第3話:ギフトの検証 1/2
検証のため、俺たちは街外れの平原に来た。 人通りがないように、街道から結構離れた場所だ。
茂みがちらほらと見える普通の平原。加えて、俺の奥と手前には、森が広がっていた。
また、廃墟のような場所も一部見えるが、あれはここ『城塞都市ケンテル』名物の遺跡とダンジョンだ。
この街の周囲にはとりわけそれらが多い。
特に、ダンジョンは結構な数がある。
「じゃあ再確認だ。まず、俺のギフトは任意発動だが、終わるタイミングは変動する」
発動は任意だが、止めるのは任意じゃない。
発動前の俺自身の精神状態だったり、周りの状況、あとは戦闘時間で変わる。
大体、戦闘がなければ五分もせずに終わる。
「あと、分かってると思うが、失敗したら離れろ。仲間を傷つけないために努力はしているが、付いてこられたら怪我させるかもしれん」
「……ええ、分かっています」
確かな意思の宿ったその瞳を見ると、俺の言っている意味が本当に理解できているのか怪しく感じる。
失敗しても、そのまま続けてしまいそうな目だ。
「そっちは、精神回復系の魔法で回復を試みてくれるってことだな?」
身体で発動する形式の魔法は、あまり興味が沸かなかったから、詳しくない。任せることしよう。
魔法を無機物に封じ込める、魔道については少し知っているんだが……まあ、今は関係ない話だ。
「ええ、他にもそれが駄目だったら、マインドタッチ――まあ、他人の精神に擬似的に接続して、直接直す魔法も試してみようかと思います」
そんなのもあるのか、と内心驚く。
「……本当は、洗脳系も試してみたかったんですが、禁止されていますし、使い方も分かりませんので仕方ありませんね」
彼女は残念そうに嘆息した。
洗脳といった、過度に人の精神に干渉する魔法はフェタール教の禁忌だし、多くの国も禁止しているものだ。
当然、習得方法も秘匿されている。
「……なあ、もしできてたら試してたのか?」
「はい、もちろん。成功率を高めるためですから……そりゃ洗脳魔法は悪いものですが、こういった場合では別に良いでしょう?」
俺が訊くと、彼女は本当に不思議と言った表情でそう返した。
いやまあ、言っていることは確かに正論なんだけど……それを躊躇なくやるというのは、少し変わっている気がする。
「ま、まあ分かった。とりあえず、やるからな」
「はい、いつでもどうぞ」
彼女は先端に水色の大きな魔石が嵌め込まれ、反対側には金の留め具がついている鈍い銀色の杖をこちらに向けて、そう言った。
結構値のしそうな杖だ、なんて考えながら俺は心の準備をした。
「……ふぅー」
やっぱり緊張する。
が、やると言った以上はしょうがない。
念じるだけで発動できるが、ここは敢えて宣言しておこう。
相手にもタイミングが分かりやすくなるだろうから。
「狂化!」
自信のギフトを発動する。
ふつふつと心の奥底に溜まった感情がこみあげてくる。
それは怒りだったかもしれないし、絶望だったかもしれないし、悲しみかもしれない。
でも、どうでもいい。
後は壊すだけだから。
――ああいや、駄目だ。少し耐えるだけでいい、そうだ。
少しだけ残った理性で、どうにか感情を抑えつけて、今にも割れそうな頭を手で覆いながら思案する。
目の前には、少し緊張した表情を浮かべながら、何かを言っている少女が居た。
一体何を言っているのか、分からないが、とにかく必死の形相だ。
何してんだ、分からない。ああ、イライラする。
魔物を殺したい。
壊したい、全部。壊せば、全部終わる。
なんでどこにも魔物が居ないんだ。人は駄目、駄目だから。
魔物、無機物、なんでもいいから。
なんで抑えていなければいけないんだ?
――いや、抑えていなければいけない理由なんて簡単だ。
人を傷付けたくない。こんなギフトで、人を傷付けるなんて御免だ。
それに、なんでそんなにイライラしているんだ?
ふと、そんな冷静な自分の頭によぎった。
ギフトは発動したはず、不自然なくらいに冷静だ。
「デイスさん?」
不安そうに顔を覗き込んできたのは、ミレイルさんだった。
確かにそう認識した。声もよく聞こえる。
「え? あーっと、成功?」
「ほっ……やったっ! 成功みたいですね!」
すると、一瞬安堵したような表情を見せた後、嬉しそうな表情でこちらに手を差し伸べてきた。
「成功か⁉ おお! すげぇ! 普通に考えれる、すげぇ!」
俺はそう言って腕をぐるぐる回したり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりする。
体が本当に自分の意思で動くし、思考だって明瞭だ。
「……えーっと、確かに成功はしたみたいですけど――テンションおかしくないですか?」
そんな俺の様子に、ミレイルさんは疑問の声を上げる。
俺はピタッと止まって、自身の行動を振り返ってみる。
「あー……もしかすると、ギフトの副作用かもな?」
俺は苦笑しながら答えた。
凶暴性は失われたが、少しハイテンションになる、といった副作用になったのかもしれない。
随分可愛いギフトになったな、という言葉は飲み込んでおこう。
……少し恥ずかしくなってきたが、それは置いておこう。
「なるほど、確かにその可能性はありますね。気分が高揚し、凶暴になるのが『狂化』のデメリットだとして、後者のみを浄化したと考えれば納得がいきます」
彼女はそう言って考え込んだ。
「確かにそうだな。まあ、別にそれぐらいならデメリットとは言えないだろ」
「ですね……あと、力の方も検証したいのですが――」
ミレイルさんはそこまで言って、俺の後ろの方に目を向けた。
「ん? どうしたんだ?」
「いえ、向こうにちょうど良い検証用の相手が来たみたいですよ」
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