第4話:ギフトの検証 2/2
「いえ、向こうにちょうど良い検証用の相手が来たみたいですよ」
いたずらっぽく笑って、俺の後ろを指さした。
振り返ってみると、そこには魔物。
赤く鋭い角を持った猪がそこには居た。
ホーンボア、単体では危険度銅級の魔物。群れだと銀級程度になる。
下から二番目で、そこまで強いわけではない、確かに検証にはちょうど良いかもしれない。
「だな! ちょっとやってくる!」
俺はそう言って駆け出した。
目の前には三匹、大した数ではない。
突っ込む俺の姿に驚きつつも、一匹が左に周り、もう一匹はそのまま突進してきていた。
一匹目の直線的な突進を横に飛んで避け、そのまま素早く動く胴体を捉え、なるべく首を狙って戦斧を振り下ろす。
戦斧はホーンボアの頭を貫通し、地響きのような音を立てながら、勢いよく地面に突き刺さった。
吹き出した血が戦斧にかかり、血で濡れてしまった。
「うおっ! 力入れすぎたか……」
多分、普段の狂戦士モードならそんなことも気にしないのだが、今は冷静な分しっかりと考え、力加減をして戦うことができる。
戦斧を地面から引っこ抜いて、しっかりと手に持つ。
すると、俺の目の前にはホーンボアの角があった。
「どわっ!」
俺はそれに驚きつつも、すんでのところで体と角の間に戦斧を挟み、防御する。
火花を立て、向こうの角が若干欠ける。
向こうは角を振り上げているが、そんな隙を晒せば倒せる。
一瞬、ちらりと周囲に目を向けると、左の方に猪の姿が映った。先に場所を確認しておくのは重要だ。
だが、今は目の前のコイツを倒す。
「おらっ!」
今度は加減をしつつ、横薙ぎに戦斧を振り抜く。
猪の上に向いた首に、それが突き刺さる。
首が綺麗な断面でずるりと落ちる。
血を吹き出しながら倒れる体をよそに、俺は次のホーンボアに目を向ける。
後ずさりをしているホーンボアだが、しばらくすると意を決した様子でこちらに突進してくる。
そして、俺はそれに迎え撃つように前へと駆け、真正面からその体を真っ二つに切断した。
「おっ、と。危ない」
俺はそう言いながら、吹き出した血に濡れないように避けた。
戦斧をピッと振って血を払い、俺は振り向いた。
「ミレイルさん! こりゃすごいな!」
別にホーンボアくらいなら元々の状態でも余裕だが、圧倒的に戦いやすかった上に、斬った断面が綺麗だ。
普段の戦斧の技術に、狂化のバフが合わさっている。
「おお、確かに凄いですね。かなり綺麗な断面です」
ドロドロと血が出ているにも関わらず、ホーンボアの断面を間近で眺めながらミレイルさんはそう呟いていた。
……そんな近くで見るもんか? という言葉は飲み込んでおこう。
「と、ともかく、これなら本当に強くなれそうだ! ミレイルさん、本当にありがとう!」
「……いえいえ、これほど強くなれるなら、デイスさんとパーティーを組めるのは私としても願っても無いことですから」
その発言に妙な間があったが、俺にはその真意は分からなかった。
……今考えても、しょうがないだろう。
まだ、お互いのことは知らなさすぎるから。
「――そういえば、狂化発動時の俺はどうだった?」
「どうだったと言いますと……まあ、あまり様子は見えませんでしたが、なんだか危なそうなのは分かりました。成功して良かったです」
彼女は屈託のない笑みを浮かべた。
……そうか、そこまでは見られていなかったか。
心の中でそう安堵する。
今回は恐怖されることはなかったが、それは戦闘中の俺を見ていないからだ。
見られればどうなるかは――いや、もう考えるのはよそう。
今は、目の前で起きていることを喜ぶべきだ。
きっとそうだ。
「……そうだな」
俺はその違和感を無視して、小さくそう返事をした。
「さて、じゃあ帰るか!」
「……ところで、これの処理はどうするんですか?」
すると、少し間をおいてミレイルさんが俺に訊いた。
うん、全く考えていなかったな。
今思えば、普段よりもかなり適当な動きだった。
やはり、ギフトの影響だろう。
「……あー、ギルドに頼もう」
流石にこの量では、自分で処理するのは無理だし、運ぶのも無理だ。
今から馬車を借りるわけにはいかないしな。
ギルドは、金を払えば討伐した魔物を運んでくれるサービスがある。
使ったら向こうの取り分が増えるし、自分で処理したり運んだりすれば安価で済むから、できることならそうした方が良い。
と言っても、こういう体全部が有用な魔物は使わざるを得ないシーンも多いが。
……例えば、今のような。
「まあ、そうなりますよね」
ミレイルさんは、苦笑してそう言った。。
運送サービスを利用するには、討伐の証明ができる部位と場所のある程度正確な情報がいる。
適当に場所を指定すると追加料金を取られるし、しっかり覚えておこう。
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