第11話:無事、帰還

 あれから、周囲を探索してみたところ、特にトラップに当たることもなく地上へ続く道が見つかった。

 その後は、魔物にも二度ほど会ったが、ミレイルさんのギフトと魔法が使える状況なら、狂化を安全に発動できる。


 そんなこんなで、問題なく地上に出ることができた。


 ダンジョンは森の中にあったから、夜になれば危険だ。

 時刻はまだ夕方くらいで、完全に暗くなる前に街道に出ることができて助かった。


 そして、今は新エリアのことを協会に報告中だ。


「はい、レイメルダンジョンに新エリアがあったんです」


 あそこはレイメルダンジョン。大体、ダンジョンの名前にはそのまま発見者の名前が使われる。

 同じ人が発見した場合には、地名や特徴から取られたり、本人希望の名前になったりもする。


 後は、そもそも本人が名付け希望している場合や、特徴が色濃く出ている場合はそれが名付けになったりもするが。


「新エリアですか……大事な情報ですね、少し待っていてください」


 すると、受付の人はそのままカウンターの奥へと消えていった。


「信頼されてるんだな」


 基本、こういうのは真偽確認から始まるものだが、今回はそれをすっ飛ばしていた。


「ええ、品行方正で冒険者をやっているもので」


 彼女はどこかおどけたような笑みを浮かべた。


 すると、受付の人が戻ってきた。


「後日でも良いのですが、エリアの詳細を教えてくださると助かります。それから、報酬の勘定をして――報酬をお渡しすることになりますね」


 受付の人は、持っている数枚の紙をペラペラとめくりながらそう言った。


「分かりました。それでは明日、お話しますね」

「はい、お願いします」

「それでは――あっ、そういえば依頼の方がありましたね」


 採取した植物の方は、新エリアの報告と同時に出しておいた。


「少し潰れてますが……問題ない範囲ですね。はい、こちら報酬になります」

「ありがとうございます」


 ミレイルさんは、受付が差し出した銀貨七枚を、懐から出した自分の財布にしまった。


「あ、報酬は後で分けますね」


 すると、ミレイルさんはこちらの方を向いてそう言った。


「それじゃあ行きましょうか――そういえば、明日の報告にはデイスさんは来なくても大丈夫ですよ」


 ミレイルさんはそう言って歩き出した。

 俺もそれに付いていく。


「そうなのか? ……なんだか申し訳ないな」

「まあ一人でも問題ありませんから」

「そうか……じゃ、お願いするとしようか」


 俺はそう言って頷いた。


「あー、疲れました。大衆浴場行きたいです……」


 そう言ってミレイルさんは嘆息した。

 別に、疲れていなかったわけではないらしい。


「そうだなぁ、俺も明日には行くか。でも、今日はとりあえず飯食って寝るかな」


 俺は少し疲れた肩を回しながらそう言った。


「……んで、明日は風呂と、あと鍛冶屋に行ってまた修理だな」


 俺はだいぶ刃こぼれした斧を眺めてそう言った。


「ああ、そういえば結構な戦い方してましたもんね」

「……ギフトのせいだ、しょうがないだろ?」

「ええ、分かってますよ」


 言うと、ミレイルさんはどこか悪戯っぽく笑った。


 この街、というか多くの都市には大衆浴場がある。

 後で入ることにしよう。


「それじゃあ、ここで解散ですね。また明日」

「ああ、また明日」


 一応、同じ宿屋に宿を取ってはいるのだが、当然部屋は別だ。


 ◇


 ――あのダンジョン探索から、翌日。


「んで、結局大丈夫だったじゃねぇか」


 オグルスは、戦斧を研ぎながらどこか安心したような様子でそう言った。

 今日もまた修理を頼んでいた。


 出費が痛い。

 昨日の報酬の銀貨六枚がほとんど吹き飛んだ。


 ちなみに報酬が六枚、というのはミレイルさんが少し多めにくれたのだ。

 ありがたい限りだ。


「……まあな」

「ギフトのデメリット消せるっつーのは最高だな。それと俺もこれから修理が減ることになるか」


 どこか皮肉っぽくオグルスは笑った。


「ああ、これからは壊すことも減るさ。もう金づるにはならないぞ」

「まだ覚えてたのか……」


 こちらを向いて、驚いたような表情でオグルスは言った。


「……ま、お前にもちゃんとした仲間ができたみてぇで良かったよ」

「今までの仲間がちゃんとしてなかったみたいな言い方だな」


 そう思ったこともあったが――どちらかと言えば、原因は俺の方にあるのだから、向こうに全責任を押し付けるのは違う。


 ……だからこそ、相手のせいにできない、責任が自分にのしかかるというのは苦痛だったのわけだが。


「仲間は悪くねぇかもしれねぇが、お前は本当の仲間を得ていたわけじゃねぇ。そういう意味での『まともな仲間ができた』っつーことさ」


 オグルスは、戦斧を研ぎながら言った。


 それは確かにそうだな、と同意してしまう。

 いつも、どこか裏切られる恐怖感があったから。


 まだそれは消えたわけではないが、少しはマシになった。

 冒険者は、まだ続けられるかもしれない。


「……まあな。ずっと怖がられることに怖がっていたからな。面白い話さ」


 俺は少しおどけながら言ってみせた。


「はっ、自分でよく言うわ」


 オグルスは面白そうに笑ってからそう言った。


「俺はよ、お前のことは知らねぇし、知ったら怖ぇって思っちまうだろうよ。だから、本当の仲間では居てやれんが、話くらいは聞いてやれる。困ったら来い――ほらよ、終わったぞ」


 オグルスは、言い切ってから戦斧を俺の方に投げた。


「おい! 投げるなって!」

「毎回ちゃんとキャッチしてんだからいいだろ。また壊れたら来いよ」

「……はぁー、まあそうだけどよ――じゃあ、ありがとよ」


 俺は素直に感謝を述べた。

 オグルスは、確かに同じ仲間ではないし、一緒に冒険をすることもないだろう。


 だけど、こうやって友人で居てくれるだけで嬉しかった。


「おうよ」


 〜あとがき〜


 最後までお読みいただき本当にありがとうございます!


 少し裏設定おもらしになるのですが、この世界では大体みんな三日に一回くらいは大衆浴場に行く場合が多いです。

 作中では、無駄な描写となってしまうので省いていますが、彼ら彼女らは割と風呂に入っています。

 それ以外は布で体拭いたりー軽く水浴びしたりーといった程度です。

 特に出先だと流石に風呂は難しいですからね。

 ついでに、砕いた使用済み魔石(魔石の魔力は補充可能だが、使いすぎると補充もできなくなる)と混ぜると石鹸ができる夢のような素材があるので、石鹸も存在しておりちゃんと清潔です。


 ……やっぱり、かわいい女の子がいるなら近世中世モチーフの異世界ファンタジーだろうがちゃんと清潔にしないとかわいそうだるるるるぉ⁉


 という作者側の都合により、衛生面は言うほど悪くありません。

 大衆浴場に関しては、魔法の水生成により水をだばーしているので、上水道はありませんが下水道は整備されています。

 本作は近世を基本とした異世界ではありますが、まあファンタジーなので色々ヘンです。

 理由はかなり適当ですが……でもこんなとこ考えすぎてもただの一作者である私の頭がパンクしてしまうので許してください。

 このレベルでも既にパンクしそうなんです。


 ……ついでに、もしあとがきで間違ったことを言っていても、私はただの素人なので優しく指摘してもらえたらなぁ、なんて。ハハ。

 作中での話は、意図的にズラしていたりもするので、有識者の方は「ふーん(ハナホジ」みたいな感覚でお読みいただければなと。


 次回もお読みいただけると幸いです。

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