第24話 旅は続く




「本当に大丈夫なんですか?」


 大勢に見守られながら、セシルが村長へと問いかける。


 盗賊の襲撃から二日……シェリアたちはこの村を発つことにした。

 それは、犠牲者の弔いと焼かれてしまった家の片付けがある程度済み、これ以上は村人の負担になってしまうと考えたからだ。


「ええ……この村から三日程いった場所に村がありますので、今後はそこに厄介になろうかと思っています」


「そうじゃなくて、一緒に行かなくていいのかって言ってるんスよ? 森には獣も魔物も出るんスから」


 盗賊の脅威がなくなったとしても、森が安全になったわけではない。

 大人数で移動するとあれば当然移動速度も落ちる。また、全員が狩りの経験があるわけではないので、それ相応に危険があるのだ。

 だからこそセシルが提案し、アリサが嫌そうにしながらも説明したのだが、村長はゆっくりと首を横に振った。


「それこそ、貴方たちに助けてもらうわけにはいきませんよ。盗賊の討伐をしていただけたのですから、これ以上は自分たちでどうにか出来ます」


「そうですか……」


 少し心配そうであったが、これ以上言っても意味がないと察したのだろう。セシルが口を閉ざす。

 すると、聖国出身の二人へ向いていた村長の眼差しが、今度はシェリアへと移動した。


「シェリア殿、村を代表して言わせていただきます。この度はありがとうございました」


「いえ、私は……」

 

 ——お礼を言われるようなことはしていない。


 後悔を経て、心は先を目指している。

 しかし、そう簡単に切り替えられるものでもないのだ。


 シェリアがどう応えるべきか悩んでいると、不意に村長がシェリアの元へ歩き、その手を優しく握る。


「貴方のせいではありませんよ……いずれは破綻していたはずの生活です。それが早まっただけで、そう遠くないうちにもっと大変なことになっていたと思います」


「…………」


「だから、我々の感謝を受け取っていただけないでしょうか?」


 笑みを絶やさず、真っ直ぐにシェリアの目を見つめる村長。

 その優しい眼差しを受け、シェリアは小さく息を吐き出す。


「そうね……分かったわ」


「ありがとうございます……これは、ささやかですが旅の助けにしてください」


 手を放し、後ろからやってきた村人から何かを受け取ると、村長はそのままそれをシェリアへと手渡す。

 それは、この村では貴重なはずの作物だ。

 たしかに多くはない。けれど、決して少なくない量にシェリアは村長を見返した。


「こんな貴重なものを……」


「受け取ってください。隣の村に移動するにも全てを持っていくことは出来ませんから」


「……分かったわ。ありがとう」


 そう言われてしまっては断るわけにはいかない。

 シェリアは作物をアインへと渡し、彼はそれをこの村に滞在している間に作ったバックにしまい込んだ。


「では、貴方たちの旅が無事にいくよう祈っております」


「ええ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「ありがとうっス~」


 列をなして頭を下げる村人たち礼を告げ、踵を返す。

 そうして歩き出し、途中で振り返ってみればまだ村人たちは頭を下げ続けていた。


「シェリア?」


「いえ、行きましょう」


 再び歩き出す。

 目的地は北西……聖国への道の途中にあるこの国の王都だ。


 そんな四人の頭上に光る太陽は、旅を祝うように輝いていた。

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