第9話
イベントが終わった。
ヴェルはイベントで優勝こそできなかったが、得るものはあった。それは『冒涜の幼体』の情報である。これのおかげで『冒涜の幼体』が発動可能になった。
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スキル:冒涜の幼体
停滞を恐れる神の力をわずかに奪い、行使する。
任意発動。レベルが1下がり、スキルポイントが2ポイント減るが、1分間1メートル以上動いていない生物1体を選択し、最も高いステータスに応じた特大ダメージを与える。
残りスキルポイントが1以下の場合は発動できない。
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このスキルは挑戦者を待っている敵に対してとても効果的である。つまり—
「よし、じゃあケルベロス、再戦と行こうか!その力を頂こう!『冒涜の幼体』!」
その言葉を放った瞬間、何かに怯えたように目を伏せ、後ずさりし始めた。
どうやら『冒涜の幼体』は外傷は与えないらしい。このスキルが神の力なら神に殺された人の死体は眠っているように見えるのかもしれない。
このスキルが発動できるようになる前は全くと言っていい程歯が立たなかったケルベロスを倒すとまでは行かなくても怯えさせる事に成功しているのだ。イベントで得た物は大きかったと言えるだろう。
また、あの後クレアとフレンドになる事もできた。これで何かしらの協力が必要になった時に連絡を取れるだろう。
さて、ケルベロスはヴェルの攻撃を受けて怯えながらも口を光らせ、炎を吐いた。しかし、その炎はこの前よりも明らかに弱弱しく見え、ファイアウルフ3匹が炎を吐き返すだけで相殺され、ケルベロスは残りの2匹からの炎を受けた。
そして、ケルベロスはまだ戦えそうなのにもかかわらず、岩の窪みの奥にあった空洞へ飛び込んで行ってしまった。
ヴェルがその空洞を覗き込むと、そこは真っ暗で、何も見えなかった。
とりあえずファイアウルフの1匹を空洞に入らせてその中を探らせる事にした。
数分後、そのファイアウルフは無事に戻ってきた。どうやら入ってすぐの場所はファイアウルフでも対処できる程度の危険しかないらしい。
それはつまりヴェルも対処できるという事になるのでヴェルも空洞の中に入ることにした。
***
空洞の中に入ると、地獄のような光景が待っていた。
いや、実際ここは地獄なのだろう。炎が燃え盛り、死者らしき下半身の透明な人の形をした何かの悲鳴が響き渡る場所を地獄以外の何と呼ぶのだろうか。
〔条件を満たしました。スキル:冒涜の子を手に入れました。このスキルは公開できません〕
—幼体の次は子なのか。その先はどうなるんだろうか。
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スキル:冒涜の子
全てを見渡す神の目をわずかに欺き、隠ぺいする。
鑑定を受けた時に自らの『冒涜の』という言葉で始まるスキルを隠す。このスキルはいかなる手段でも無効化されない。
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—これはとても不味いな。全く警戒していなかったが、この前のイベントでせっかく隠したのに冒涜スキルを見られていた可能性がある。
イベント開始前にも公開されているスキルで問題がありそうであったりヴェルとの相性がよさそうなスキルを探していたが、この種の鑑定は発見できなかったので全く考えていなかった。なんなら魔法系スキルも確認できていなかったので警戒していなかったのだが。
クレアとヴェルが試合後に二人だけで会話していたという事実は多くのプレイヤーに知られているので、何も考えずに敵対を選ぶプレイヤーは少ないだろうが、デスペナが少ないと思われるこのゲームで戦う理由を与えるのは好ましい事ではない。
これは冒涜のスキル所持者として大問題であるので、人間や魔物に発動できる鑑定の存在をクレアにも共有しておいた。
クレアはあまり驚いた様子では無かったが感謝はしていたので借りは返したという事でよいだろう。
さて、ヴェルが辺りを見渡してみると、幽霊のような何かだけでなく、黒い肌と真っすぐな角を持った鬼や、蝙蝠のような羽と歪な形をした角を持った悪魔が見えた。遠くには昔現実で硬貨とかいうお金に書かれていた物に似た建物があり、誰も入って行かないのに次々と幽霊が出てくる奇妙な光景があった。幽霊たちはみな悲痛そうな表情をしているので仕事から帰るという訳でもないのだろう。
—ほぼ確実にあの建物には強敵がいるしとりあえず近づかない方が良いだろう。そういえばケルベロスはどこに逃げたんだ?
おそらくあの建物に逃げたか、どこかを走り回りながら幽霊を捕食しているかのどちらかだろう。いずれにせよ警戒を辞めるべきではないだろう。
とりあえず今回も戦ってみないと何をするべきか分からない。という事でファイアウルフ達に近くにいた幽霊を攻撃してもらった。
すると、炎を吐きかけられた幽霊は一瞬にして消滅した。そして—
〔レベルが25になりました〕
『冒涜の幼体』の代償を超えてレベルが3も上がった。つまり、非常にレベル上げに適しているという事である。
しかし、幽霊にヴェルが攻撃したところ何もスキルを使っていないのに、体が非常に重くなった。ヴェル自身の体を見ると灰色の湯気みたいなものが出ている。これは状態異常だろう。どうやら接触を伴う攻撃をすると状態異常を受けてしまうようだ。しかも、手応えがあまり良くなかったので、ほとんど攻撃が効いていないと思われる。
さらに、周りにいた幽霊たちもヴェルに向かって近づいてきたのである。これは明らかに状態異常を受けた敵を攻撃するようになっているのだろう。
「ファイアウルフ達!頼んだ!」
その言葉とともにファイアウルフ達はヴェルに近い幽霊から炎を当て、着実に倒していった。
それでも量が多く、1匹の一度の炎で2体までしか倒せないため、ヴェル達は後退しながらファイアウルフ達の炎の再使用可能まで耐久する事になってしまった。
幽霊達はあまり速くないのでヴェル達は走る必要が無かったが、少し遠くには壁が見える。そこまで後退してしまったら負けるだろう。
しかも、入ってきた場所からは大分離れてしまった。ここから脱出することは選択肢に入れられない。
とはいえ、レベルは凄い勢いで上がっているのでもう50に近づいている。という事でヴェルは戦いながらではあるが魔法系のスキルを取得する事にした。
—取得できるのはいいんだがなんか明らかに少ない感じがするな。イベントで見た物以外ほとんど無い。いや、そうじゃないのか。ほとんど無いからイベントでも見なかったのか。それにしたって風系が多いがこれは全部クレアが公開したのか?
それ以外はおそらく本戦2回戦で戦ったケンキュウシャが公開したと思われるスキルしか無かった。もしかしたら魔法系スキルはスキルポイントで取得するにも条件があるのかもしれない。まあ、発見した人が公開していないだけかもしれないが。
ヴェルはクレアの使っていた『マイクロバースト』と『ウインドランス』を取得すると、幽霊達に向けて発動した。
幽霊達はそれらを受けて後ろに飛ばされ、体に穴を開けられて消滅した。
だが、ここでヴェルが油断したのは間違いだった。
それは、幽霊の残りも少なくなってきたなとヴェルが思った時だった。
ヴェルがふと幽霊達の後方を見ると、ケルベロスと、その上に骸骨の頭を持つ魔術師、リッチがすぐそこまで迫っていたのである。
リッチは手に持っている杖を高く掲げて沢山の幽霊を召喚すると、ケルベロスから降り、何かを地面に書き始めた。
—お代わりかよ。しかもこれ早く突破しないとリッチに殺されそうだな。
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