第3話(別視点)

 新しいものを発見して皆に自慢したい!


 そんな思いで『Empty World』を始めた女がいた。女は病弱で、知り合い全員に気を遣われてばかりいて、それがつらかったのだ。そして、『Empty World』ならば簡単に新しいものを発見できて、しかも皆に認めてもらえるという事をSNSで教えてもらってそれならやってみようという気持ちになったのである。そうして決めたゲーム内での名前はクレアである。



 ***



 チュートリアルを終えて草原に現れたクレアはまず景色に感動した。彼女は普段家に居なければならないので外に何の制限もなく出ている事が珍しかったのだ。数分後、彼女はふと思い出したように動き出して、転びそうになりながらも村に向かった。


—やっぱりゲームといえば戦闘だけど私は運動苦手だしなあ。


 そこで、武器を持っているたくましいNPCらしき男に話しかけた。


「こんにちは!ここの村に住んでいる人ですか?初心者でも使える武器が欲しいんです!」

「お、おう。突然何なんだよ。まあ、武器といえばこれだろう」


 そう言って男は、手に持っている穂先が削って作った石でできた槍を見せてきた。


「じゃあそれください!いくらですか!」

「悪いがそんなに数は無いし、本当は売り物ですら無いんだ。ちょっと高くなるぞ」



 ***



 チュートリアルでもらったお金のほとんどを使ってしまったが、最初は払えなかった分を何とか負けてもらって他のプレイヤーの武器よりも強そうな武器を買うことができた。これならば普段運動を全くできないクレアでも十分に戦えるだろう。この槍を売ってくれた男によると草原は魔物が弱く、クレアのような初心者でも戦いやすいとのことだったので草原に向かうことにした。


 クレアが草原で魔物を探して歩いていると、醜悪な顔をした緑色の背の低い人型の魔物、ゴブリンが歩いているのが見えたので、その背後に忍び足で歩いて行き槍を持って思い切りその背中に突き刺した。すると、ゴブリンはただでさえ醜い顔を痛みに歪めながらも顔をクレアの方向に向け、血をクレアの顔に吹きかけながら槍を奪い取ろうとしたので、血に怯んで目を閉じたクレアは槍を手放してしまった。


—え?え?どうしたらいいの?


 混乱し、恐怖したクレアは目をつぶったまま走り出し、その数十秒後、突然の浮遊感の後アナウンスを聞いた。


〔レベルが2になりました〕

〔条件を満たしました。スキル:ダウンバーストを手に入れました。公開しますか?〕

〔条件を満たしました。スキル:怪力を手に入れました。公開しますか?〕


 そして直後にクレアはリスポーンした。



 ***



「あ、怪力だけ公開します!」


—スキルはどんな条件だったのか分からないけど私が初日に取れるくらいだし簡単な条件のスキルなんだと思うんだよね。怪力なんて乙女にあるまじきスキルを私だけが持っているなんて嫌だし。でもダウンバーストは響きがかっこいいし、皆に自慢できそうな気がするから非公開にしておこう。あとなんか突然リスポーンしたけれどなんで死んだのか分からないな。誰かが作った罠に落ちたのかな。でも罠にはまったらレベルが上がるなんて変な感じだね。獲物を生け捕りにする罠だったのかな。


 そしてふと周りを見渡したクレアは、自らが突然ゴミ捨て場に現れて怪力などと叫びだすという醜態を晒した事に気付いて少し顔を赤くするのだった。


 数分後、気を取り直したクレアはスキルの確認をすることにした。


______

スキル:怪力

任意発動。発動時5秒間STRが5倍になるがその後1日STRが3分の1になる。

クールタイム:1日

______

スキル:ダウンバースト

空中にいる時任意発動。真下方向にSTRに応じた強い衝撃波を放つ。

クールタイム:1時間

______



—どちらも強いけど使い勝手が悪そうだし、私はそんなに力が強くないんだけどなあ。ここからどうしたらいいんだろう、槍もゴブリンに取られちゃったし。ダウンバーストを空から打つために空を飛べたりしないかな。空を飛ぶといえば鳥だから鳥を探してみよう。


 そうして元気よく村の先ほどの男の元へと走っていった。



 ***



「鳥はどこに生息していますか?」

「鳥?鳥はそうだなあ、森にいるとは思うが戦闘初心者には捕まえられないと思うぞ?ところで槍はどうしたんだ?」

「ありがとうございます!ではとりあえず森に行ってみます!」


 男の質問には何も答えずにクレアは森へと走っていった。


 森に着くとそこは木の葉に遮られて全く日が差さないのにもかかわらず蒸し暑かった。だが、クレアはそんな事を気にも止めず木に登り始めた。クレアは森へ来る途中にジャンプしたらダウンバーストが発動できるのかと思って使おうとしたが使えなかったのだ。なので、その代わりに森で木に登ってそこからジャンプすれば発動できるのではと考えた結果がこの行動だった。


「よいしょっと。んで、『ダウンバースト』!あ、あれ?」


 すると、木に登る苦労をしたがあって発動したダウンバーストは真下にいたゴブリンに致命傷を与えたが、自らの状況を考えずにスキルを発動したクレア自身も落下死する事になってしまった。



 ***



—うまくいったけどリスポーンしちゃったしこれ飛んでる鳥に攻撃する事はできないよね。何かスキルをあの男の人に教えてもらえないか聞いてみよっと。


「あ?スキルを教えてくれだと?まあ結構なかねもらったし1つだけ教えてやるか」


—なんだか騙されたような気がしてきた。よくよく考えてみれば草原で戦闘した時は勝てなかったのに森では敵を倒せたし。けどまあ教えてくれるみたいだしそれでも良いかな。


「じゃあ植物の見分け方を教えてやる。ちょっとこっちに来い」



 ***



〔条件を満たしました。スキル:鑑定(植物)Lv.1を手に入れました。公開しますか?〕


「公開します!ありがとうございました!」


 鑑定(植物)を手に入れたクレアは男にお礼を言うと武器を持っていないにもかかわらず森へと走って行った。


 森に着いたクレアは早速目についた木に向かって鑑定(植物)を発動した。


______

鑑定結果

名前:ヒブナ(樹木)


______



「え?これしか分からないの?」


 クレアは威勢をそがれた様子で鑑定(植物)の効果を見た。


______

スキル:鑑定(植物)Lv.1

鑑定した植物の名前が分かる


______



「レベルが上がったらもっと分かるようになるのかな。じゃあいろんな植物を鑑定してみよっと」



 ***



〔条件を満たしました。スキル:鑑定(植物)Lv.2を手に入れました。このスキルは公開できません〕


 スキルのレベルを上げるのに3時間もかかった。クレアは苦労の成果を見るためにやや前のめりになってその効果を見た。


______

スキル:鑑定(植物)Lv.2

鑑定した植物の名前とその詳細の一部が分かる


______



—うーんまあ何も分からないよりはましかな。及第点!じゃあ気になった植物をもう一度鑑定してみよう。


______

鑑定結果

名前:ヒブナ(樹木)

詳細:条件を満たすと発火する。

______

鑑定結果

名前:フウソウ(草花)

詳細:条件を満たすと強い風が吹く。

______

鑑定結果

名前:ミズギリ(樹木)

詳細:条件を満たすと水を放つ

______



—さっきよりはだいぶましになったけれど”条件を満たすと”っていう単語が多すぎてよく分からないな。まあこれからも頑張っていこう。

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