第5話
—冒涜の幼体の効果を見たが何もわからないな。隠された文字が多すぎる。そもそも発動できないし。能力不足っていうのはレベルを上げろっていう事なのか?
とりあえず地上に戻らない事には何もできなさそうだったのでヴェルは地上に戻る事にした。
***
「いや、深すぎだろこれ。なんでここまで掘ったんだか。それで、ここはどこだ?」
ログアウトを挟みながら十日以上かけてヴェルは地上に戻ってきた。森の中に。森と言っても最初の草原から見えた木とは種類が違うように思える。おそらく斜め上に掘っているうちに方向感覚がおかしくなって元居た場所と大分離れた場所に出てしまったのだろう。地上に出られた以外で良かった事といえば空は木の葉のせいで見えないが明るさからして昼間であるという事くらいだろうか。
「いやこれはむしろ好都合だ。こんな姿でこのゲームを始めた目的を果たそうとしてもきっと逃げられるか最悪殺しに来るだけだ。きっとそうだ、そうに違いない」
—まあそれはそれで良いのかもしれないし、むしろモフモフだとか言って喜ばれるかもしれないが。
「さて、これからどうしようか」
村の方向が分からない以上他のプレイヤーとすぐに会う事は不可能と言って良いだろう。そしてリスポーン地点がやはり分からないので死ぬのも避けた方が良いだろう。そう考えたヴェルは隠れながらこの森からの脱出を試みる事にした。
しかしヴェルが歩き出した数分後、そんな考えは甘すぎるとでも言うかのように、筋骨隆々を体現したような巨体と鬼のような顔を持った魔物、オーガと目が合ってしまった。
「ガアァッ!」
オーガはヴェルを一目見ただけで襲う事に決めたのか、力強い叫び声とともに全身の筋肉を脈動させながら突進してきた。
「あっぶな!」
反応があとすこしでも遅ければ避けられなかっただろう。自らがコボルトでない足の遅い種族だったとしても避けられなかっただろう。オーガは巨体を持ちながらもそんな速さを持っていた。ヴェルは逃げる事を諦め、オーガと向かい合った。そして、ヴェルが覚悟を決めた次の瞬間、オーガはもう一度突進したが、速度が先ほどよりもかなり遅かったため避けやすかった。
—AGIが突然下がった?それともさっきのはスキルで今回は打たなかった、いや、打てなかったのか?それなら勝てるかもしれない。
ヴェルは深呼吸をして自らの精神を落ち着かせると、オーガの方向を向いて構えた。ヴェルに武術の知識はないので見様見真似で。そして、もう一度突進してくるオーガの首元を爪で切った。すると、意外にも簡単に傷が入り、オーガは目に見えて苦しみだした。だが、そこで突然ヴェルは嫌な予感がしてオーガから少し離れた。すると、オーガは突然赤いオーラを纏い、ヴェルに対し最初よりも速い突進をしたのだ。
—さすがに避け切る事は不可能か。
ヴェルは後ろに跳躍しながら怪力を発動させ、自らの爪をオーガの首当たりの高さで振るった。オーガは最早それすら見えていない様子でその爪に突っ込み、ヴェルを吹き飛ばしながら息絶えた。
〔レベルが8になりました〕
〔条件を満たしました。スキル:突撃を手に入れました。公開しますか?〕
〔条件を満たしました。スキル:暴走を手に入れました。公開しますか?〕
「い、いや、危なかったな。1匹倒すだけでもこんなに大変なら両方とも公開しないぞ。」
最後の最後で吹き飛ばされたヴェルは1撃しか受けていないのにもうHPがほとんど残っていなかった。しかも視野が何故か狭い。それでも一気にレベルが7も上がったのはとてもありがたい事である。
—怪力による脱力感もあるしオーガの死体の回収とスキルの確認をしてからログアウトするか。
______
スキル:突撃
任意発動。5秒経つか何かにぶつかるまでAGIが1.5倍になって突進する。使用後3分間
クールタイム:5分
______
スキル:暴走
自分のHPが5%以下の時、視野が狭くなる代わりにAGIが2倍になる。
______
—この視野の狭さは暴走の効果か。どっちも使いこなせれば強いが使いにくいスキルだな。突進の方は書かれ方からしてほとんど操作が利かなそうな事が欠点だがそこは要検証か。暴走の方はHPを自分で調整するのが難しい事と、発動中に横やりが入った時にどうしようもない事だけが欠点だな。どちらももともと高いAGIを伸ばすスキルだから有効に使っていきたいが。
そんな事を考えながらヴェルはログアウトした。
***
再度ログインしたヴェルは悩んだ。1週間後イベントがあるらしいのだが、それに参加するかどうかについて悩んだ。イベントの内容は1対1のトーナメント制の対戦だ。優勝者には賞品があるらしい。参加するならば優勝するほかないだろう。ヴェルは現在のプレイヤーの中でかなりの上位にいる自信はあるし、ゲームの攻略という面では最前線にいる事は確実だ。しかしそれでもヴェルより強いプレイヤーが居ないとは言い切れないのだ。もしも負けてしまった場合、明らかに悪にしか見えない魔物が無意味に自らの手札を晒す事になってしまう。そんな状況は作りたくない。最悪ヴェルを
—いや、それでも俺は参加するしかない。こんなところで怖気ついていたら幼女と愛し合うなんてどうやってもできないじゃないか。
ということで、ヴェルはイベントに出る事に決めた。それはつまり、この1週間でヴェルは自身の更なる強化をしなければならないという事だ。幸い、この森で生き残るのはヴェルの実力ではギリギリだが、だからこそ生きてさえ居れば他のプレイヤーと比べて早く強くなれる。なのできちんと森で戦う相手を見極められればイベントでも勝てるはずだ。
そうと決まれば今は戦う相手を探すだけで良い。しかし、そういう時に限って接敵しないもので、もう1時間も敵を探しているのにもかかわらずまだ武器を持ったゴブリンが3体でまとまっているのを数組しか見ていない。彼らは後ろから1匹倒してすぐに離れる事を繰り返す、ヒットアンドアウェイという戦法をするだけで簡単に壊滅させる事ができたのでカモではあったが、その分全部倒してもレベルが1しか上がらなかった。
—もしかして敵がもともと少ない場所なのか?それなら移動しないといけないんだが。
そんな事を考えたからだろうか、ヴェルは沢山の木の先に2体のオーガが何かの肉を食べている事に気づいた。
—2体同時に戦うのは厳しそうだが奇襲できればいけるか?
ヴェルはオーガの背後から忍び寄り、首の横の部分—人間で言えば頸動脈の部分を爪で切った。するともう片方のオーガが怒ったのだろうか、食べていた肉—近くからよく見れば焼かれた人の死体のようだ—を放り投げて突撃を使用してきた。ヴェルは最初に攻撃したオーガが暴走を発動させる前にもう一度首元を切り裂き、とどめを刺した事を確認してから突撃を横方向に発動させる事で攻撃を回避し、更なる追撃が来る前にオーガの方を向き直った。
〔レベルが11になりました〕
—戦闘中でもレベルは上がるのか。それにしたってゴブリンとの経験値の差が激しいな。
戦闘と関係のない事を考えながらも気を抜かないヴェルに対し、オーガはうなだれたような様子である。
—仲が良かったのか?でもまあしょうがないだろう。人肉を食べていたんだからお互いさまだ。
〈種族:人間〉ですらないのにまるで
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