蒼天の四翼

第12話:新メンバー

 鍛冶屋を後にして、俺は協会へと向かった。


 それで、今日はなんと新しいパーティーメンバー候補が来た……のだが。


 今日は、冒険者協会で依頼でも探そうかと中に入ったのだが、メンバー募集の紙の前に一人の少女が立っていたのだ。


 それで、掲示板から目を離したかと思うと、こちらと目が合い、こちらへ歩いてきたのだ。


『すいません、メンバー募集してるって本当ですか?』


 彼女はそう訊いてきた。


『ああ、そうだが。加入したいのか? なら是非来てほしいが――一旦、色々訊きたいことがあるから、そっちで話そうか』

『……? そうですか、分かりました』


 魔法使いなのは一目瞭然だったが、恩寵がどんなものかの話もあるし、そもそもミレイルさんにも話を通さなければいけない。

 ついでに年齢の辺りも少し気になったし、今話している最中だった。


 冒険者ランク金級の、魔法使い。俺と同じランクだ。

 それと、確かミレイルさんも同じだったはずだ。

 ギフトは『神秘』で、ざっくり言うと詠唱次第で魔法が変わる特殊なギフトだ。


「十七歳……なるほどな」


 だから、年齢を確認したのだが――


「なんですかぁ! 何か悪いんですか⁉ 別に冒険者やってても何らおかしくない年齢でしょう!」


 バン、とテーブルを叩いて彼女は立ち上がった。


 少し暗めの赤髪の下から覗く瞳は、青色だった。

 頭には青を基調とし、赤で縁取られたとんがり帽子を被っていた。


 手には赤い魔石らしきものが先端に付いた木製の杖を持っている。

 黒の布地に赤色の刺繍の入った、少し値の張りそうなローブを着ていた。

 蜘蛛の魔物のシルク製とかだろうか。


 最初は普通だった――のだが、次第にこんな様子になってきてしまったのだ。


「い、いや違う、ただの年齢確認だ。少し年齢があまりにも離れてたらと少し心配でな」

「それはつまり――チビってことですか⁉」


 彼女はまたも机を叩いて叫んだ。

 周りの視線が痛い。


 というか、背には一切言及していないのだが。


「一言も言ってねぇよ!」

「む、ムキになって言い返すもんじゃありません!」


 俺も同じく立ち上がって言い返すと、今度は少し怖気づいたような様子でそう返した。

 ムキになってるのはお前だろ、という返答はどうにか飲み込んで、俺は椅子に座った。


「……はぁー、とりあえず分かった。まあ魔法使いとしては優秀だろうし、一旦加入しても構わない」


 俺はこめかみを抑えながら、嘆息した。


「そうですか。それは助かりますね」

「それにしても、レイラル・ヘクスか。聞いたことがあるような気がする名だな」


 どこで聞いたんだったか思い出せないが、確か似たような名前の冒険者の噂を聞いたことがある。


「……多分悪評でしょうねぇ。私は舵取りが難しいだかなんだかでよくあぶれますから」


 すると、彼女はそっぽを向いて小さく呟いた。

 噂の詳細までは知らないが、もしかすると俺と同じタイプなのかもしれない。


「……そうか、大変だな。まあ、俺と似たようなもんか」


 俺は自嘲気味に笑ってそう言った。


「ま、そうですね。私もそちらの噂は聞いてますから。というか、それを聞いて加入したまであります」

「そうなのか?」

「……そろそろ悪評が回り始めまして、入れてもらえないことが増えまして。その点、あなたのような変人なら行けるんじゃないかと思ったんです!」


 どこか自慢げに彼女は言った。


「おい、どっちかというとお前の方が変人だろ」


 ……もしかすると、俺とは少しタイプが違うのかもしれない。

 少なくとも、あまり思い悩むタイプには見えない。


 少し羨ましいな。


「それは否定できませんね……」


 彼女は真面目くさった顔で考え込んだ。


「それは冗談なのか……? ま、まあいいや。それで、恩寵は『神秘』で……詠唱を工夫すると威力向上したりするんだっけ? しかも、結構強いらしいじゃないか」

「ええ、他の魔法使いと比べるとかなりの火力が出ますよ。基本は長い詠唱になりますが、別に短いのも使えますので安心してください」


 俺が訊くと、彼女はそう答えた。

 戦闘では、あまり長々とした詠唱は使えない。

 大抵は魔法名を叫ぶ程度の短い詠唱か、それよりは少し長い戦闘用に最適化された詠唱を使う場合がほとんどだ。


 つまり、彼女のギフトを上手く使うには、効果的な詠唱かつ短縮されたそれを自身で考える必要がある。

 短縮詠唱は、結構難しい部類なのだが、それを自分のギフトとすり合わせながらやっている、というのは結構凄いことだろう。


「短縮詠唱も使えるのか、凄いな」

「こう見えてかなり勉強していますから」


 彼女は自慢げにそう言った。


「なるほどな。本当にちょうど良さそうだ。これからよろしく」

「よろしくお願いします」

「あと、もう一人メンバーが居るが――そうだ、文字は読めてるよな?」


 世の中、文字が読めない人間もそこそこ居る。

 そもそも紙を見てこちらに来たようだし、魔法使いならほとんどが文字を読めるが、一応の確認だ。


 前には口頭での告知もしていたが、文字が読めるなら、紙に大体書いているし、話が早い。


「ええ、魔法使いですから読めますよ」

「じゃあ、もう一人のメンバー、ミレイルさんと次会う時は顔合わせだな。と言っても、多分そのうち来るとは思うけどな」

「分かりました」

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