー、今回も駄目だったのかよ」


 悔しそうな声が聞こえるが、その声に悲しみや怒りはあまり感じない。

 どこか無感情に聞こえる。

 ……どういうことなのかはよく分からないが、別に首を突っ込む必要はなさそうに見える。


 ともかく、依頼を探そう。

 この中で、一番良さそうなのは――ホーンボアの群れの討伐だろうか。

 危険度銀級、群れだからの難易度だ。

 協会側が度々出している依頼。

 ホーンボアの肉は美味いから、定期的に出てくるのだ。


「パーティーから追い出されちゃったみたいですね。大丈夫ですか?」


 パーティー全体のレベルから行くと、余裕ではあるが、今回は顔合わせだし――


 と、そこではたと気づいた。

 今の声は、もしやレイラルのものではないのか?


 バッと振り返ってみると、先程のパーティーから置いていかれたらしい冒険者のもとに、レイラルが居た。


「おぉい! レイラル!」


 いや、別に声を掛けること自体は悪くないとは思うのだが――いきなり勝手にやるものじゃないだろう!


「どうしました?」


 不思議そうにしながらレイラルは訊いた。


「いや、気軽に話し過ぎだろう! 勝手に首を突っ込むと、向こうの迷惑になる可能性もある。一回よく見てからだな……」

「いんや? 俺は別に構やしないが――あ! つかお前らダンジョンの時のヤツらじゃん!」


 すると、今度は追い出された方の冒険者が俺とミレイルさんを見て叫んだ。

 しかし、俺は彼に見覚えはなかった。


 くすんだ金髪に緑の目、顔には無精髭を生やし、背中に剣を背負っている冒険者。

 一緒にパーティーを組んだこともないはずだが――


「ああ、あの時の方ですか!」


 と、ミレイルさんは合点がいったらしかった。

 そういえば、彼は今『ダンジョンの時の』と言っていたし、ミレイルさんは前に誰かにダンジョンで助けてもらった、と言っていた。


 もしかすると、そのことだろうか?


「もしかして、ミレイルさんが言っていた、助けてくれたという人か?」

「……え? 私全く話についていけないんですが。これが新入りの弊害……?」


 レイラルが何かよくわからないことを呟いているが、一旦無視だ。


「そうですね、この方が助けてくれました」

「なるほどな――ありがとう、その時は世話になった」


 俺はそう言って軽く頭を下げた。


「やめろやめろ、ただ好きでやったことだ。感謝しなくたって結構だよ」


 しかし、彼は頭を掻きながらそう返した。


「そ、そうか?」

「なんだか話は上手くいったらしいですね。私はよく分からないままですが、とりあえずこの方もパーティーに入れてしまうのはどうでしょうか?」


 すると、彼女はいきなりそんなことを言い出した。

 流石に話が早すぎないか?


「は? もしかしてそのために声を掛けたのか?」

「ええ、そうですが?」


 当然、と言った表情で返すレイラル。

 ……コイツ、さてはコミュニケーション能力高いタイプか?


「み、ミレイルさんは?」

「能力や戦闘スタイルなど、考慮する部分はあると思いますが、特に異論ありません。それらは聞いてから判断するものですしね。デイスさんは何か懸念があるんですか?」

「いや、そういうわけではないんだが……流石に話が早すぎると思ってな。今追放されて、今加入するのか?」

「別に俺も構わない、ちょうどパーティーにも困っていたところだからな。それに、恩がある相手なら多少無茶しても許される!」


 彼はそう言ってニッと笑った。

 元気そうだな、オイ。


「と、いうことらしいですが?」


 レイラルは真顔で俺にそう訊いた。


「……まあ、俺も異論があるわけじゃない。一旦話聞こうか」


 俺は小さく嘆息してからそう言った。


「というか、デイスさんはここ数日ずっと注目の的ですね」


 レイラルが、周りを見ながらそう言った。

 ……確かに、周囲の視線が多い。


 だが、別に敵意があるわけではなさそうだ。

 どちらかと言えば、面白がっている視線の方が多い。


「……でも今回はレイラルのせいだろう」

「まあそれはそうですね」


 レイラルはそう言ってくすりと笑った。


「どうしましょう。場所を変えましょうか?」


 ミレイルさんが小さい声でそう訊いてきた。


「……まあいいだろ。最近はちょっと慣れてきたし。それに、これから依頼も受けるのにわざわざ場所を変えるのも面倒だ」


 俺は頭を掻きながら、小さく嘆息した。


「狂戦士〜、最近のお前は飽きねぇな!」


 一人の中年冒険者が俺に向かってそんなことを言い出した。

 まるで俺が冒険者のおもちゃみたいじゃないか。


「はっはっは、酒が進むな!」


 同時に、他からもいくつか色んな笑い声が聞こえてくる。


 どこかのらりくらりとした笑い声に、少しイラっとしながらも俺は席についた。


 他三人も同様に椅子に座った。


「じゃ、これからよろしく頼むぜ」

「まだ決まったわけではないですがね」

「あ、そういやそうだったな」


 彼はそう言って面白そうに笑った。

 ……コイツら本当に初対面か?


〜あとがき〜


 余談ですが、わたくし空のり、最近はDEATH STRANDINGことデスストにハマりすぎて、まともに執筆ができていません。

 今日と昨日で合計なんと0文字! はっはっは、こりゃ面白い!


 ……ストックは残り三話となりました。果たして追いつかずに完結までこぎつけられるのでしょうか?


 ともかく、最後までお読みいただきありがとうございました。

 次回もお楽しみにしていただければ幸いです。

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