第18話 仮面を剥がす
初めに——
この章が終了するまで毎日投稿する予定だったのですが、PCのトラブルがあって昨日更新できませんでした。申し訳ありません。
代わりに、今日は二話更新しますので、お楽しみいただけたら幸いです。
では、本編へどうぞ——
「はっ! 行かせるかよ!」
走り去る二人を追おうと、盗賊たちが駆けだす。
しかし、その道筋をアリサは立ちふさがるように塞いだ。
「行かせないっスよ~」
「ちっ!」
足を止め、警戒を露わにする盗賊たち。
その姿に、アリサはさらに笑みを深める。
「……アリサ」
「分かってるっスよ。殺しはしないっス……でも、こいつらは悪人っスよ? 多少の怪我は許してほしいっスね」
「余裕だな……」
セシルとのやり取りに眉を寄せたのは盗賊の一人だ。
しかし、関係ない。
「そりゃあ、言葉通り余裕っスからね。むしろ、不確定要素が無くなった分、楽になっちゃったのが残念っすかねぇ~」
ここにいるのは自分と護衛対象と敵のみ。
護衛する人間が増える分にはこの程度では問題ないが、余計な動きをする人間がいなくなった分、気楽というものだ。
「……舐めてくれるじゃねぇか」
「いやいや、三流……いや、ここまでいくと五流っスかね? その程度に舐めるとか関係ないっスよ。実力差がありすぎるっスからね」
「てめぇ……」
「文句があるならかかってくるっスよ。それとも洞窟の中にいる人たちも呼んでくるっスか? その方が面倒も無いっスから」
「舐めるんじゃねぇぇぇぇ!!!」
盗賊の怒号と共に、四人の男たちが同時に動き出す。
それを見届けてから、アリサはスッと鞘ごと剣を抜いた。
「じゃあ、始めるとするっスか」
「聖女様、離れないで下さいっスぅ~」
「アリサ……もう少し真面目に出来ないの?」
「えぇ……今それを言うっスか……?」
瞬く間に見張りを張り倒して。
アリサとセシルの二人は洞窟の中に入っていた。
いま、二人がいるのはまだ洞窟の入り口だ。
最低限の松明によって灯された内部はあまり広くない。
広さとしては大人五、六人が並んで歩ける程度だろうか。アリサの剣は背丈に合わせて小さめに作られている分問題はないが、普通の剣を振り回すには少し心もとない。
乱戦となれば岩に剣をぶつけてしまい、欠けさせてしまう者も出るだろう。
「まあ、あの程度じゃなんの問題も無いっスけど……」
「アリサ?」
「何でもないっスよ~」
届いた声に軽い返事を返す。
「えっと、真面目にっスか? それは勘弁してほしいっスね……これでも、楽しくも何ともない盗賊退治を楽しくするために必死なんスよ?」
「アリサの実力があれば盗賊なんて問題ないとは思うけど……依頼できている以上は真面目にやらないとダメです」
「ええ!? それは勘弁っス!」
「……さっきから聞いてりゃあ、ずいぶんと余裕じゃねぇかよ」
洞窟の奥。
聞こえてきた声の方向を見れば、松明に微かに照らされている集団が立ちふさがっていた。
その中央、おそらくは盗賊の首領だろうか。ひときわ体の大きな男が大斧を肩に乗せながら薄ら笑みを浮かべていた。
「実際余裕なんスよ。でも、あんたは少し楽しめるっスかね? 五流ではなくて、四流っスか?」
「言ってくれるじゃねぇか。まあ、ウチのもんを瞬殺したっていうんだから間違いはねぇのか……」
「ちょっと!? 殺したなんで人聞きの悪いっすよ! 聖女様に怒られるじゃないっスか!?」
「……さすがにわかっていますよ?」
いつの間にか悪者のようにされてしまったセシルが苦笑い。
「がっはっはっ! 聖女様って言うことは、お前さんは聖国の騎士か!? そりゃあ強ええはずだ!」
「ようやく話が分かる人が現れたっスねぇ……で? 投降するっスか? 正直、戦っても暇つぶしにしかならないと思うっスから、投降してくれると嬉しいんスけど」
鞘を腰に戻し、腕を組む。
舐められている——そう感じたのだろう。首領以外の盗賊から敵意がむき出しになるが、中央の男は僅かに手をかざして抑えると、呆れたように息を吐き出した。
「そう挑発しないでくれねぇか? 勝手に動かれると面倒くせぇんだ」
「なら、ちゃんと手綱を握ることっスね」
「おうおう、痛いところを言ってくれる。それで、投降するかだが……」
ガツンと地面に斧を降ろし、悩む素振りを見せる首領。
彼は数秒の間考えるように視線を落とすと、もう一度斧を肩に乗せて。
「出来ねぇな」
「そうっスか」
「……驚かねぇんだな」
「そりゃあ、その方が面白いっスから」
「そうか……」
そう言い終えると、首領の男は無言で斧を構えだす。
投降は無理……それならば捉えるしかない。
「じゃあ、少しは楽しませて下さいっス、よ!」
アリサは再び鞘のまま剣を抜くと、一足で首領の眼前に躍り出た。
「ぐっ……!?」
「おや? 手を抜いたとはいえ耐えるとはやるっスねぇ……」
「…………はん……その余裕もそこまでだ……」
「ん?」
腹部にめり込んだ鞘をがっしりと掴み、男が呻きながらも笑みを浮かべる。
その直後、周囲にいた男の数人が懐から小さな石のようなものを取り出した。
「魔爆石だ……お前には勝てそうにないからな……せめて聖女様くらいは巻き添えにしてやる」
口元から血を流し、してやったりと笑みを浮かべている首領。
そんな男に対し、アリサはすぐさま言い放つ。
「いいっスよ」
「は……?」
「ちょっとアリサ!?」
「だって、聖女様は絶対大丈夫っスもん」
目を剥いて叫ぶセシルに、アリサは絶対の自信を持って言い切った。
「こっちはすぐに終わるっスから、聖女様は村へ戻ってくださいっス」
「……はっ! はったりにしちゃあ笑えねぇな……もういい、やれ……!」
「嘘ですよねっ!?」
聖女様の叫び虚しく、魔爆石を持った男たちは一斉にその石を放り投げる。
宙を舞う魔爆石。
放物線ではなく直線的に飛んだその石は、セシルの頭上にぶつかっていき——
「アリ——ッ!?」
名前を読んだであろう叫びは、耳を
ガラガラと大きな音を立てて崩れていく洞窟。
その音が鳴り止むときには、洞窟の入り口は完全に塞がれてしまっていた。
「ははは……護衛対象を見捨てるたぁ……とんだ護衛様だな」
鞘を握ったまま、男が嗤う。
だが、これも問題ない。
「だから大丈夫って言ったじゃないスか。聖女様は無傷っすよ」
「はん……見苦しい言い訳は——」
「そういう存在なんスよ。不幸体質かもしれないっスけど、その身に傷を負ったことは無いんス。あれはそういう常識外っスよ」
「なに……?」
アリサの紡いでいく言葉の意味が分からなかったのだろう。男は怪訝な表情を浮かべ、わずかに握る力を緩めた。
その隙を見計らい、アリサは男から鞘を引き剝がすと少しだけ後退する。
「まあ、関係ないっスよね。これ以上話しても無駄っスし」
「……余裕かましてんじゃねぇぞ? こっちに何人いると思ってんだ? 勝てねぇかもしれねぇが、差し違えるくらい——」
「出来ないっスよ」
「あ……?」
「あんたたちは私に傷なんて付けられない。あんたたちはこれから私に、一方的に、完全に、残虐に、無残に……ああ……」
笑みが抑えられない。
心臓の鼓動が異常に高くなり、体に熱を持ち始める。
だが、抑える必要は無い。
押さえる鎖は今はいない。
「…………少しの間かもしれないけど、我慢しなくていいのね……」
——惨劇が始まった。
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